長谷部監督は“アビスパスタイル”を掲げて、アグレッシブに戦うチームを率いる [写真提供]=アビスパ福岡
DAZNと18のスポーツメディアで取り組む「DAZN Jリーグ推進委員会」が、その活動の一環としてメディア連動企画を実施。Jリーグ再開に向けて、「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE- Supported by DAZN Jリーグ推進委員会」を立ち上げた。サッカーキングでは、アビスパ福岡を率いる長谷部茂利監督に“クラブ愛”について語ってもらった。
インタビュー=三島大輔
写真提供=アビスパ福岡
――新天地・アビスパ福岡での初戦はいきなりの“ダービー”でしたが、そこを勝利で終えていい形でシーズンに入った矢先で、新型コロナウイルスの影響によりJリーグが中断してしまいました。緊急事態宣言が全国に発出され、チームの活動さえもできなくなってしまった中、約2カ月間、ご自身はどんなことをされていましたか?
長谷部 選手たち同様、私自身も外出自粛をしていました。ただ、その中でできることを考え取り組んでいました。Zoomを使ったリモートワークを行いつつ、選手には自主トレ用のトレーニング項目にポイントをつけて渡して、「何ポイントまでは各自、自主トレの中でやってください」といった線引きをしていたのですが、選手たちもそれにきちんと取り組んでくれていました。
――トレーニングの設計や今後のプラン、対戦相手の分析なども行っていたのでしょうか?
長谷部 いつJリーグが再開するのか、対戦相手がどこになるのか、それらが分からない状況では、対戦相手についての分析はできません。ですから、対戦相手というよりは、自分たちのこれまでの内容やこれから向上しないといけない部分を中心に考えていました。それと、コンディショニングを上げることはほぼ不可能に近いですが、少しでもコンディションを落とさず維持できるように、働き掛けを行っていました。
――監督ご自身も遠征やキャンプでなかなかご家族と過ごす時間も少ないので、この期間は少しゆっくりと過ごせたのではないでしょうか。
長谷部 そうですね。家族と一緒に過ごす時間が長かったので、そこは良かったなと思います。ですが、その反面、独身者や単身で福岡に来ている人間にとっては少し苦しかったんじゃないのかなとも思いますね。
――ここまでピッチから離れることは過去になかったと思うのですが、長い期間ピッチから離れて、気づいたことは何かありますか?
長谷部 普遍的なものは間違いなくあるので、そこを突き詰めていかないといけないと改めて感じましたね。ボールを扱う技術だけではなく、戦わないといけない、走らないといけない、基礎体力は当然高くないといけない。当たり前のことですが、そういう部分は不変だと思います。チームには、戦術や最新のサッカーを海外から取り入れる人間がいます。そういった中で、自分たちのやり方を作っている状況です。結果がどうなるかは分かりませんが、それをこれからピッチで表現していきたいと思っています。現実的に試合で勝つために何をしたらいいのかと逆算しながら、すべて勝つことは難しいですが、そこに向かって、練習も含めて考えて構築しているところです。
――監督自身、昨シーズンは水戸ホーリーホックの監督として、J1まであと一歩のところまでチームを押し上げましたが、今シーズンは新たにチャレンジする道を選びました。その理由は何だったのでしょうか。
長谷部 まず、水戸で継続してやる、と考えは確かにありました。ただ、もう一つチャレンジ意欲を掻き立てられたというか、「福岡で監督をやらないか」というお話をいただいた時に、九州へ行って福岡で仕事を成し遂げたいという思いのほうが強かったのです。決して水戸を離れたかったということではありません。福岡へ行くということのほうが、さらに難しい仕事であるがゆえに挑戦したいという思いが強かったということです。
――長谷部監督は水戸のファン・サポーターの方にもとても愛されていましたし、逆に福岡のファン・サポーターの方は監督就任を大変歓迎してくれたと思いますが、両サポーターの思い、どう感じていますか?
長谷部 もし水戸のファン・サポーターがそういうふうに思っていただいていたのであれば、本当にありがたいことです。2年間一緒に戦っていただいたので、私には感謝の気持ちでいっぱいです。改めてお礼を言いたいですね。そして福岡のファン・サポーターを含めて福岡の皆さんはまだ、勝利した開幕戦の1試合しか見ていないので、「良かった」という意見を耳にも目にもしましたが、まだまだ戦いはこれからですので、シーズンが終わる時に皆さんに「良かった」と言ってもらえるように頑張ります。
――監督としてクラブに来るまでは、アビスパ福岡というクラブが監督の目にはどのように写っていましたか?
長谷部 ポテンシャルがある中で、なかなか優勝するという最高の結果がつかめないでいるなと感じていました。
――そう写っていた中で監督就任されたわけですが、実際にチームを指揮してみて、実際にはどんな印象ですか?
長谷部 最初から非常にみんなが協力的です。チームが一つになろうと選手にもチームにも問い掛けを行ってきて、全員で同じ方向を向けています。そういった意味では、指導初日から今までずっといい形で来ていますね。「何かがおかしい」と感じたこともなかったですし、最初から非常にいい形で今まで来ていると感じています。実際に選手のポテンシャルが高いので、開幕前のキャンプの時から「やれるんじゃないか」という手応えを感じていましたし、練習試合なども含めて、いろいろなトライをしながら、トライ&エラーでどんどん良くなっていっていると感じています、
――長谷部監督の作るチームは後半の苦しい時でも走れたり、頑張れるところが魅力だと感じています。走れなくなる時間帯で走れる、というのはすごい強みだと思います。練習からどんな意識づけをされているのですか?
長谷部 もともと選手が持っている能力もあると思います。走れる選手と走れない選手がいますし、技術が高い選手、守備ができる選手がいます。当然、全部できたほうがいいんですが、全部できる選手となると、なかなかチームに留まってくれない現実があります。ただ、私自身はそういうことを選手に求めます。走れないから10分間だけプレーしよう、ではなくて、常に走れる選手、常に守備ができる選手、攻撃もできる選手。当然そこに切り替えと言われるような場面もありますが、そういうことができる選手、やろうとする選手がピッチに立つべきだという考えの下、ピッチに送り込んでいます。
――そこが、指揮官としての軸みたいなものなんですね。
長谷部 そうです。これはいわば不変だと思います。これは昔から変わらないことですが、昔はそれを容認するというか、許してあげていたんだと思うんです。実際に口にはしませんが、技術が高い選手には守備しないことや走らないことを容認していた。ですが、今はもうそういう時代ではないと思います。11人全員が同じようなことを求められ、ポジションの特性も求められる時代です。サッカーのフェーズは、すでにそういうところに入っていると思いますので、私もそれを求めてやっています。
――長谷部監督が会見でおっしゃっていた言葉で、とても印象に残っているのが『試合構成力』という言葉です。これは具体的にどんなことを意味しているのでしょうか?
長谷部 時間帯やゲームの進め方、ピッチの中で起こりうるいろいろなこと、チームとしてゲームにどのようにに入り、 試合運びや後半の立ち上がり、またどう終わらせるのか。そういったことを含めて、一言で表現する言葉を『構成力』という単語で表現しています。ですから、意味は多岐に渡ります。この構成力をチームとして底上げする、全員が同じことを考えられるように、そして描くことができたらそれがベストです。気づいていなかったら、気づいてる人がその選手に伝える。それができたら、チームはいい方向を向けると思っています。
――監督としての軸、試合構成力を含めて、開幕戦では福岡ダービーに勝利しました。就任1年目の初めての公式戦勝利の評価について、改めてお聞かせください。
長谷部 ダービー、そしてシーズンの開幕戦ということもあり、両チームのファン・サポーターの皆さんに非常にいい雰囲気を作っていただきました。福岡のサポーターがゴール裏を埋め尽くしてくれて、相当な力をいただきまして、あのゲームで負けるわけにはいきません。ましてや、応援を背にした形でゴールを取ることができた。それも良かったと思います。応援しているところに決めたというよりは、応援を背に、皆さんの後押しを受けて相手に向かって行った、というところで1-0で勝ちましたし、もう1点、2点と取れたらもっと良かったです。でも、ゲームそのものは拮抗した展開でしたし、手放しで喜べる内容ではありませんでした。ただ、勝利することができて、この1試合で取れる最大の勝点3を取れたことは良かったです。それに、随所で今年やりたいプレーが出ていたので、皆さんの目にも留まったのではないかと。つまりは、シーズンの1試合目で勝利できたこと、そしてやりたいことを、今年表現したいサッカーをいくつも試合で出せたので、ファン・サポーターの皆さんに少しは伝わったんじゃないかなと思っています。
――決勝点を決めたのが遠野大弥選手でした。JFLからプロ入りした1年目での先発抜擢に驚いたファン・サポーターも多かったと思いますが、監督は若手の起用が非常にうまいと感じます。若手選手の育成や指導で心掛けていることはありますか?
長谷部 心掛けているのは、なるべく公平に評価をするということですね。若いからダメとか、経験がないからという見方はせず、逆に可能性が大いにあるという見方をする。意外と若いのに落ち着いたプレーをしたり、ベテランのようないぶし銀のプレーをしたりもするので、若いからこうだ、と決めつけずに、その選手が持っている能力を最大限に引き出す。そういう意味では、遠野のゴールというのは、その前に何本もシュートを打ってる中でやっと決めた得点だったので、もっと決められたんじゃないかなという思いと、能力を出してくれたという思いの両方があります。他にも、試合に出て能力を引き出したい選手はたくさんいるのですが、現時点でのベストメンバーで挑むのが私のスタイルなので、逆に若手だからということもありません。若手、中堅、ベテラン、すべての選手を公平に評価して、実力があるので試合に出ただけです。逆に言えば、実力がある、という評価を正しくできたことの証明として、ゴールを決めた、試合で活躍したという結果が出たので、評価が正しかったなと思っています。
――そこから中断に入ってしまいましたが、ようやく6月27日にJリーグの再開が決まりました。チーム練習も復活したところですが、今のチーム状況はいかがでしょうか?
長谷部 6月からチームトレーニングを再開していますが、その中で少しずつ試合に向けてプレーもコンディションも意識も上がってきていると感じています。楽しみではありますが、どうなるんだろうという、気持ちも少しはあります。とはいえ、これは他のチームも同じ状況で、自分たちだけではありませんので、どうなるのかなという不安と期待が入り混じった状態です。
――今年は特別ルールが適用され、昇格枠が2つでプレーオフや降格もありません。かつ、変則過密日程が続いていくと思いますが、特殊なシーズンを戦い抜くための長谷部監督ならではのプランはありますか?
長谷部 プランを持ちながら、いろいろな場面に対応策を持ってやっていかないといけないと考えています。自分のプランは、ここでは話せませんが、もちろん考えはありますよ。スタッフと話しながら、こういうふうに持っていこう、選手たちを導いていこうと考えています。プランがあるとはいえ、普段どおりにいかないことのほうが多いと思います。その中で軸がブレずに、どうプランを遂行していくのか。または、そこからどういうふうに修正していくかまでを考えていかないと、恐らく相当難しいシーズンになるだろうと思います。それは私だけではなく、チームスタッフもそうですし、他のチームも同じように苦労されると思いますので、本当に大変な1年になると思っています。
――長谷部監督はよく試合やリーグ戦を戦う上での話をされる時に「逆算して」という言葉を使われます。例えば、今シーズンを戦い抜く上で逆算すると、今年はどの辺が肝になると考えていらっしゃいますか?
長谷部 恐らく残り41試合、フィールドプレーヤーで全試合フルタイムで出場する選手はどこのチームにもいないと思います。それを考えると、どのチームも所属選手が試合に出て、いい仕事をする、いいパフォーマンスを出す、といったことが大事になるのではないかと思います。もちろん、我々もそうです。ですから、そこが大事になると思いますね。まさにチーム総力戦です。
――“総力戦”にはもちろんファン・サポーターも入ってくると思います。いつも感謝の言葉を述べている印象がありますが、改めて伝えたいことはありますか?
長谷部 とにかく、福岡に来て感じていることは、気持ちが熱い。人間が熱いっていうんですかね、アビスパ福岡を応援してくれる期待感をものすごく感じるので、これからもその期待を持ち続けてもらって、我々を後押ししてもらえると助かります。皆さんからの期待が選手たちに伝わって、それが選手たちの躍動に繋がると思っています。ですから、私に期待するというよりは、選手たちに期待してもらって、応援すればするほど選手たちは走ったり、いいプレーをしたくなる。選手とはそういうものです。再開当初はできませんが、段階的に皆さんをスタジアムにお招きできる状況になっていくと思いますので、ぜひ、大きな声援をピッチで戦う選手たちに届けてくれたらうれしいです。そして、いつかスタジアムでの応援が再開された暁には、スタジアムを満員にしていただき、最後は満員のスタジアムでJ1昇格の喜びを皆さんと分かち合いたいと思っています。とにかく、選手に期待してください。
――クラブの歴史として、5年周期でJ1に上がったり、J2に戻ったりというのを繰り返しています。ご存知だとは思いますが、チームをけん引する指揮官として、このクラブをどう変えていきたいと考えていますか?
長谷部 過去の話はいろいろと聞いていますし、尊重すべきことはたくさんあると思います。ですが、過去のことよりも、これからクラブがどうありたいかが大事なのではないでしょうか。今は“アビスパスタイル”を掲げて、アグレッシブに戦っていくクラブのスタイルを、トップチームから育成組織まで統一してやっていますので、まずはトップチームがそれを内容で体現して、結果を残す。そこで表現できたら一番いいですし、それが大事になってくると思います。私自身が目指すサッカースタイルも、クラブスタイルと同じ、アグレッシブに戦う。ですから、私が今ここで監督をさせていただいているわけです。
――常々話されていますが、目標は勝点81、そしてJ1昇格で変わりないと思います。改めて再開する、変則的な2020シーズンに向けて意気込みをお聞かせください。
長谷部 とにかく難しいシーズンになると思いますが、その中でJ1自動昇格の2チームに入れるように全力で戦います。ぜひ応援してください。よろしくお願いします。
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By 三島大輔
サッカーキング編集部