[写真提供]=FC琉球
DAZNと18のスポーツメディアで取り組む「DAZN Jリーグ推進委員会」が、その活動の一環としてメディア連動企画を実施。Jリーグ再開に向けて、「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE- Supported by DAZN Jリーグ推進委員会」を立ち上げた。サッカーキングでは、FC琉球の代表取締役会長を務める倉林啓士郎氏に“クラブ愛”について語ってもらった。
インタビュー・文=小杉正貴
写真提供=FC琉球
――2016年にFC琉球の代表取締役社長に就任しました。就任の経緯を教えてください。
倉林 もともと2014年からユニフォームサプライヤーとしてFC琉球に関わっていました。その間に3度社長が変わるような状況で、2016年に当時の社長から「経営状況が良くないから、資金的なサポートしてもらえないか」という話をいただいたのがきっかけです。「1,000万円くらいかな」と思っていたのですが、蓋を開けてみると1億円以上の資金が必要という状況でした。それがなければ債務超過でJリーグクラブライセンスが不交付となり、クラブが消滅してしまうという可能性もありました。ユニフォームサプライヤーとして選手やクラブスタッフと関わっていましたから、クラブへの愛着はありました。しかし、1億円という額は簡単に決断できるものではありませんでした。
――どういった要素が決断の決め手になりましたか?
倉林 「関わっているクラブがなくなってしまう」、「北海道から沖縄までクラブがあるというJリーグの魅力が失われてしまう」という思いが決め手でした。資金の目処がついたあとは沖縄で社長候補を探したのですが、見つからないまま開幕が迫っていたので、私が引き受けることを決めました。私自身も小学生からサッカーをやっていて、サッカーの可能性を肌で感じてきました。サッカーをやっていたからこそ、この決断ができたと思います。
――無償での社長就任だったと伺いましたが、本当ですか?
倉林 はい。今でこそ交通費をもらっていますが、社長就任から3年間はボランティア社長をやっていました(笑)。
――強い思いや使命感がなければ、無償で引き受けることはできないと思います。どういった思いが原動力となっていたのでしょうか?
倉林 先ほども言いましたが、最初は「このクラブをなくすまい」という思いだけでした。でも、経営が安定してくるにつれて、その思いはやりがいに変わっていった気がします。応援してくださるファン・サポーターやパートナー企業が増え、赤字の幅が少しずつ減って成果が出てくると、もう少し先を見られるようになったんです。ただJリーグにいて、潰れないだけではダメだと。まだJ2で最少クラスの予算規模ですが、これをどんどん大きくしていき、J1を目指していきたい。ゆくゆくはJ1で強豪クラブと認知されるようになり、アジアでの存在感も高めていきたい。沖縄ならばそれができると思うんですよね。そうやって先を見据えて一歩ずつトライ&エラーを経験できることは、大きなやりがいになっています。
――以前より沖縄とのつながりはあったのでしょうか?
倉林 生まれも育ち東京で、もともと沖縄とのつながりは全くありませんでした。日本の最南端で独自の文化の多く、一つの国のような側面を持っているのが沖縄だと思います。不便なところも優位なところもあるとは思いますが、多くの人がポジティブなイメージを持っていると思います。そのポジティブなイメージはクラブ経営、会社経営において強みだと思うんですよね。一般的に都市圏から離れた南の島国は、サッカークラブの経営においてデメリットだと捉えられていたと思います。都市部でアクセスが良く、遠征時の移動が短いところが良しとされていたのではないでしょうか。しかし、僕は沖縄という土地のメリットや可能性のほうが大きいと感じています。だからこそ僕はFC琉球の経営に携わることを決めました。他の地方のクラブであれば、話を受けなかったと思います。
――沖縄の魅力や強みはどういったところにあるのでしょうか?
倉林 一つは日本全国の人々から愛されていることや、沖縄へのイメージの良さだと考えています。それはFC琉球へのイメージにもつながって、実際に県外のファン・サポーターや企業から「つながりはないけど、沖縄のことが好きだから応援したい」とサポートしていただくことがあります。選手にとっても同様で、全く同じ条件で我々とほかのチームからオファーを受けた場合、沖縄での生活が決断の決め手となることは大いにあります。もう一つは地理的な要素ですね。東京から飛行機で約3時間掛かるように、沖縄へ行くことは外国に行くこととほぼ同じような感覚だと思います。“離れている”というイメージを持たれている一方で、アジアとの距離を考えると、沖縄は日本の最南端にあると捉えることができます。例えば、沖縄から台湾への移動は1時間ほどで済みますから。今後Jリーグがグローバルに広がっていくにつれて、僕らの経営スタイルも日本だけではなくアジア全体を見据えることになります。アジアから選手を獲得することも増えるでしょう。そういった流れの中で、アジアの中心に位置している沖縄という土地が大きなメリットになるのではないかと考えています。
――今回のコロナ禍で、地方の魅力が再認識される流れが生まれています。
倉林 そうですね。その流れの中で、沖縄は“攻められる土地”だと考えています。今後さまざまな企業が沖縄の開発に力を入れてくるでしょうし、消費者にとっても、海外旅行へ行きづらい時勢において沖縄という選択肢がより注目されると思います。沖縄のこれからが本当に楽しみですね。
――沖縄では高校野球やBリーグ(プロバスケットボールリーグ)で地区3連覇中の琉球ゴールデンキングスが人気というイメージがあります。沖縄でのサッカーの可能性をどのように見ているのでしょうか?
倉林 FC琉球の経営に関わるようになった2016年は、まだまだサッカー不毛の地というか、注目度が低い状況でした。多くの方は「JリーグにFC琉球というクラブがあるんだ」という感覚で、野球を見ている人が圧倒的に多く、バスケの人気が高まっているという状況だったと思います。ただ、今では選手やクラブスタッフの働きのおかげで、FC琉球のイメージが県民に浸透してきていると感じています。J2昇格だけではなく、(小野)伸二、上里(一将)、上原(慎也)といった実績のある選手や地元出身の選手が在籍していることも要因の一つです。野球やバスケに並ぶような位置付けになれたのではないかと思います。
――サッカー選手を目指す子どもたちも増えてきているのでしょうか?
倉林 そうですね。男子だけではなく、女子の競技人口も増えてきています。「沖縄県のスポーツと言えばサッカー」となる日は近いのではないかと楽観していますよ。その中で、有力な若手選手が進学で県外に出てしまうことが我々の課題だと認識しています。トップチームがいい成績を残すことはもちろん、その下のアカデミーの体制を残すことが重要だと考えていて、この3年間で注力して投資してきた部分です。以前は各学年担当のコーチがいない状態でしたが、今ではそれぞれの年代に質の高いコーチを迎えることができました。今では現場を支えるクラブスタッフを含めて、以前の3倍くらいの人数になっていると思いますが、今後はそこからトップチームに昇格する選手を増やしていけるようにしていきたいと考えています。
――県内でFC琉球の存在感を高めるためにも、アカデミーの充実は重要だと思います。今後はどのようなことが必要になると考えていますか?
倉林 アカデミーの体制が整ってきたとはいえ、理想とする姿を100点とすると、現状は40点くらいだと考えています。100点、120点を目指していくには、指導体制を強化することが大事だと思います。著名である必要はありませんが、指導力のある方を県外や海外から招聘することですね。そうやって組織を強くしていければと思います。そのためには資金が必要になりますし、アカデミーだけに資金を投下することはできませんから、総合的に判断しながら、ということになりますね。
――理想とするのは、沖縄出身の学生に選ばれる組織ですよね。
倉林 そうですね。その第一歩として考えていたのが、沖縄出身の選手がトップチームで活躍することです。先ほども挙げた上里や上原、知念(哲矢)といった沖縄出身の選手を積極的に獲得しています。彼らの活躍を見て、子どもたちから選ばれるようなクラブになっていければと考えています。
――社長就任後に最も力を入れたのはどのような取り組みでしたか?
倉林 最初はこのクラブを存続させるということだけに注力していました。そこから徐々にクラブの認知度やイメージの向上に務めるようになりました。沖縄という土地の魅力をアピールしつつ、クラブとしてのクリーンなイメージやひと目で見て「かっこいいな」と思ってもらえるようなイメージ作りを行いました。そういった取り組みが応援してくれるファン・サポーターやパートナー企業の増加につながったと思います。
――社長就任以前と比べてスポンサー収入が約4倍と大きく伸びています。地元企業から愛されるクラブになってきている感覚はありますか?
倉林 沖縄唯一のJクラブとして、地元の方に支えてもらえることはとても大事なことです。当初は地元企業とうまくコミュニケーションを取れていない部分が多かったのですが、今では改善できていると思います。就任当初よりパートナー数や金額が増えていますが、これからもっと上を目指していくためにはまだまだ道半ばという状況です。沖縄の全企業からスポンサードしてもらえるくらいにならないといけないと思っているので、まだまだ行動が足りないと捉えています。
――予算規模を大きくしていくために、どのような取り組みが必要だと考えていますか?
倉林 トップチームやアカデミーが成績を残すこと以外では、ホームタウン活動を重視しています。これまではスタジアム関連で沖縄市との協力が多かったのですが、行政と一体となった取り組みを沖縄県全域に広げていきたいですね。また、来年度中には八重瀬町に専用の練習場とクラブハウスが完成する見込みとなっています。素晴らしい施設にしていくことはもちろん、我々が拠点を置くことで八重瀬町の価値を高めていきたいですね。その土地に根を張って、応援されるだけでなく僕らも応援していくような関係を作りたいです。
――スポンサー収入の増加に加え、入場者数の増加も顕著です。昨シーズンは合計入場者数、1試合の最多入場者数で歴代1位を記録しました。
倉林 入場者数は経営のベンチマークにしている数字です。昨シーズンはJ2初年度だったことと伸二の加入が影響したと考えています。平均で1試合約5,000人の方に来場いただいていますが、雨が降れば思ったより伸びないことがありました。そういった試合をどうなくしていくかが課題だと認識しています。ゆくゆくは常に1万人近くを集客できるようにしていきたいですね。
――那覇市の奥武山公園にサッカー専用スタジアムを造る計画が進行中だと伺いました。
倉林 はい。沖縄の中心部とも言える土地に2万人規模のサッカー専用スタジアムを整備するプロジェクトを進めています。日本のみならず、アジアの中でも特にアクセスの良いスタジアムになると思います。当初の計画から遅れてしまっているのですが、行政と連係を取りつつ少しでも早く実現させたいと考えています。
――責任企業を持たないクラブとしての戦い方で意識されていることはありますか?
倉林 NTTが支援する大宮アルディージャ、JR東日本が支援するジェフユナイテッド千葉と比較すると、どうしても規模は小さくなってしまうと思います。しかし、多くのことにも当てはまると思いますが、大きければいいというものではないですよね。これまで、私はベンチャー企業を経営してきました。ベンチャーならではの強みや戦い方が間違いなくあります。我々は選手もクラブスタッフも、大きな組織にいて安寧しているというよりも、大きなライバルをアッと驚かせてやろうというマインドで仕事をしています。そういった戦い方や風土は我々の強みだと捉えています。
――コロナ禍による経営的なダメージはどれほどあったのでしょうか?
倉林 他のクラブに比べると、ダメージが少なかったと思います。理由としてはそもそもの予算規模が小さいこと、入場料収入の比率が高くなかったこと、県としてコロナの収束が早かったことが挙げられます。4月に行った小川(淳史)社長による新体制への移行も含めて、この4年間でしっかりと経営基盤を整えられたことで、コロナの影響を受けながらも余力を感じられていますね。
――今シーズンはユニフォームの胸スポンサー部分には首里城のイラストをデザインし、「REVIVE-琉球再興!-」をスローガンに掲げています。クラウドファンディングも活用しながら首里城再興のメッセージを強く打ち出していますが、どういった経緯でこのようなアクションに至ったのでしょうか?
倉林 首里城は沖縄にとって本当に特別なシンボルです。首里城の消失が県民に大きなショックを与えていた状況で、僕らが何かのアクションをしないといけないという思いがありました。沖縄の方々を最も勇気づけられる方法が、ユニフォームの胸に首里城を掲げるということではないかと考え、実行に移しました。決定の時点では予測できていませんでしたが、今回のコロナ禍による影響から、沖縄だけでなく日本全体、Jリーグ全体がREVIVE、再興していくことになるので、今シーズンにふさわしいスローガンになったと感じています。
――今シーズンのチームについての印象を教えてください。
倉林 まだ1試合しかできていないのが残念なぐらい、いいメンバーがそろっています。本気でJ1昇格を狙う陣容になっていると思います。後ろから紹介すると、GKにダニー・カルバハルという素晴らしい選手がいます。2月の時点ではケガを抱えていましたが、今では完治して絶好調の状態です。開幕戦で先発した若手の田口(潤人)らとともにハイレベルな競争をしてくれるはずです。DFではフィジカルのある李栄直、ブラジルから来た(フェリペ)タヴァレスがとても楽しみな存在ですね。FC琉球の攻撃サッカーを支える中盤には風間宏希、伸二、上里とテクニシャンがそろっています。2列目では高速ドリブラーの河合秀人、池田廉、風間宏矢、ベテランの富所(悠)、田中(恵太)などが激しいポジション争いが見られると思います。FWではJ1から移籍してきた阿部拓馬、圧倒的なフィジカルを持つ上原が楽しみですね。2位以内での昇格を目指して頑張っていきたいと思います。
――J1の営業収入平均は約50億円と、まだまだ大きな差があります。この差を埋めていくための、今後の展望を教えてください。
倉林 中期のプランとして、営業収入を10億円から15億円の間になるべく早く持っていくことを計画しています。やり方は一つではありません。単純にサポートしていただく企業を増やすだけではなく、ファン層を拡大して入場料収入を増やしていくことなど、できることをしっかりと伸ばしていくことですね。沖縄ならではということで、沖縄に魅力を感じている県外や海外の企業とも関係性を作っていくということも考えています。
――今後のFC琉球のビジョンを聞かせてください。
倉林 分かりやすく言うと、AFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)に出場できるようなクラブになりたいですね。今はまだJ2の中位ぐらいなので、「本気か?」と思われるかもしれませんが、我々はJFLからJ3、J2と昇格を実現してきました。ですから、いつかはそういうクラブにしたいですし、そういうクラブになれると思っています。その中で我々の持つ影響力を大きくしていき、アジアから注目されるような存在になっていきたいですね。台湾サッカー協会とパートナーシップ協定を結んだのもその一環です。アジア中から優秀な選手をアカデミーに迎え入れることもやっていきたいですね。J1昇格、ACL出場を目標に頑張っていきます!
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By サッカーキング編集部
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