タイに渡る直前、インタビューに応じてくれた丸岡
セレッソ大阪の下部組織からドルトムントへ移籍し、一躍注目を集めた丸岡満。しかしドイツでの挑戦は2年間でトップチームでは1試合の出場だけだった。
帰国後はC大阪、V・ファーレン長崎、レノファ山口とクラブを渡り歩いたが、定着はできず、2019年もセレッソ大阪U-23での出場が続き、シーズン終了後に退団となった。
以降、無所属となっていた丸岡が新天地として選んだのはタイのBGパトゥム・ユナイテッドFC(元バンコク・グラスFC)だった。
無所属期間中、丸岡が何を感じていたのか。プロキャリアの“再スタート”をどのように捉えているのか。タイへ渡る直前に話を聞いた。
インタビュー=小松春生
■8カ月間で見えたもの
―――無所属としての8か月間、どのように過ごしていましたか?
丸岡 サッカーというチームスポーツを今までやってきて、これだけチームから離れることになったのは幼少期から初めてのことですし、早くチームに合流してプレーしたいという気持ちがすごく強かったです。8カ月を振り返ると、いろいろな出会いもありましたし、これまでできなかったこと、チームに所属していたら会えなかった人、行けなかった場所もあって。例えば、知り合いが運営する少年団のチームで一緒に練習したり、すごく充実した、違う視点からサッカーのことを考えることができた時間でした。
―――トレーニングはどのように?
丸岡 お世話になっていた先輩が西宮でサッカースクールを運営していて、SWHというフットサルチームですけど、そこで一緒に練習していました。
―――プロ選手が周りにいない中、発見もあったとのことですが、新しく見えた景色というのは?
丸岡 サッカーが好きな人がこれだけたくさんいるんだなと。例えばSWHのメンバーは夜まで仕事をして、20時30分から23時前までトレーニングをしていて、そういった人たちが上を目指しながら、仕事もしている凄さを感じましたね。僕はJリーグの下部組織に入って、それからプロでやってきましたけど、この時間がなければ見えなかったものですね。信念を持って、サッカーが好きだからやっている人たちがたくさんいて、純粋に凄いことだと思いました。
―――今後のキャリアにも大きな影響を与えるような8カ月間でしたか?
丸岡 正直、今までは自分が良ければ、自分のためにサッカーをすれば、と思っていることが多かったのかなと。この8カ月では、僕のことをプロサッカー選手として歓迎してくれて、一緒にサッカーをしてくれて、バチバチやってくれて、僕がタイに移籍するとなったら、「いってらっしゃい」と送り出してくれる人がいてくれて。「この人たちのためにも頑張ってこよう」と本心からそう思えたのは初めてでした。
―――一方で、「誰かのために」だけではなく、何か自分に対するベクトルがないと、8カ月という期間でモチベーションを維持することは大変な部分でもあると思います。
丸岡 本当難しかったですね。でも、このご時世、いつ海外へ移籍できるかわからない状況ですし、周りで苦労をしている方もいました。大変なのは僕だけではなかったので、そこが救いと言いますか、「今できることはトレーニングしかない」と集中できました。
―――トレーニングで重点的にしていたことはありますか?
丸岡 もちろん、1人で走るといったことはしていました。けど、サッカーをしたときに、筋疲労が全然違ったので、できるだけサッカーにしろ、フットサルにしろ、人がたくさん関わる中でボールを蹴ろうとしていました。
―――ただボールを蹴るのではなく、フルコートのサッカーにしろ、フットサルにしろ、考えながらプレーすること、相手が何を考えているのかを考えながらプレーすることを止めてしまうとマズいと?
丸岡 その感覚はオフシーズン明けなどで1カ月離れただけで、いつも感じていたので、8ヶ月空いたら…とわかっていました。たとえ1週間、サッカーと離れるだけでも全然違うので。なるべく、いろいろな人と一緒にという形で練習してきました。
―――契約が満了して、所属クラブがない状況になることがわかったとき、恐怖心を感じるなどはしませんでしたか?
丸岡 それはまったくなかったですね。僕自身は日本でプレーするのではなく、アジアでやりたくて、オファーがあれば行くという気持ちしかなかったです。オファーがなかったらという恐怖心はまったくなかったです。
―――アジアでやりたいと思った理由は何でしょう。
丸岡 新たなチャレンジがしたいという素直な気持ちです。海外でやりたいという考えがありましたが、いきなりまたヨーロッパとなると、トップレベルで続けている選手がやれる場所なので難しい。でも、サッカーをやるからには、できるだけその地域での高いレベルでやりたい気持ちがあるので、今の自分の状況を考えれば、アジアであれば可能性があるなと。8カ月間、アジアでのプレーしか考えていなくて、オファーがタイミングよく来たので、という感じです。
■ドルトムント移籍に後悔はない
―――これまでのキャリアについてうかがいます。C大阪の下部組織からドルトムントに移り、日本に帰ってきてからはうまくいかない時間が続きました。ドイツから帰国後にこれだけ苦労することは想像されていましたか?
丸岡 Jリーガーとしてプレーしたことはなかったので、苦労はすると思っていました。どこのチームに行ってもそうですが、ポジションを勝ち取ることは大変なことだと常に思っています。仮にドイツでスタメンを勝ち取っていれば、感覚は違ったと思いますけど、出場したのは1試合ですし、Jリーグもすごくレベルが高いので、難しいだろうとは感じていました。
―――仮定の話ですが、ドルトムントには行かず、C大阪でそのまま続けていれば、違った状況になっていたと思いますか?
丸岡 そこに関しては、全く後悔もないです。海外のトップチームでやりたいと小さいときから思っていましたから、転がっているチャンスを掴みに行って後悔をすることはないです。仮にJリーグを挟んでいたら、新たな丸岡満になっていたかもしれないですけど、ドイツに行って、日本でうまくいかなかったことも僕なので。そういう絵を描いたことはないです。
―――当時、ドルトムントに在籍することもあって、過度に取り上げられてしまう、注目をされ過ぎてしまったことも影響があったのでは、と感じたのですが、その点はいかがでしょうか。
丸岡 注目されるクラブでしたし、それに応えることがサッカー選手としてモチベーションになっていたので。結果として現れませんでしたが、注目されることはすごく嬉しいことでした。もちろん結果につながらないもどかしさは、どの選手もそうですし、僕もありました。
―――「まだ」なのか「もう」なのか、24歳となったことは意識しますか?
丸岡 それはめちゃくちゃ思いますね。セレッソの瀬古(歩夢)とか、ご飯に行く機会が多いんですけど、5個も年下で。そういうときに感じますね。「もう24歳」なのか、「まだ24歳」なのかは、両方ですね。日本人は、「まだ24歳やから」って言い方をするんですけど、海外を見たり、年下の選手が出てくると「もう24歳か」って思ったり。いろいろな問いかけがあります。
―――「まだ」と感じるのは自分のキャリアを考えたときですか?
丸岡 そうですね。あとは先輩が30歳を越えてもプレーしている姿を見たときです。そういうとき、「まだ俺は24歳で、まだまだ動ける状態だから、やらなアカン」って思います。
―――次のキャリアはタイのパトゥム・ユナイテッドとなりますが、さらにその後のキャリアを描いたりされますか?
丸岡 現時点では、Jリーグに帰ってくる意思はないです。セレッソとの契約が終わってから、ブレていないですね。日本でプレーする気持ちはまったくないです。
―――C大阪は度々遠征をするなど、タイと縁が深いクラブです。事前に情報を得たり、イメージはされていましたか?
丸岡 個人としては事前に情報を入れるタイプではなくて、肌で感じたいタイプではあります。もちろん、どういうサッカーをしていたかというのは、今年セレッソ大阪U-23がタイキャンプでパトゥムと試合をしているので、少し話を聞きましたし、セレッソにもパトゥムからタワンという選手が加入していたので、「いいチームだよ」くらいの会話はしました。でも、その程度ですね。行ってみて、という感じです。
―――どういうプレーをしたいというイメージはありますか?
丸岡 昨季の終盤戦はボランチとして自由に前へ飛び出していくプレーができて、コンディションも良くて、自分らしいプレーをすごくいいイメージでやれたので、ボランチなのか1.5列目なのか、とにかく中央でプレーしたいです。ボールに触りながらリズムに乗っていくタイプですし、中央であれば基本的にはボールは回ってくるので、そこで勝負したいですね。
―――タイサッカーの印象はいかがでしょう。
丸岡 結構ゴリゴリでフィジカルなイメージですね。これまでキャンプなどでタイには何回か行ったことがあって、パトゥムと試合をやったときもそのイメージでした。前線にいる外国籍選手がゴリゴリっと行ってシュートを決める。タイ国内の選手は身長などは大きくないですけど、身体能力が高いので、その中で僕がアクセントをつけられるような、繊細なプレーができればいいのかなと。あとは運動量や守備、細かいプレーやミスの少なさが自分の売りなので、そこは出していきたいです。
―――タイでの生活に不安はないですか? 日本人が多い国ですし、プレーしている選手や指導者も増えたので、困ったときに助け合いやすい環境ではあります。一方で、先日原口元気選手に話をうかがったとき、ドイツでは日本人のコミュニティに入ってしまうと頼ってしまうから、そうならないように気をつけていると話していました。
丸岡 僕もドイツでそれを経験しました。ドイツでは助けてくれる人が周りにたくさんいたし、右も左もわからない状況だったので。なので、今回はできるだけ孤独に頑張りたいですね。バンコクという街が街なので、どうなるかわからないですけど、できるだけコミュニティには入らず、自分で頑張っていきたいです。
―――最後に、プロキャリアでの空白期間ができてからの再スタートとなります。自分にどういったことを課して、どういった姿を日本の方に届けたいですか?
丸岡 まず、「丸岡満は8カ月間何をしていたんだ」というところがあると思うので、チームも無事に決まって、「ここから頑張ります」という姿勢を見せたいです。8カ月もプロとしてのサッカーを離れていたので、ブランクもあります。焦らずにしっかりコンディションを整えて、試合に出られる日が来たら、結果にはこだわりたいです。今までは「アシストをしたい、ゴールをしたい」と言ってきましたけど、「試合に出続けたい」という目標に変えようと思っています。アシストもゴールももちろん狙っていますけど、試合に出ないと意味がないので。コンディション維持をしっかりして、シーズン通じて試合に出続けるようにやっていくことが一番の目標です。6年間プロでやってきて、シーズンを通して試合に出続けたことがなかったので、そこはタイで絶対に成功させたいと、強く思っています。
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長