[写真]=平柳麻衣
「チャンピオンになるためにここに来た」
1月15日、ピーター・クラモフスキー新監督は最初のミーティングで見事に選手たちの心を射止めた。指揮官の熱量を「食らった」という言葉で表現したのは、プロ6年目の金子翔太だ。
「監督は『ここでトロフィーを掲げたい。みんな、本当に実現できるのか?と思っているかもしれないけど、横浜F・マリノスに入った時も同じことを言った。今、ここでも同じことを言う』とおっしゃった。それで本気度が伝わってきたし、ミーティングルームの雰囲気がガラッと変わった」
金子をはじめ、在籍している選手の多くが“優勝争いを演じる清水エスパルス”を知らない。特に近年加入した選手は残留争いやJ2降格を経験し、「とてもじゃないけど『優勝』なんて言えないサッカーしか見せられていない」(金子)状態だった。
しかし昨シーズン、ヘッドコーチとして横浜FMのJ1優勝に貢献したクラモフスキー氏は、清水に漂っていた停滞感を第一声で払拭してみせた。石毛秀樹が「常に一番上を見ながら取り組み続けることで、チームは必ず前進する」と話したように、選手たちの目線も明らかに上がった。
新監督が志向するスタイルは、横浜FMで実践していたハイライン・ハイプレスを用いた“アタッキングフットボール”を踏襲している。練習メニューは実戦を意識しつつ「ゴール」「走行距離」「スプリント数」「ポゼッション」の4項目で高い数字を打ち出すために、とにかく強度が高い。選手たちは肉体的なキツさを口にしながらも、その表情は生き生きとしている。昨シーズンまでのサッカーは防戦一方となる時間帯が長かった。そこからの脱却は楽しみで仕方がないといった様子だ。
取り組むサッカーは180度変わる。しかし、一番変わらなければいけないのは、ピッチに立つ選手たちのメンタル面。リーグ最多の69失点を記録した昨シーズンは、失点直後にガックリと気落ちしてしまい、大量失点を重ねる試合も一度や二度ではなかった。新たなスタイルに挑戦する今シーズンは、ハイラインを用いるためにリスクを伴う。「一昨年、昨年の横浜FMを見ても、ミスは絶対に起こりうるサッカー」(西部洋平)だからこそ、意識の変化が必要だ。
「『ハイライン=リスク』だと思いながらやっていたら、このサッカーは始まらない。ハイラインをリスクだと思わないぐらいの技術とメンタルを備えないと。それに、後ろの選手は失点数にこだわるけど、前の選手はもっと点を取りに行く気持ちを強く持っていい。もちろん、実際にはバランスを取りながらプレーしなきゃいけないけど、気持ちの面だけなら、極端に言えば『3点取られても4点取って勝てばいい』ぐらいの感覚でいい」(西部)
今シーズン最初の公式戦となった16日のルヴァンカップ・川崎フロンターレ戦は1-5と大敗した。まだまだ課題は山積みだが、スコアが表すほどの悲壮感に包まれていないのは、石毛が挙げた1点に新たなスタイルの光明が見えたからこそ。成熟するまでに時間が掛かることは覚悟の上。だから「今はこのサッカーをやり続けるだけ」(立田悠悟)。ブレずに突き進んだ先に、栄光の時代が幕を開けると信じて――。
【KEY PLAYER】MF 20 中村慶太
西部が言う「3点取られても4点取って勝てばいい」気概を持った選手に、中村慶太が挙げられる。「ちょっとやそっとのことじゃ全然へこたれない。ま、しゃーないわって思っちゃう(笑)」というポジティブ人間だ。「性格に裏表がなくて明るいし、本当に誰とでも仲良くしゃべる」(鄭大世)から、自然と周囲の人を惹きつけ、人懐っこい笑顔でファン・サポーターを魅了している。
清水に加入して1年目の昨シーズンはケガに苦しんだが、コンディション調整やケアの仕方を見直し、シーズンオフの間にしっかりと体を仕上げた。2月上旬に行われたYO-YOテストでは、チーム内屈指の運動量を誇る金子を抑え、堂々の1位に輝いたほどだ。
ドリブラーでありながら、キック力や視野の広さ、ワンタッチパスのセンスも兼ね備える。その彼がピッチの上で“王様”のようにならず、献身的なプレーも惜しまない理由は辿ってきたキャリアにある。過去に所属した流通経済大学付属柏高校、流通経済大学、V・ファーレン長崎ではいずれも運動量やハードワークが重視され、中村が自己中心的なプレーを見せようものなら、容赦なく先発から外された。学生時代は納得がいかず、反発することもあったものの、長崎でチームプレーの大切さを学んで改心。我慢強く戦える選手に成長を遂げた。
サッカー選手として肉体的にはピークと言える26歳にして、クラモフスキー監督との出会いはまさに運命。「やっと自分がやりたいサッカーと出会えた。今が一番、サッカーが楽しい」と充実感を漂わせる中村は、新生・清水の攻撃にアクセントをもたらす。
文=平柳麻衣
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By 平柳麻衣