インタビュー・文=蔵内 光(スポーツデジタルメディア編集講座1期生)
写真=兼子愼一郎
サッカー実況者は難しい仕事だ。しゃべる仕事にもかかわらず、目立ってはいけない。試合をいかに分かりやすく、そして正確に素早く伝えることができるか。
「実況はフリートークなので、人間性が出ます。やっぱり目立ちたがり屋の実況の方は目立ちたがり屋らしい実況をするし、そうでない人はそういう実況をする。その良し悪しは我々ではなく見ている人が決めるもので、答えはないと思います」
そう語るのは、日本を代表するスポーツコメンテーターにしてFootmediaの代表取締役も務める西岡明彦(にしおか・あきひこ)さんだ。Footmediaでは雑誌や書籍の編集、出版のほか、テレビやラジオ番組などの企画、制作、コメンテーターやライターの育成も手がけている。そんな西岡さんが、サッカーと本格的に関わるようになったのは高校生の時だという。
「通っていた中学校にサッカー部がなかったので、サッカーをするようになったのは高校からです。高校生のときには180センチぐらいあったので、サッカー部の中でもかなり大きいほうでした。よく言えば高木琢也みたいなポストプレイヤーでしたね(笑)。サッカーを始めたのが遅かったのもあって主力ではなかったんですが、あるとき『背が高いし10番をつけとけば相手が警戒するんじゃないか』という話になって(笑)。僕が競ってこぼれたボールを味方が詰めるみたいなシーンが多くて、僕自身のゴールは少なかったですね」
転機となったイングランド留学

大学卒業後は広島ホームテレビへ入社し、6年間勤めた。その後、1998年のフランスワールドカップの現地取材を最後に退社。それから1年間、ウエストミンスター大学へと留学した。その留学の経験が、仕事に対する考え方を大きく変えたという。
「自分のやりたいことに対して、ひたむきに進むことの大切さを学びました。僕がイングランドの語学学校に通っていたとき、そこで教えてくれていた先生が任期の途中でいなくなったんです。その理由が、さらにレベルの高い大学へのステップアップだった。日本人の感覚からすると、『え、僕らの先生は?』ってなるけど、向こうでは『彼にとっては良かったから、それでいいんだ』みたいな(笑)。その時にその人が望む人生を歩むことを、周りの人が尊重する。そんな経験から、僕も必要以上に縛られることはないなって思えたんです」
実況者としての仕事の流儀
言うに及ばず、サッカーを仕事として見ることと、趣味として見ることは全く異なる。サッカーはボールを追うように見ながら、時には守備側の陣形や選手のオフ・ザ・ボールの動きにも注目する必要がある。そんな中でも、西岡さんは試合を俯瞰して見ることを心がけていると言う。
「全体というか、できる限り俯瞰していろんなところを見ています。ボールよりもボールを持ってない選手の動きに注目したり、Jリーグだとベンチやアップしているサブを見ていますね。映像を見ている人はボールに集中するので、それ以外の情報を提供してあげないといけないんです」
試合を実況しているときは臨場感を伝えながらも、あくまでも目線はフラットだ。イングランド留学中、最も家が近いという理由でアーセナルの試合に足繁く通った。しかし仕事になれば、私情は持ち込まない。
「普通の人だったら自分の好きなチームやリーグを中心に見ると思うんですが、僕は次に実況をする試合を逆算しながら、試合を見ないといけない。たとえばアーセナルが好きだからといって、ずっとアーセナルの試合を見ているわけにはいかない。基本的には週末の仕事の準備として、平日に試合を見ます。良い準備がないと良い放送にはならないので」
では、実況者に求められる要素とは何なのか。自分自身で確認するかのように、こう語ってくれた。
「そのスポーツが好きで、さらにコミュニケーションが取れる人じゃないと務まらないですね。解説の人やスタッフの人がたくさんいる中で会話ができないといけないし、気配りもできないといけない。主役はサッカーとそこにいる解説の方であって、僕らの仕事はその人たちの考えを引き出すこと。『この選手は良いですね』と僕たちが言うよりは、元日本代表の方が『彼は良いですね』と言ったほうがよほど重みがある。しゃべる仕事だけど、目立ってはいけない」
サッカーの何でも屋

実況者として活躍する傍ら、西岡さんはFootmediaの代表取締役としての仕事も並行している。そんな現在の自分を「サッカーの何でも屋」と表現してくれた。
「サッカーだったら何でもやりますよ。リサーチもするし、委託を受けて記事も書きます。個人としてはサッカーに関わっていることならなんでも、という感じで生きていきたいと思っています。実況者を60歳、70歳までやれるかは分からない。時代とともに世代交代が必要になると思います。そうなったときに実況という形以外でサッカーに関わっていきたいなと」
好きなことを仕事にするは難しいのではないかという質問には、自身の体験も踏まえて次のように答えてくれた。
「仕事には当然、責任が伴います。だから中途半端な“好き”だと務まらない。僕らは土日に仕事があるじゃないですか。なので家族の用事にはほぼ参加できないんです。それに夜中の試合を見るのがきついと思ったら、多分続かない。そうした感情よりも『どんな試合になるか』という期待感や、その試合をどう皆さんに見ていただこうかという気持ちが上回らないと続かない。僕の場合は、そもそもそれがしたくて会社をやめたんですけどね」
「サッカーを仕事にできる人を一人でも増やしたい」
最後に心の根底にあるサッカーへの気持ちを、真剣な眼差しで語ってくれた。
「メディアに出ることと会社をやることは違うと思うんですけど、やっている目的は同じです。放送や会社の経営をしていくことで、サッカーを仕事にできる人を一人でも増やしたい。サッカーが好きで、なおかつそれを仕事にしている人が増えれば、それだけサッカーに関わるマーケットが拡大していく。サッカー関係者が1万人いるのと100万人いるのとでは、露出という部分も含めてすべてが変わってくると思うんです。最近はかつて一緒に仕事をした人間がいろんなチームにいるんですが、どこのチームにいっても知り合いがいるという状況をつくることが目標の一つです」
インタビュー中も気遣いを忘れず真面目に答えるその姿を見ると、ある会話を思い出した。
「好きな選手はベルカンプです。うまいしクール。だけど派手さがないというか、あまり派手なセレブレーションはしないというか。振る舞いやたたずまいが格好いい」
実況者のフリートークには性格が表れる。もしかしすると西岡さんの実況者としての根底には、ベルカンプがあるのかもしれない。プレーで魅せる選手とは違って華やかではないかもしれない。しかし、声で魅せる彼らも立派な主役だと私は思う。
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