©J.LEAGUE
あるテレビ番組で、お笑い芸人が「手紙をもらったんです」とうれしそうに話していた。ゴミ清掃員としても働く彼は、感謝の言葉が添えられたゴミ袋を見つけたという。新型コロナウイルスの感染リスクを抱えながらゴミ収集にあたる作業員に向けて、労いや感謝の気持ちを書いた手紙を貼る人が増えているようだ。「ほかの清掃員も手紙をもらったみたいで、喫煙所では『俺は3通もらった』、『いや、俺は4通もらったぞ』とマウントの取り合いになっていました」
温かい思いを受け取って嫌な気分になる人は、そういない。だけど、自分の思いをきちんと形にして伝えるのって意外と難しい。何かきっかけがあれば伝えられる(かもしれない)けれど、それはそれで改まった感じがして勇気がいるし、なんだか照れ臭い。だからタイムラインに流れてきたあるツイートを見て、すごいと思った。私なら恥ずかしくて躊躇してしまう。
4月26日、浦和レッズの長澤和輝選手はこうツイートした。「普段は言わないけど、連戦のGWに1人でもアウェイでも僕が出なくても、応援に来てくれる。ありがとう。今は家で無理せず体を大切に、これからもずっと長生きしてね」。母親に宛てたメッセージだった。最後に「大事な人に会えない今だからラブレターを送ってみては」という一文が添えられている。
#ツイートラブレター
GWに会えない誰かに想いを伝えるこの企画。僕は母親へ。
普段は言わないけど、連戦のGWに1人でもアウェイでも僕が出なくても、応援に来てくれる。ありがとう。今は家で無理せず体を大切に、これからもずっと長生きしてね。
大事な人に会えない今だからラブレターを送ってみては🥴 pic.twitter.com/eolunZCHpu— 長澤和輝 (@nagasaman1216) April 26, 2020
「正直、小っ恥ずかしかったですよ」と長澤選手は笑う。思い切って投稿したのは「人と直接会うことができない状況だからこそ、自分の気持ちを伝えられるような、何かムーブメントのようなものを作りたい」という考えからだった。クラブの広報担当・松本晃弘さん、ケルン時代から交流があるというTwitter Japanの北野達也さんとアイデアを出し合い、ハッシュタグをつけた企画を行うことした。

今回のTwitter企画について話してくれた長澤選手(写真は取材時の画面キャプチャ)
北野さんは言う。「本来なら、ゴールデンウィークは地元に帰って家族や友人と過ごしたり、旅行したりできる。でも今はそれができない状況で、選手もファンと触れ合う機会がなくなってしまった。だから普段なら面と向かって言えないことを、『#ツイートラブレター』というハッシュタグをつけて発信しようと呼びかけてみました」
「#ツイートラブレター」。ちょっとクサイけれど、誰もが一目で意図を理解できるのがいい。そして企画モノなら乗っかってみようかな、と思わせるのもいい。このハッシュタグをつけたツイートは浦和のOB選手やファン・サポーターにまで広がった。ほかにも、浦和はリーグ中断の間に「浦和レッズクイズ」や、タイミングよく画像を止めて遊ぶ「GIFタップチャレンジ」など様々なTwitter企画を実施している。これまで“硬派”なツイートが並んでいたタイムラインが賑やかになったと感じた人も多いだろう。松本さんは「シンプルに『これ、楽しいよね』と思ってもらえるような投稿をスタッフも意識した」と話す。
「浦和レッズはいろんな方に支えられて成り立っています。コロナ渦において、いつも支えてくれている人たちにどうやったら寄り添えるかを考えたときに、やることはシンプルだと思ったんです。みんなが笑顔になれたり、チームや選手の存在を感じられたり。そういう時間をどれだけ寄り添った形で提供できるか。私たちにとって新しい試みでした」

Zoomでの取材に応じてくれた松本さん(写真は取材時の画面キャプチャ)
もちろん、この取り組みを一過性のもので終わらせるつもりはない。これまでに蓄積したノウハウを生かし、今後はオンライン上でファン・サポーターと交流できる企画を考えているという。その一部を有料にしたり、動画広告を活用したりしてうまく収益化できれば、チケットやグッズの販売以外の収入源確保にもつながるはずだ。
浦和の魅力は、クラブとそれを支える人たちの間に生まれる圧倒的な熱量にある。長澤選手はこう語る。「リーグ再開に向けて、みんなが協力してやっていかないといけない。そのなかで、選手とスタッフで活発な意見交換ができています。いい流れができているので、僕たちが伝えたいことをどんどん形にしていきたい」。スタジアムで歓喜の瞬間を共有できない今、Twitterというプラットフォームが浦和レッズの熱量を高める新たな場所になる。
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By 高尾太恵子
サッカーキング編集部