プロ入り3年目、ヴィッセル神戸の古橋亨梧は自身のプレースタイルを象徴するかのように、猛スピードで成長の階段を駆け上がっている。
生まれ育った奈良県の街クラブから強豪校、FC岐阜、そして神戸と着実にステップアップしている俊英は、アンドレス・イニエスタをはじめとした“クラック”に囲まれても、特長をいかんなく発揮している。その活躍ぶりから、日の丸を背負うことを期待する声も日に日に高まっている。
古橋の今を作り上げた礎は何なのか。学生時代を振り返ってもらい、ルーツを探った。
取材・文=小松春生
写真=吉田孝光
―――古橋選手はどんなサッカー少年でしたか?
古橋亨梧(以下、古橋) 足が速かったので、ただひたすらボールを追いかけることに夢中で、シュートを打ってゴールを決めることしか考えていなかったです。サッカーを始めたきっかけは、小学1年生くらいの時に、近所のお兄ちゃんがサッカーをやっているのを見て、「かっこいい」と思ったからです。そして、親に「サッカーがしたい」と言いました。3歳から水泳をやっていたんですけど、親に初めて自分の希望を伝えました。
―――サッカーを始めた当初からポジションは前線を?
古橋 気づいたらFWでしたね(笑)。足が速かったので、前でボールを追いかけてシュートを打っていました。点を取るのが気持ち良かったんです。
―――性格がFWに向いているという感覚はありましたか?
古橋 昔からずっとなんですが、普段はシャイで大人しいタイプで、慣れるまでは自分から話かけることが、あまりできないタイプなんです。でも、サッカーだと人が変わったかのように負けず嫌いになるので、そういう点はFWに向いているかもしれません。周囲の人からも「サッカーをしている時と普段のイメージが全然違う」とよく言われます。
―――サッカーへの向き合い方は、最初「楽しさ」が占めていたと思いますが、年齢を重ねると意識も変わります。サッカーで生きていく、と考え始めたのはいつ頃ですか?
古橋 中学入学の時、周囲の子たちが、あまり行きたがらないチームでプレーすることを選んだんです。みんなと違う道を自分で選んだことが大きかったですね。
―――行きたがらなかったと言いますと?
古橋 強く、厳しいチームだったんです。小学校の時、敵わない相手だったので、「そこに行きたい」という子はあまりいなくて。僕も「行く」と自分で言ったにも関わらず、最初は、めちゃめちゃ嫌がって、泣きながら「帰る!」とか言っていたんですけどね(笑)。でも、いざ入ってみればみんな優しかったですし、一段と成長できた感覚があります。そして、奈良から大阪の興國高校へ一人で進学して、そこでまた素晴らしい指導者に出会えて。1年生から使ってもらえましたし、いい経験ができました。大学も親元を離れて初めての東京で、両親の大切さ、いろいろなことをしてもらっていたんだ、ということを実感して自立できましたね。
―――「嫌だ」と思いながらも通い続けた理由は、プロになるには行かないといけない、というような気持ちがあったからですか?
古橋 当時、プロ選手というのはあまり意識していませんでした。とにかく厳しいチーム、監督がすごく怖いイメージがあって。練習場まで行っても、一歩踏み込めず、ずっとウジウジしていました(笑)。最後は監督が来て、「行くぞ」と強引に連れて行ってくれて。練習でもみんな優しくて、自分で決めたことではありましたけど、周りの人たちが導いてくれました。
―――レベルの高いチームでプレーを続けていくことに、生まれ持った負けず嫌いな気持ちは生かされましたか?
古橋 さらに強くなりましたね。監督も負けるのが嫌いで、負けたらよく怒られていましたし、怒られるのが嫌だったので僕も必死にやっていました。メンタルも強くなりましたし、負けず嫌いの気持ちも強くなりました。
―――高校は奈良から大阪の強豪校に向うことになります。
古橋 中学時代に高校のチームと対戦する機会があって、もちろん力の差がある中で、必死にもがいてやった結果、練習に呼んでもらったんです。高校時代はつらかったですね。チームメイトはすでに大阪で有名だった選手が多く、僕は奈良でも名が知られていたわけではなかったので、経験や技術の差を痛感しました。でも、根気よく使ってもらえましたし、周りに刺激されながら練習を頑張っていたので、いい経験になったと思います。
―――仲間にはJクラブのジュニアユースでプレーしていた選手もたくさんいたと思います。一方で古橋選手は街クラブ出身。プライドもあったのではないでしょうか。
古橋 プライドというより、「意地でもついていって、意地でも抜いたる」という気持ちでした。
―――そこまで「負けたくない」という気持ちに駆り立てるものは何ですか?
古橋 FWなので、単純に1対1で負けたくないし、試合に負けたくない。1本のシュートや1本のドリブル、1本のスプリントでも相手に負けたくないんです。普段は「クソっ」って思うこともありますけど、表には出しません。学生時代も両親に怒られても、反発はしないようにしていました。少し出ちゃうこともありましたけどね(笑)。
―――高校卒業後は中央大学に進学したため、上京することになります。
古橋 寮生活で洗濯や掃除をして、ご飯がない時は自分で作ったりもして。こんなにもしんどいことを両親が毎日やってくれていたんだと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。社会性もサッカーを通じて学んでこれました。
―――現在プロ3年目なので、学生時代から時間が経過しているわけではありませんが、当時の自分にアドバイスしたいことはありますか?
古橋 小中高大といろいろ挫折したり、ケガしたり、怒られてきたからこそ今があるかなと思っているので、過去に戻って何か言えるとしても、言うことはないです。
―――挫折とは?
古橋 挫折というより、調子に乗ってしまった時期があるんです。大学1年の時、試合に出て、点も決め、全日本選抜に入れてもらったりもして。「俺はできる」と思い込んでいた時期がありました。それで舞い上がっちゃって、自分のプレーを見失って、「何やっているんだ」と。
―――「俺はできる」という気持ちは必要な部分でもあります。それを無くしたら、牙が抜かれるような。バランスを見つける難しさがあったのかな、と。
古橋 全国に出たことがなかった選手でしたし、どちらかというと努力して努力して、一つ一つ積み重ねていくタイプなのに、鼻が伸びて、努力を怠ってしまって。自分の実力が伴っていないのに調子に乗っていたので、それは良くないと、出会った指導者、選手、両親にも言われて気づきました。自分がどれだけ「偉い」と思ってしまっているかを気づかされて、そこからはどれだけ調子良くても、「まだまだ頑張らないと上には上がいる」と、改めて思えるようになりました。ある意味、学生時代に気づけて良かったです。
―――足元事情についてうかがいます。スパイクへのこだわりは昔から同じですか?
古橋 中学、高校くらいまではカッコいいと思ったものを履いていました。○○選手が履いているから、とか。でも、高校3年生の時に、プレー中にフィット感と軽さが大事だと気づいたんです。
―――古橋選手のストロングポイントであるスピード、特にアジリティやスプリントの部分で、大切な項目ですね。
古橋 そうですね。試合のアップに行くときも、スパイクを履いた時に「今日いけるわ」っていう感覚が毎回あって、それくらいフィット感があるので気に入っていますね。アシックスのDS LIGHT X-FLY 4をご縁があって履かせてもらった時、フィット感にめちゃめちゃビックリしました。そこから自分の調子も上がったので、キッカケをくれたとも思っています。
―――ご自身の経験を踏まえ、サッカーをしている中高生に向け、スパイクの選び方のアドバイスはありますか?
古橋 先ほど挙げたフィット感と軽さです。自分の足に合ってないと靴擦れをしたり、ケガをしやすくなると思うので、自分の履いた感覚を大切にしてほしいです。
■DS LIGHT X-FLY 4
素足感覚を求めるフットボーラーに薦めるフィット性に優れたカンガルー表革トップモデル
■プラチナムカンガルーレザー
厳選されたアッパー素材が生み出す、きわめて上質な足入れを実現。
■MOIS TECT(モイステクト)
コンディションに左右される事なく天然皮革モデルを履きたいというリクエストに応えるため、プラチナムカンガルーレザーに雨天使用後も硬くなりにくいMOIS TECT加工をプラス。
■トウ構造
「DS LIGHT X-FLY 3」よりも低密度・低反発のスポンジ材を使用し、よりやわらかいボールタッチ感を追求。
■アウターソール
軽量性に優れたナイロン+ウレタンソール。中足部の内外非対称なリブ形状(縦のスジ)を採用し、剛性を確保しながら、外側へのねじれを軽減。
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長