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今を前向きに捉えられるか。再開後のJ1昇格へ、力を蓄える時|佐藤寿人(ジェフユナイテッド千葉/FW)

2020.04.13

[写真]=Jリーグ

「本当に大変な時期だけど、考え方次第ではあるかなと思っています。クラブが活動休止になり、練習ができなくなったことには正直、ストレスを感じています。だけど、Jリーグの場合は『まだ開幕していない。長いプレシーズンが続いている』と思っていれば、少しは気持ちも楽になりますよね。今は僕らがしっかり自己管理して、また試合がある日常を取り戻していかないといけないと思います」

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今月7日に全国7都府県に緊急事態宣言が出された。当該地域にホームを置くJクラブは次々と活動を休止している。今シーズン、尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督をチームに迎え、2009年以来のJ1復帰に向けてギアを上げていたジェフユナイテッド千葉も、同様の措置を取った。「当面の間」ということで、いつ再開できるか見通しが立たないため、選手たちも不安を感じているはずだ。

 そんな中、38歳の大ベテラン・佐藤寿人は現実を冷静に受け止めている。家族と過ごす時間が増えるなど、すべてがマイナスではないというのが彼の考え。そうやって何事も前向きに捉えられるのが、Jリーグ通算218ゴールという偉大な実績を残している名ストライカーの強みなのだ。

「中学生の次男は普段やらない読書をしたり、違ったことに取り組んでいます。物事って考え方一つで何でもポジティブにできる。外出自粛でみんなが家にいることで、家族でじっくり話をするいい機会にもなりますよね。実際、僕のところもそうなっています。コロナを機に手洗い・うがいという感染症予防意識も高まったと思う。そうやってできるだけプラスに考えていきたいですね」

 明けない夜はない。いつか必ず事態の収束が見えてくるはずだ。現状だとJリーグ再開は最短でも6月になりそうだが、戦いが再スタートすれば、J1昇格争いは熾烈を極めるのは間違いない。2月23日のJ2初戦・FC琉球戦を1−0で勝ち切った千葉といえども、今後も勝ち続けられる保証は全くない。長い長い中断期間に尹監督のサッカーへの理解度を高め、実践するための準備をできる限りしておくことが肝要なのだ。

「僕はセレッソ大阪にいた頃、現役時代の尹さんと一緒にやっていたので、どういう人柄かよく分かっています。厳しい練習を課す監督さんだけど、選手には愛情を持って接してくれる人。ただ、勝ちにこだわるところはすごいですね。チーム全体で守備をして、ボールを奪ってからショートカウンターで攻め切るという戦術も徹底している。我慢する時間が多いのは確かだけど、試合が終わった時に勝ってサポーターと喜び合うことが何よりも大事。開幕戦ではそれを感じられました。勝つことで自信を深めて、チーム全体にポジティブなつながりが生まれていけばいいと思います」と佐藤は“勝ち癖”をつけていくことの重要性を改めて強調していた。

 そういう中で自分が担うのは、スーパーサブ的な役割になるだろうと彼は自覚する。琉球戦は悔しいことにベンチ外だったが、再開後は超過密日程が想定されるだけに、誰もが戦力にならなければいけない。自分にも必要とされる時が来ると確信している。

「尹さんのサッカーはフィジカル的なものがより前線に求められるので、誰もがフルで戦って貢献するのは難しいんじゃないかと感じています。僕自身もスポットスポットで点を取らなきゃいけない時に十分、力になれると思っている。だからこそ、必要とされる時にピッチに立てる状態を常に作っておくことが大事なんです。今は38歳で、ケガなく、楽しく、サッカーをできる状態ですし、それを維持するように心掛けていきます」

 要所要所で結果を出し、チームを力強く支えてきたベテランを、佐藤は20年にわたる長いプロキャリアの中で何人も見てきた。C大阪時代であれば、小柄ながらパワフルで突破力に秀でた真中靖夫(茨城・境トリニタス監督)、サンフレッチェ広島時代であれば、主にセンターバックやボランチとして活躍した中島浩司が象徴的である。

 とりわけ、中島は現在の自身のロールモデルになっている。

「2012年に広島がJ1初優勝した時、ナカジさんの働きはすごかったですね。前年はほぼレギュラーとして出ていたのに、千葉(和彦、現名古屋)ちゃんが加入したことで出られなくなったんです。そんな時、ホームのジュビロ磐田戦(2012年7月7日)でアオ(青山敏弘)がケガをして、ナカジさんが途中から出て決勝点を奪った。あの一つのゴールがなければ、試合の勝利もなかったし、初優勝もなかった。34試合に出続けた選手が優勝に貢献したと言われるのはもちろんだけど、中身の濃さで言えば、本当に彼は凄かった。プロとしてあるべき姿を見せてもらったなと痛感しています。今シーズンが始まる前に『僕も2012年のナカジさんみたいになれれば』という話をみんなにしましたけど、必要な時に貢献できる存在になることを目指して、頑張っていきます」

 名古屋に在籍した2018年はJ1無得点、古巣・千葉に戻った2019年はJ2・2得点と、ゴールを量産してきた男にとって過去2年間は寂しい数字が続いた。そして今シーズンもコロナ騒動という予期せぬアクシデントに見舞われている。今は本当に辛いだろうし、鬱憤も貯まる一方だろうが、それを晴らすのはJリーグ再開後だ。今はじっくりと力を蓄えるべき時。多くのサポーターがゴールハンター・佐藤寿人の完全復活を心待ちにしている。

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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