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長崎FW富樫敬真がコロナ禍で見出した選手の価値「サッカーをとおして社会問題を解決していきたい」

2020.11.13

 コロナ禍でサッカーができなくなり、ピッチの外に目を向けるようになった。すぐに無知な自分に気づいた。人々は様々な社会問題に直面していた。

 サッカー選手の価値について考えた。自分にはサッカー以外に何ができるのか。2020年、一子の父親となった富樫敬真は、関心のあった社会貢献活動、とりわけ子どもたちの未来につながる『love.fútbol Japan』の活動に、まずは金銭的支援を行った。

 それから『love.fútbol Japan』が取り組む様々な活動へと視野を広げた。サッカー選手の力で貢献できることはないか。たどり着いた結論は、「社会問題と向き合っていくために、スポーツやサッカーと社会のつながりを強くするためには、選手自らが関わっていく必要がある」との考えだった。

 サッカー選手はピッチ上での活躍が評価の重要な指標になる。だが、その価値はそれだけにとどまらない。外の世界を知ったこのコロナ禍でそれを強く感じた。サッカー選手にできることがたくさんあると信じ、決意した。「サッカーをとおして社会問題を解決していきたい」

インタビュー=安田勇斗



love.fútbol Japan

「経済的・社会的な理由で、安全にサッカーをしたくてもできない子どもたちの環境を変える。その理念の下、コミュニティ型のサッカー・スポーツグラウンドづくりに取り組むアメリカのNGO『love.fútbol』。その日本支部にあたるのが『love.fútbol Japan』だ。

『love.fútbol』は、海外の大手企業などとパートナーシップを結び、これまで11カ国、計45のグラウンドづくりを実施している。グラウンドは、「more than place to play」というコンセプトに基づき、地域住民100人以上と共創する手法や、グラウンドを地域の子ども・若者の貧困、教育、ジェンダー、雇用など地域の社会課題を改善する拠点として運営していることが特徴だ。2018年にNPO法人化した『love.fútbol Japan』は同年にブラジル、翌年にインドでグラウンドをつくり、現在は日本とアジアを対象に活動を進めており、年内にマンスリーサポーター100人を目指している。詳細はこちら

また『love.fútbol Japan』は日本支部独自の社会貢献活動の準備を進めており、富樫敬真選手もその取り組みに賛同し、多くの方々に広めるためにPodcast『社会とサッカー選手』を共創。番組内では、日本の公園事情や環境問題、自身と同じ外国にルーツを持つ子どもたちについてなど様々な社会問題を取りあげ、サッカー選手が社会について話しやすい環境をつくるとともに、サッカー選手の影響力を活かして社会活動現場の小さな声を世の中に届けることを目指している。

『love.fútbol Japan』に関わるようになったきっかけは?
富樫 コロナ禍で自粛期間に入ってから、いろいろな社会問題に目を向けるようになりました。そうした中でアクションを起こした選手がたくさんいたのですが、自分は何からやればいいか、それが思いつかなくて。でも、いろいろなものを見ていく中で『love.fútbol Japan』を見つけ、ホームページやブログを読んで、素晴らしいプロジェクトだなと感じて、まずは自分ができることとしてマンスリーサポーターになりました。

love.fútbol Japanのプロジェクトのどんなところに素晴らしさを感じたのでしょうか?
富樫 グラウンドづくりを中心にこれから様々なプロジェクトを進めていく予定ですが、特に素晴らしいなと感じたのは、子どもたちの未来や安全のために活動していることです。僕はこれまで自分のことだけでいっぱいいっぱいになって、周りに目を向けられていませんでした。このコロナ禍という厳しい状況下で無知な自分を知り、いろいろな社会問題を目にする中で、人のため、子どもたちのために活動することの大切さを改めて感じましたし、それを実際に行っているlove.fútbol Japanのプロジェクトに貢献できればと思ったんです。それともう一つ、love.fútbol Japanはサッカーをとおして社会問題を解決しようと、サッカーの持っている大きな可能性に信じていて、そこにも共感しましたし、自分もサッカー選手としてできることがあるんじゃないかと思うようになりました。

2020年7月からlove.fútbol JapanのPodcast『社会とサッカー選手』に出演していますが、どのような経緯で一緒に活動するようになったのでしょうか?
富樫 代表の加藤遼也さんが、サッカー選手の自分がマンスリーサポーターであることに気づいてメッセージをくれて、お話させていただきました。それから会話を重ねていく中で、love.fútbol Japanの活動を多くの人に知ってもらいたくて、何か方法がないかと考えPodcastで発信することになりました。

『社会とサッカー選手』というタイトルには、love.fútbol Japanの「サッカーをとおして社会問題を解決しよう」という想いが込められているのでしょうか?
富樫 そうですね。日本ではサッカー選手が社会に対して発言しにくいというか、避けているというか、そういう難しい環境にあると思っていて。でも、代表の加藤さんや理事の河内一馬さんとも話していたんですが、社会問題と向き合っていくために、スポーツやサッカーと社会のつながりを強くするためには、選手自らが関わっていく必要があるだろうと。ゆくゆくは僕だけじゃなくいろいろな選手と一緒に社会のことを学び、社会問題に関わっていければ、サッカーが持っている可能性や価値を社会に還元できればと思っていて、こういうタイトルになりました。

love.fútbol Japanはその他どんな社会問題に目を向けているのでしょうか?
富樫 いろいろな課題に目を向けているというよりは、経済的・社会的な事情でサッカーをしたくてもできない子どもたちの「環境」を変えることに重きを置いています。コロナ禍に突入してから、民間のサッカー・フットサル施設が経営的な危機にあったことから、施設の緊急アンケート(https://www.lovefutbol-japan.org/posts/8277880)を実施し、報告書をJFA(日本サッカー協会)にも共有していました。Podcastで子どもが思いきり遊べるところが少ない今の公園事情や、海外にルーツを持つ子どもをテーマに人種差別の問題を扱っていることも、日本の子どもとスポーツ環境の課題を学び、良くしていきたいという背景があります。またこの前、自分もミーティングに参加させていただいたのですが、今って子どもがスポーツを始めるのにかなりお金がかかるんですよね。部費や月謝、チームのユニフォームが高かったりして。中には金銭的な理由で部活ができない、チームに入れない子どももいるようで、日本でもサッカーをしたいけどあきらめている子どもたちに資金や社会とのつながりを提供すること、それをサッカーコミュニティの力を借りて運営する仕組みを作りたいと考えています。ただ、こういうことも自分たちの力だけでは当然できないので、いろいろな方々を巻きこんで実現できればと思っています。

そうした活動を広めていくにあたって、Podcastで現状を伝える他に、何かアクションを起こしていることはありますか?
富樫 公園事情についてはアンケートを取らせていただき、専門家の方にいろいろな質問をしてPodcast上で公開したのですが、リスナーの方々からいろいろな感想をいただき、自分自身いろいろな気づきもありました。こういうコミュニケーションはもっと増やしていきたいと思っていて、できれば皆さんと一緒に問題を解決していくような取り組みにしていければと思っています。

社会貢献活動に関わってから、ピッチ内外で変化などはありますか?
富樫 今までは本当に自分のことしか考えていなかったなと改めて感じました(笑)。このコロナ禍で、プレーヤーとして自分のことにフォーカスするだけでなく、いろいろなものを見て視野を広げることも大事だなと思いましたし、サッカーとの向き合い方も変わりました。これまでは週末の試合のためだけに毎日練習していたのですが、それに加えて、自分がサッカー選手として社会にどんな影響を与えられるか、どう貢献できるかも考えるようになりました。サッカー以外のことに関わることで僕はまだかなりのエネルギーを消費しますけど、外の世界を知ることでピッチ内でも視野が広がった感覚があったのは新たな気づきでした。

大きな心境の変化があったんですね。
富樫 プロになってすぐの頃、先輩に「お前、自分のことばっかりだな」とか、「他人に興味ないな」とかってイジられていたんですよ(苦笑)。自分では「そうかな?」と思っていたんですけど。でも今思えば、本当にそうだったなと。人種差別や環境問題、コロナ禍によるいろいろな社会問題に触れて、やっぱり自分以外のことについて、全然考えていなかったなと。それに気づいて自分自身ショックを受けました(苦笑)。去年の夏頃にアフリカから帰国していたマチくん(中町公祐/元横浜F・マリノス)に会ったんですよ。アフリカのために身を捧げて活動しているマチくんのことは「すごいな」と思っていて、会った時に「アフリカどうですか?」って聞いたんですけど、それをすごく後悔していて。自分みたいな何も知らない人間が何も調べもせず、軽々しく質問して本当に失礼だったなと。マチくんは優しいので、冗談っぽく興味ないなら聞くなよ的な感じでしたけど。

活動を続けていく上での目標などはありますか?
富樫 サッカーとlove.fútbol Japanが持つ大きな可能性、それを多くの方々に広めていきたいです。僕自身、サッカーを通じて子どもたちのため、社会のために活動するlove.fútbol Japanに関わってから、広い視野で物事を捉えられるようになったり、サッカーにポジティブなメンタルで臨めたり、プレーにもいい影響が出ています。今後はそれをサッカー選手や関係者、ファン・サポーターへと広め、お互いに助け合う支援の輪を大きくしていき、小さなことからでも社会問題を解決していければと思っています。僕のファンの方々の中でマンスリーサポーターになってくださったり、love.fútbol JapanのTシャツを買ってくださったりした方もいたようで、それを聞いてめちゃくちゃうれしかったですし、そういう想いを、サッカーをとおして、子どもたちの明るい未来につなげていければと思います。

2015年から3シーズン、横浜F・マリノスでともに戦った中町公祐は2019年にザンビアへと渡り、選手としてピッチに立ちながら、アフリカ諸国の支援にも携わっている。 [写真]Getty Images

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