5月3日に行われた磐田戦で、浦和はファミリーや子どもを対象にした過去最大規模のイベントを開催した
柔らかな芝生の広場が、子どもたちの笑顔でいっぱいになっていた。新緑の木陰では、家族連れがピクニックさながらシートを広げてくつろいでいる。見ているだけで幸せになる光景だ。
ゴールデンウィークまっただ中の5月3日。明治安田生命J1リーグ第10節ジュビロ磐田戦が行われたこの日、浦和レッズは「Go Go REDS!デー」と称し、小中高生を対象に、指定席を含む全席種550円の特別チケットを販売した。
大勢の来場者を呼び込むからには、「次もまた行きたい」と思ってもらうことが重要になる。そこでクラブが目玉として打ち出したのが「キッズワンダーランド」。午前10時からキックオフ時刻である午後2時までのたっぷり4時間、埼玉スタジアム周辺の広場をふんだんに使い、楽しいアトラクションを数多く用意した。
メインゲートに近い広場では、「SR(埼玉高速鉄道)2000系のミニトレイン」が子どもたちを乗せて走っている。我が子の笑顔をカメラやスマホに収めるママやパパたちも笑顔になる。定番の人気アトラクション「ふわふわ」のサッカーボール版は長蛇の列ができる大人気。
芝生の広場に足を伸ばせば、見るからに楽しい「バブルサッカー」や「フットダーツ」に夢中になっている子どもたち。このほかにもウサギ、ヤギなどの動物たちを間近に見られる「ふれあい動物園」や、浦和レッズの“こころ”を象徴する「ハートフルサッカー」など、盛りだくさんのイベントが開催された。その数は10種類以上。クラブによると、これほどの種類をそろえたことは今までなかったという。
1つ1つを見れば驚くようなものがあるわけではないが、だからこそ、どれも親子で気軽に参加できるものばかり。この日は汗ばむ陽気と青空にも恵まれ、来場者は53,361人を記録した。4月20日のヴィッセル神戸戦に続き、ホームゲーム2試合連続の5万人超えという大盛況で、浦和レッズのホームゲームは休日の「レジャー」やファミリーにぴったりの「お出かけ先」という選択肢にもなり得ることを示すものとなった。
浦和レッズの“イメージ”と“課題”
イベントの様子を観察しながらスタジアム周りを歩いていると、「レッズも最近変わってきているよね」「こういうのは楽しいよね」という声が聞こえてきたのだが、実のところ、その通りなのである。
浦和レッズと言えば、“赤一色で埋まったスタジアム”というイメージを持たれることが多いと思う。世界のサッカー通の間でも、スタジアムが発する熱量はアジアナンバーワンと表されることも多く、2017年には米国FOXテレビが「世界の熱狂的なサポーター5選」としてバルセロナなどとともに、サッカーが国技とも言えるような国々のある南米や、サッカーが文化として根付いているヨーロッパ以外から唯一、日本の浦和レッズを選んでいる。
しかも、単なるイメージからの選出ではなく、数字の裏付けもある。スイスのサッカー専門調査機関「CIES Football Observatory」は今年4月に、全世界のサッカーリーグを対象にした観客動員数に関するレポートを公開。そこに、42カ国の51リーグを2013年から18年まで調査した結果を元に作成したクラブ別平均観客動員数ランキングを掲載し、浦和レッズが日本勢として唯一のトップ50入りを果たした。
トップ50の内、1位はかつて香川真司を擁したドルトムント(ドイツ)、2位はマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)、3位はバルセロナ(スペイン)と、そうそうたる顔ぶれ。以下、25位にパリ・サンジェルマン(フランス)、32位にミラン(イタリア)など有名クラブが名を連ねる中、浦和レッズは堂々の48位にランキングされている。 世界が見るイメージは、Jリーグの公式データにもはっきりと出ており、2006年から13シーズン連続でJリーグ最多入場者数を記録しているのが浦和レッズだ。しかも単純に人数が多いだけではなく、有料入場者がほとんどを占めていることが大きな特徴として挙げられる。
Jリーグ観戦者調査によれば、観戦の動機として「無償チケット」と答えた割合はリーグ最下位で、入場料収入はJ1の他クラブ平均の3.3倍。もちろんJリーグ最多だ。また、観戦歴が10年以上のファン・サポーターがリーグで最も多いという特徴もある。
一方で、課題もある。これは伸びしろとも捉えることのできる要素だが、観戦者の新規参入率がリーグでは下のほうにいるのだ。
クラブの未来を見据えたミッション
その影響が顕著に出ているのが、5万人以上が来場した試合の数。ここ数年は最盛期に比べて大幅に少なくなっていた。浦和レッズのリーグ戦ホームゲームで2試合以上連続して入場者数が5万人を超えたのは、2005年が初。以後、リーグ初優勝やアジア初制覇を飾る黄金期を経験した2006年から2008年までの3年間は、リーグ戦だけでも5万人超えが24試合あった。
けれどもタイトルから遠ざかった2009年以降は5万人以上の試合が減少し、2010年から2018年までの9年間を見ると、2試合連続で5万人を超えたのは2014年の一度だけだった。
この状況を打破するにはどうすればいいか。それには新規のファンを増やすことに力を注がなければならない。
だが一方で、浦和レッズには四半世紀の間、ぶれることなく保ってきた「硬派な応援スタイル」があり、それは「浦和レッズ」の名を世界に知らしめる原動力でもある。当然ながら、「浦和レッズ」をライフスタイルの中に組み込んでいる既存のサポーターの心情も汲まなければならない。
毎年2万人を超えるシーズンチケット保有者の満足感を高いレベルで保ったまま、新しいファンを呼び込むための施策を両立させるのは、非常に難しいミッションだ。だが、クラブ設立から四半世紀が過ぎ、75年先、あるいは100年先の未来を見つめたとき、正面を向いて「新規ファン」の獲得に乗り出さなければならないことは明らかだった。
こうしてクラブは今シーズン、埼玉スタジアムが完成した2001年以来、最大規模となる席割りの改革を実施。「ストロングスタイル」と呼ばれる硬派な空間を維持しながら、一方で新規ファンの心理的ハードルを下げる施策を次々と発表している。試合ごとに内容を変える「企画シート」はその一例で、映画「翔んで埼玉」とのコラボ商品を付けたチケットの販売は映画の大ヒットとも相まって話題になった。
この流れの一環として敢行されたのが、冒頭で紹介した「Go Go REDS!デー」であり「キッズワンダーランド」だった。2014年以来となる2試合連続の5万人超えは、スタジアムに活気をもたらした。
そもそも、5万人という数はどれだけすごいのか。それは、J1の18クラブの中で、ホームスタジアムの収容人数が5万人を超えるのは浦和レッズと横浜F・マリノスだけということからも明らかであり、しかも横浜FMのホームゲーム5万人超は過去10年間に2度あったのみである。
「本物志向」という軸はぶれない
3日のジュビロ磐田戦。スタジアム周りで賑やかに開催された楽しい“イベントタイム”はキックオフ時刻の午後2時に終了し、そこからの2時間はプロの醍醐味をライブで味わう“サッカータイム”へと鮮やかに切り替わった。
普段以上とも言える隙間のなさで席が埋まった北側ゴール裏のボルテージは、新しく訪れたファンの胸をも揺さぶったに違いない。ついさっきまで広場で楽しんでいた子どもたちも、アトラクションで遊んでいるとき以上に目をキラキラさせていた。
浦和レッズのホームゲームでは試合毎にさまざまなイベントがあり、ファミリーにとっては「レジャー」としての選択肢にもなり得る。一方でクラブは「本物志向」という軸をしっかり保つことにも心血を注いでいる。なぜならシーズンチケット保有者の数は2万人超とJクラブの中で突出しており、彼らコアなファンの存在がどれだけ浦和レッズの価値を高めているかを十二分に理解しているからだ。シーズンチケット保有者との価値観の共有は、今までもそうであったように、これからもこのクラブにとって極めて重要なアイデンティティである。
6万3000席を収容する、アジア最大級のサッカー専用スタジアムである埼玉スタジアムを、多様化するニーズに合わせて柔軟に運用するという難しいミッションに勇気を持って取り組んでいる浦和レッズ。彼らが見せる「本気」の熱量はどんどん上がっている。
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