鹿島にとって、「建て替え」の時期は終わった [写真]=報知新聞社・岡島智哉
もう言い訳は通用しない。
鹿島アントラーズは、ザーゴ体制2年目を迎える。いつだって優勝が至上命題のクラブだが、「建て替え」と称して抜本的な改革を行い、ザーゴ監督が持ち込んだ戦術の浸透に時間がかかった。
昨シーズン、リーグ制覇は現実的な目標ではなかった。
建て替え工事は終わった。「負けたけど内容は改善している」「自分たちのサッカーはできていた」といった意見など、今シーズンは負け犬の遠吠えでしかない。宮崎キャンプを見る限り、現状は「守破離」でいうところの「守」と「破」の間だろうか。言い換えれば、選手のコメントや表情からは戦術の浸透への自信が見られ、「守」を「破」にしようとするアクションが多く見られた。
具体例をひとつ。キャンプ中に、前線からのプレスのかけ方の最適解を「探す」練習があった。コーチ陣が11人で布陣を組み、パスを回す。選手がプレスをかけてボールを奪いにいく。そのポジションを「探す」トレーニング。昨年のおさらいのニュアンスが強かったようだ。
「教える」でも「学ぶ」でもなく「探す」と書いたのは、首脳陣の指示に選手側から「それよりもこっちの方がいいんじゃないですか?」「こういう場合はどうしますか?」などと声が飛んでいたからだ。それを受け、首脳陣側は「これはどうだ?」「こうしよう」などと発していた。
ザーゴ監督からも「(型は)必ずしも守るべきものではない」と指示があった。指揮官は、型をしっかり頭にたたき込むことを大前提として、臨機応変な「型破り」を望んでいるようだ。ザーゴ監督の戦術・思考をある程度理解した在籍2年目の選手たちにとって、今シーズンはプレーや試合の状況に応じた「型破り」がひとつのテーマになる。基礎基本が体に染みついた選手たちが、いかに「応用編」にチャレンジできるか。チーム成績を左右する大事な要素となるはずだ。
キャンプ中に行われた対外試合のヴァンフォーレ甲府戦翌日、ザーゴ監督と永戸勝也が話し込んでいた。永戸は「試合で感じたことを投げかけて、返してもらいました」と話していた。どうやらリスク管理に関するポジショニングの話で、「相手や試合の状況を見て臨機応変にやっていい」と言葉をもらったらしい。「(2年目で)積み上げは相当あるので」と語る永戸にとって、まさに「守」から「破」への途上、といったところなのだろう。
ザーゴ監督は「去年は川崎フロンターレがぶっちぎりで優勝できたが、今シーズンはそうならないのではないかと思っている」と見据える。あくまで前提は「守」。練習してきたこと、積み上げてきたことを徹底し、組織で相手を崩す。しかし、それがうまくいかない時の「破」の選択肢が多ければ多いほど、チームは5年ぶりのリーグ頂点に近づいていくはずだ。
【KEY PLAYER】18 上田綺世
まず、ミート音が違った。
キャンプ恒例だった若手攻撃陣による居残りシュート練習。上田綺世のキック音は、他選手よりも鈍く、鋭い。それでいて、精度も高い。長年クラブに在籍する関係者も「すごいことになってきた」と笑っていた。
明らかにパワーがついた。それは見た目にも明らかだ。本人曰く、「あの、それよく言われるんですが、ナチュラルにプレーに合わせて体が大きくなってくれただけです」。特別な肉体改造はしていないらしい。
だからこそなのかもしれないが、プレースピードは落ちていない。自信から得られるのであろう落ち着きも、徐々に身につけている印象だ。
2年目の昨シーズンは、自身初の2桁得点となる10ゴールをマーク。「上田綺世としてのキャパシティーを広げることのできた1年でした」と振り返る。出た課題と向き合い、己を磨いてきた。
宮崎キャンプ最後の練習試合となったV・ファーレン長崎戦では、放った全4本のシュートが見事に枠外へと飛んでいた。体が仕上がっていない時期とはいえ、まだまだ青いのかもしれない。
それでも、チームに張りついて10日間にわたって上田のシュートを眺めていた身として、期待感は変えようがない。ザーゴ監督も「彼は今年開花するんじゃないかと思っている」と成長曲線に目を細める。鋭い嗅覚と決定力を併せ持つことになれば、手がつけられない存在となるだろう。
文=報知新聞社・岡島智哉
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