Jリーグ再開に向け意欲をみなぎらせた室屋 [写真]=元川悦子
「(2月25日にJリーグの試合延期が決まった時)少しは休みがあるかなと思ってたんですけど、2日休んだだけでかなりハードに練習してます。全然落としてないし、むしろ激しくなった感じ(笑)。練習試合もできそうだし、モチベーションを高く持って調整しています。僕自身も今はすごく元気ですよ」
真冬の寒さが戻ってきた3月4日。FC東京が今月に入って初めてメディアに練習を公開した。7対7の実戦形式など負荷の高い内容が1時間半にわたって行われる中、室屋成はキレのある動きを披露した。攻守の切り替えを意識したメニューでは、カットインから強烈な左足シュートを決めていた。
「基本的に練習ではシュートを結構決めるんですけど、試合じゃあんまり決めないんで(苦笑)。(1月28日のセレスネグロスとの)ACLプレーオフでは点を取りましたけど、まだまだ足りない。点の取れるサイドバックになりたいですね」と、彼は意欲を口にした。
向上心を前面に押し出したのは、室屋だけではなかった。2020年東京五輪代表入りを目指す田川亨介は「今年は移籍2年目だし、困った時に何をやれるかを意識してやっていきたい」と目を輝かせ、ヴィッセル神戸から戻ってきた三田啓貴も「イニエスタを間近で見て学ぶところはすごくあった。中盤の頭を超えていくような攻めだけじゃなく、中盤を経由して組み立てていくパターンも増やしたい」と語気を強めた。彼らは18日に予定されるJリーグ再開に向けて集中を高めようとしている。
しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大で突如として試合が延期された先週はチーム全体が困惑し、異様な空気が流れたという。
長谷川監督は選手たちの苦しい胸の内をこう代弁する。
「先週は選手も不安があり、練習でも気もそぞろという感じでしたね。戦術的なトレーニングをやってもあまり乗ってこなかったんで、ゲーム形式やボール回し系を多くしたり、体を動かしながらボールをしっかり触って、少しゲーム性もあるような工夫を凝らさないと、彼らも集中できない様子でした」
それでも、今週に入ってからは気持ちを切り替え、普段通りのいい緊張感を取り戻した。7日と11日に練習試合を組んだことも室屋らのモチベーションを引き上げたのだろう。「そこで実戦感覚とコンディションを高めたい」と指揮官は前向きに語ったが、この難しい状況をどう生かすかが、再開後の戦いを大きく左右する。それを全員がよく理解しているのだ。
ここまでACL3試合とJ1第1節・清水エスパルス戦の公式戦4試合を消化し、3勝1分の無敗と、今季序盤のFC東京はまずまずの滑り出しを見せている。だが、大卒新人の安部柊斗や中村帆高、新外国人のレアンドロやアダイウトンなど新戦力が多いこともあって、選手個々のコンビネーションや連携面はまだまだ完成したとは言い切れないものがある。4−3−3の新たなフォーメーションに挑んでいる点も選手たちにとっての難易度を上げている。公式戦が休止されたこの時期にそのあたり成熟度を上げたいというのが室屋の考えなのだ。
「現状では選手間の距離が少し遠くなったりしますし、この前の清水戦でも相手にボールを持たれてしまう時間も多かった。そこは気になりますね。やっぱり選手間の距離感というのは非常に大事になってくる。3トップシステムで戦うにしても、中盤とFWの距離、DFと中盤の距離をできるだけ近くして、1人の選手の周りに沢山の人数をかけることができればもっとよくなると思う。ここまでの戦いではまだ遠いなと感じることも少なくないので、改善していきたいですね」
彼の言うように連携・連動の部分がブラッシュアップされ、ケガで長期離脱している永井謙佑や東慶悟らが万全の状態で戻ってくれば、FC東京はより盤石な体制で戦えるようになる。「今季のウチは非常にポジション争いが激しい」と長谷川監督も自信を見せるが、リーグ中断期間が長くなればなるほど、中盤戦から後半戦にかけての試合日程が過密になる。そこをしっかりと乗り切り、戦力を落とさずに戦い抜けるようなベースを今のうちに作ることができれば、昨季あと一歩のところで逃したリーグタイトルにも手が届く。そう信じて、今の時期を最大限有効活用するしかないのだ。
そんなチームを絶対的右サイドバックの室屋は力強くけん引しなければならない。
「僕はインフルエンザにもかかったことはないんで。やっぱり健康維持は気持ちが大事だと思ってます」とフィジカル面に絶対的自信を見せた男の明るさと前向きさが、FC東京のJ1初制覇への重要なカギになりそうだ。
文=元川悦子
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By 元川悦子