[写真]=ジェフユナイテッド千葉
DAZNと18のスポーツメディアで取り組む「DAZN Jリーグ推進委員会」が、その活動の一環としてメディア連動企画を実施。Jリーグ再開に向けて、「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE- Supported by DAZN Jリーグ推進委員会」を立ち上げた。サッカーキングでは、ジェフユナイテッド千葉でクラブユナイテッドオフィサー(CUO)を務める佐藤勇人氏に“クラブ愛”について語ってもらった。
インタビュー・文=細江克弥
写真=ジェフユナイテッド千葉
“日常”の再開を待ちわびてひたすら自宅待機する間、ジェフユナイテッド千葉の佐藤勇人CUOは、自分自身について考えた。その「考え」の中には、少しの悩みも、少しの戸惑いもあった。
「やっぱり、モヤモヤするところはありました。自分が選手ならリアルな目的があるから我慢することも準備することもできるし、そもそも、それ自体にやり甲斐があると思える。でも、選手の立場から離れてみると、ふと『何やってるんだろう』と思うことはありますよね。やっぱり」
昨シーズン限りで20年の現役キャリアに幕を閉じ、ユニフォームを脱いで半年が経つ。
新たに拝命した「CLUB UNITED OFFICER」の肩書には、「クラブに関わるすべての組織、すべての人をユナイテッド(結束)させ、クラブ全体が一丸となるための推進役となる」という期待が込められている。でも、どうだろう。その肩書にスーツを着せられた今の自分が背番号7を身にまとった半年前までの自分より“一歩前”にいるかどうか、正直なところよく分からない。
だから自宅に閉じ込められると、心のモヤモヤは少し大きく膨らんだ。
「どうしようかなと考えて、自分のこれからの人生の楽しさって……というところまで考えてしまうと、『ムリかもしれない』と思うこともあって。まあ、多くの人がそうかもしれないけれど、こういう状況で自宅にいる時間が長くなると、急に自分自身に対する葛藤が始まっちゃいますよね。それは、なかなか難しかった」
重たくても素直な感情を、少し余裕のある表情で口にできるところにこの人の強さがある。そうして言葉をつなげるうちに、少しずつ答えが見えてくる。
「あなたはどうして、ジェフが好きなんですか?」
2020年の“再開”に寄せて、この疑問の答えを探った。
――自宅で自分のことを考えて、葛藤して、その次は?
佐藤 結局、家の中でも身体を動かしちゃうんですよね(笑)。ただ、これだけの時間を有効に使わない手はないと思ったので、頭を使ったインプットにもかなりの時間を割きました。オンラインでいろいろな人の話を聞いたり、英語を勉強したり。今までは周りの誰かからリアルに評価される場所で生きていたから、それがないだけで、かなり難しい。寂しいというか、もの足りないというか。今、自分がやっていることがいいことなのか、そうでもないのか。その判断基準が分からないから、ちょっともどかしくて。
――“選手じゃない自分”については、今のところどういう姿を理想としている?
佐藤 もちろんいろいろな選択肢があると思うんですけれど、自分の中では、今の時点で「ジェフから離れる」という選択肢は考えられなくて。このクラブをどう変えて、どう成長させるか。そこに自分は携わりたい。難しいのはそこからです。じゃあ、実際に何ができるのか。考えながら行動に移すけれど、「これであってるのかな?」、「ちょっと違うな」と思いながら、また考えて、行動しての繰り返し。
――指導者になる選択肢はなかった?
佐藤 今のところは。引退にあたって、自分にはクラブに残りたいという意思がありました。クラブも同じように考えてくれていて、しかも「指導者としてではなく“中”からクラブを変えることに力を使ってほしい」と言ってくれた。それは、自分の気持ちとも一致していました。最終的なところとして考えているのは、“中”で、ある程度の決定権を持つ立場になることです。そこまでは見えている。じゃあ、そうなるためにどんな知識や経験が必要なのか。どんな段階を踏めばいいのか。そこを手探りの状態で進めている感じです。
――「ある程度の決定権」を持たなきゃいけない理由は?
佐藤 そうならないと、本当の意味で変えられないと感じているから。“元選手”がスーツを着ただけじゃ何の説得力もない。“元選手”ではあるけれど、ちゃんと学んで、ちゃんと経験して、ちゃんとした発言力や説得力を持つ人になって、初めて組織を変えられると思うので。
――では、なぜ「変えたい」と思うのでしょう? もしかしたら、「ジェフが好きだから」のひとことで答えられちゃうかもしれないけれど。
佐藤 そうですね(笑)。でもやっぱり、ジェフにはめちゃくちゃ感謝してますから。自分みたいにちょっとひねくれたタイプの人間でも、いろいろな人がサポートしてくれて、プロとして20年もプレーすることができた。その経験を自分自身がしていることがすごく大きくて、この恩を忘れることはないし、人として返さなきゃいけないものだと思っているから。アカデミー時代の仲間との絆もあります。自分はたまたまプロになることができたけれど、なれなかった選手がたくさんいて、でもみんなが自分と同じようにジェフに対する熱い思いを持っている。そういう人たちの思いを強く感じているからこそ、自分がそれを代弁できる立場にならないと。実際、アカデミー時代の仲間からも「勇人が上に立たなくちゃダメだ」といつも言われています。
――ところで、ジェフの場合、一度クラブを離れた選手が「いつか戻りたい」と口にする選手が多いし、実際に戻ってくるケースも多い。その魅力って、どこにあると思いますか? 選手にとってのジェフの魅力。
佐藤 なんなんですかね(笑)。うーーん。なんでだろう……。
――はっきり言って、何らかのゴタゴタがあって出て行った選手でも、結構ジェフのこと好きですよね。
佐藤 うん。分かります。うーん……。
――難しい。
佐藤 ですね。言葉が正しいか分からないけれど、多分、いろいろな意味で“ちょうどいい”んだと思います。場所もそう。クラブの規模もそう。環境もそう。サポーターのリアクションも「熱い」と「温かい」の中間くらいで、プレーしていてすごく気持ちいい。
――なるほど。それってもちろん良い面と悪い面があると思うけれど、トータルで考えると、選手にとっては“満喫できる環境”というか。
佐藤 そうかもしれません。
――もう一つ気になるのは、毎年J1昇格を目標にしながらそれを達成できず、今シーズンはJ2で11年目。なのに、10年前と比較してサポーターの熱気はそれほど極端に落ちていないし、スタジアムに足を運ぶ人の“数”そのものも半減するような減り方はしていない。これって、ものすごく不思議な現象だと思うんです。つまり、選手と同じように、サポーターの皆さんもやっぱりジェフが好き。
佐藤 それ、自分も思います。スタジアムがある蘇我駅周辺は“ジェフ色”がちゃんと出ているけれど、一歩外に出たらそれほど感じない。でも、試合になるとその雰囲気をいい意味で裏切るたくさんの人が来てくれて、たまに思いますもん。「どこから来てるんだろう?」って(笑)。
――同感です。
佐藤 なんでだろう。
――クラブの未来を考えると、その「なんで」を解決するといろいろなヒントが見えてくる気がして。
佐藤 ホントにそうですね。いろいろな原因が考えられるけど、本当の答えをちゃんと知るためには、たぶん自分たちが直接聞かなきゃいけないんですよね。サポーターの皆さんに。「あなたはどうしてジェフを応援してくれるんですか?」って。この答えに“ジェフの強み”があることは間違いないので、クラブとしては全力でそこを伸ばさなきゃいけない。逆に、足りないところは補わないと。
――多分それ、勇人さんがこれからやらなきゃいけない大きな仕事の1つなんでしょうね。“コロナ後”の大仕事かもしれない。
佐藤 間違いないですね。クラブに長く携わっている自分だからこそ、考えたり、気付けることもあると思う。選手たちが感じる“ちょうどよさ”とか、サポーターの皆さんがずっと応援してくれる温かさに甘えちゃいけない。それを武器にしないと。
――ちなみに、最近はアカデミーにもよく顔を出していると聞きました。
佐藤 中断期間中にはオンラインで話す機会を作りましたし、練習が再開してからは、自分も参加して一緒にボールを蹴ってもいます。ただ、これは刺激を与える意味であえて言いいますけれど、やっぱりまだまだ「もの足りない」と感じることが多い。いわゆる“いい子”ばかりだけど、自分としては、もっと強い“個性”がほしいなと。
――アカデミー時代の自分のような。
佐藤 うん(笑)。どういうタイプでもいいから、見ているこっちが「気になって仕方ない」という選手を育てないと。すごく難しいけれど、育成においてはその見極めがすごく大切な時代になっている気がします。と同時に、ジェフ自体が子どもたちにとって魅力的なクラブでなきゃいけない。
――なるほど。
佐藤 そういう意味でも、やっぱり全世代にとって魅力的なクラブでありチームじゃなきゃいけないと思うんです。子どもたちは子どもたちだけで自分の将来を決めるわけじゃないから、親御さんへのアピールももちろん必要。20年以上ずっと応援してくれているコアなサポーターにも、最近サポーターになってくれた人にも、まだジェフのことを知らない人にも同じようにジェフの魅力を届けられるようにならないと。
――さっきの話に通じるところですね。「あなたはどうしてジェフが好きなんですか?」という疑問の答えを自ら作る作業というか。
佐藤 正直なところ、やっぱり現時点での自分の力不足を感じます。もっとやれることがないかなと常に思うし、でも、どこまでやっていいか分からない。そういう状態になることが、力不足だなと。
――責任感が強いから。でも、まだ始まったばかり。コロナで中断されてしまった不運もある。
佐藤 ですね。1つだけ明確なのは、今はこうして選手ではなくなったけれど、これからもずっと“元選手”という側面をなくしちゃいけないなと。完全なるビジネスマンになるのは違うし、でも、そういう知識や経験をちゃんと持ちながら、“元選手”としての自分を大事にしたい。そこに自分の価値があると思うし、意味があると思うから。まあ、どんだけ頑張ってもバリバリのビジネスマンにはなれないかもしれないですけど(笑)。
――楽しみです。どんな佐藤勇人になるのか。
佐藤 出遅れちゃったので、頑張らないといけないですね。
アカデミーからの生え抜きとして、キャリアのほとんどをジェフ千葉で過ごした。小さなすれ違いから一度はクラブを離れたが、2年後、クラブがJ2降格の憂き目にあうと自ら手を挙げて戻り、ただひたすら、J1復帰だけをがむしゃらに目指した。10年という時間を費やしてもその目標をクリアすることができなかったから、「変化が必要」と判断して“まだ走れる自分”を半ば強引にピッチから引きずり下ろした。
後悔しかない。引退会見でそうはっきり口にした男だ。
何かを決断する時の思いの強さや大きさは並じゃない。今はまだどんな自分になればいいのか分からなくても、あちこちにぶつかりながら、また新しい佐藤勇人を自分自身で作り上げる。その過程に、クラブの可能性を広げるヒントがある。
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By 細江克弥