2012年にチームをJ1準優勝に導いた指揮官が帰ってきた [写真]=板垣晴朗
昨シーズンはリーグ戦で17位に終わり、コロナ禍での特例措置がなければ降格していたベガルタ仙台。その再建を託されたのは、2013年以来8季ぶりに戻ってきた手倉森誠監督だった。
2004年にコーチとして仙台に加わり、2008年から監督に。2009年にJ2優勝でJ1昇格、2012年にJ1準優勝と実績を残してきた指揮官は、2014年のリオデジャネイロ五輪代表監督や2018年のロシアW杯日本代表コーチ、そしてV・ファーレン長崎の監督を歴任。「8季ぶりに力を発揮しろ、といわんばかりのタイミング」と、駄洒落混じりに仙台が危機に陥ったタイミングでの復帰を喜ぶ。2011年には東日本大震災でホームタウンが大きな被害を受け、自らも被災しながらチームをまとめ上げ、当時クラブ史上最高の4位という成績を出した。あの震災発生から10年を迎える年に、再びチームを被災地の“希望の光”といえる存在にすべく腕を振るう。
昨シーズンから多くの選手が入れ替わったチームを、果たしてどのようにまとめるのか。キーワードは“推進力”だ。まず、新戦力として、指揮官は「とにかくボールを握れる選手、運べる選手、そしてチームに仕掛けとして前への“推進力”を持てる選手」を補強。マルティノス、氣田亮真のようにスピードに乗ったドリブルを仕掛けられる選手や、上原力也のように後方から前の選手を走らせるパスを出せる選手、真瀬拓海のようにサイドから押し上げる選手が加わった。そして、昨シーズンからプレーする選手たちにも「機動力を求めています」(手倉森監督)と、フィジカルトレーニングを見直し、キャンプで体力のベースを構築中。ケガ人が続出して苦しんだ昨シーズンの反省も踏まえ、試合終盤や過密日程でも前への推進力を維持できるような体作りをしたうえで、戦術を浸透させる。
前線には速さのある選手が多く、また前回の仙台指揮時にはカウンターを主軸として成果を出したこともあり、今シーズンもカウンターが中心になることも予想されるが、キャンプではボールを保持した際の厚みある攻撃も仕込んでいるところ。指揮官自身も様々な経験を経て、以前と違う戦術も織り交ぜてきそうだ。
ボールを保持するにしても、保持された状態から反撃するにしても、前への推進力を見せられるかどうかが今シーズンのポイントとなりそうだ。「昨シーズンの成績を踏まえれば、あまり大きなことは言えません。一戦一戦、勝ち続けること」と、監督はまずJ1残留を目標とするが、それも推進力のある姿を見せながら実現する構えだ。
「震災(発生)から10年経った今も一歩一歩歩みを進めている被災地とともに、確実に前に進むことの大事さがあり、今シーズンは一戦一戦力を注いで、一つでも多く勝つ。一番はやはり、ホームで勝つことです」。この指揮官の言葉に表されるホームタウンへの思いを、前に歩を進めるエネルギーへと変えて、仙台は2021シーズンを突き進む。
【KEY PLAYER】8 松下佳貴
ボールを保持して押し込むにしても、カウンターを仕掛けるにしても、チームのバランスを取るボランチの全員が今シーズンのカギといえる。その中でも、加入3年目の松下佳貴には中心選手として期待がかかる。
既に加入年の2019年途中にフィットしてから、チームのパスワークの結節点として活躍。そして年々、守備の強さやポジショニング、飛び出しのタイミングが磨かれている。しかし昨シーズンは、ケガによる長期離脱を余儀なくされた。復帰した終盤戦以降は2ゴールを挙げるなど活躍しただけに、今シーズンはコンスタントな活躍を期待したいところ。「筋肉を強くしたり、可動域を広げたり、体の動かし方や筋力トレーニングを見直しました」と、パワーアップして今シーズンを迎える。
年齢的には中堅の立場。「昨シーズンからそうですが、若い選手や新加入選手にも意識的に話しかけるとかして、自分がチーム全体の潤滑油として、いい関わり方でコミュニケーションを取れるように意識しています」。キャンプ中にチーム広報スタッフが撮影する“広報カメラ”では、カメラを向けられた時のリアクションや、他の選手との絡み合いが楽しい。「オフのところでは仲良く、ピッチでは要求し合ってできているのかなと思います」と、こちらも注目(?)だ。
文=板垣晴朗
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