2018年のリーグ戦で会話を交わす柏木と槙野 [写真]=©J.LEAGUE
新型コロナウイルスの感染者数減少で、制限付きのトレーニングを始めるJクラブがいくつか出てきたが、特定警戒都道府県にあるチームの活動再開はメドが立たないままだ。浦和レッズも現在はオンライントレーニングで体幹強化や筋トレなどを実施しているが、全員が一同に会することができるまでには、しばらく時間がかかると見られる。
「シーズン中とは全く違う生活スタイルになってしまいましたけど、今は午前中にトレーニングを行い、午後はB級指導者ライセンスの講義をパソコンで受けています。自分はサッカーで生きてきた人間だし、一番力を発揮できるのがフィールド。そのための準備に時間を割いています。あとはSNSの発信。どうすればいろんな人に届くかを考えて、動画を撮ったり、編集したりしています」と槙野智章が言えば、柏木陽介の方は「ちょうど子供が生まれたんで、嫁さんの実家の仙台に来ていて、毎日子供と犬の面倒を見ながらトレーニングしています。基本的には走りがメイン。有酸素で30~45分走ることは常に心掛けています。体幹や筋トレもできる限りやって、休みは週1回くらいしか取ってないです」とコメント。それぞれ規律ある生活を送っているという。
今月11日に33歳の誕生日を迎えた槙野、今年12月に同じく33歳になる柏木は、サッカー界の基準で見れば「ベテラン」と位置付けられる年齢だ。超過密日程が想定される公式戦再開後はフィジカル・メンタル的に厳しい中、結果を求められることになる。2月21日のJ1開幕・湘南ベルマーレ戦から3カ月近く実戦から遠ざかっている不安は皆無ではないだろうが、「自分を見つめ直せるいい時間になった」と口を揃える2人は、何をすべきかを明確に描くことができたという。
槙野がぶつかっていくのは「スタメン奪回」という大きなテーマだ。今季を迎えるに当たり、大槻毅監督が3バックから4バックへの布陣変更を行ったことでDFが1枠減り、開幕戦ではまさかのベンチスタートを強いられたからだ。2011年にチャレンジしたケルン時代は試合に出られず苦しんだ彼も、Jでの控えというのはサンフレッチェ広島に在籍した若手時代以来。2年前まで日の丸をつけてワールドカップの大舞台に立っていた人間だけに、その悔しさを晴らすべく、今は躍起になっているという。
「個人的にベンチに座るのはハッキリ言って面白くないですし、やっぱり試合に出て何かを残したい。開幕戦も『自分が出たらどうするか』と考えながら見ていました。再開後もベンチに座っているわけにはいかないので、今、できることに取り組むことが大事。その1つが上半身の強化。30代になって少し体の衰えを感じているのも事実なんで、新たなことにチャレンジしている段階です。このまま終わる僕じゃないし、33(歳)もベテランだと思っていないので、まだまだ世代交代の波に飲まれるわけにはいかない。再開後の僕のプレーと立ち位置を見てほしいと思います」と槙野は語気を強めていた。
柏木の方は、開幕こそ先発ボランチの座を確保したものの、実績ある青木拓也や成長著しい柴戸海、2列目もこなせる長澤和輝らが控えているため、安穏とはしていられない。大ベテランの阿部勇樹でさえもベンチに入れないのだから、いかにサバイバルが厳しいかを本人も痛感しているに違いない。
「去年、試合に出れなかったり、ケガをしたりして、チームに迷惑をかけたし、プレー面でも迷惑をかけました。それを踏まえて『今年はまたピッチに戻りたい』と頑張って開幕戦に出たところで今の状況になってしまった。ただ、その全てが自分を強くしてくれた。去年のしんどかった出来事が自分を一回り成長させてくれましたからね。それに『これからも長く現役でやりたい』と思わせてくれる時間にもなった。まずは35歳が1つの区切りだと思うんで、そこまで頑張れたら、38歳くらいまでやりたいと思ってます。
そのためにも、自分のよさを出すことですね。ボランチとしてどういうパスを出すかという選択がチームの攻撃のカギを握っていると思うし、守備の部分も相当求められている。人を動かして守備をすることを意識しないといけないし、周りとのコミュニケーションもより深めていく必要がありますね」と柏木は神妙な面持ちで語っていた。
かつて「調子乗り世代」の筆頭と言われ、ヤンチャなキャラクターが注目された2人も、今やチームや自身を冷静に客観視し、発言できるような人間的な器を身に着けた。それはチームにとっても大きな財産と言っていい。上には阿部や興梠慎三、西川周作ら30代半ば以降の年長者、下には橋岡大樹や荻原拓也といった若手を擁する幅広い年齢層の集団にあって、2人が果たすべき役割は少なくないのだ。
槙野が言うように「まだまだベテランとは言わせない」という強靭なメンタリティと卓越した経験値を注入してくれれば、浦和は再び頂点に上り詰めることができるはず。J再開は早くて7月と見られるが、今季リーグ席巻の牽引役となるべく、まずは自分自身を高めることに徹してもらいたい。
文=元川悦子
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By 元川悦子