昨季から、城福監督は相手陣内でサッカーをすることにこだわっている [写真]=Getty Images
3-4-2-1の形が上手くいっていなかったわけではない。昨シーズン終盤は、8試合連続負けなしを記録。最後の3試合はいずれも0-1で敗れたとはいえ、それはエースのレアンドロ・ペレイラ(現・ガンバ大阪)の不在というアクシデントが影響したもの。サッカーが破綻していたわけではなかった。
しかし、城福浩監督が新システムの4-2-3-1への転換を決意したのは、まさに終盤の3試合に要因があった。
「この3試合は同じシーンを見ているような内容で、1つの壁を感じていたことは事実です。そこを打破するためにも、何かを変えないといけない。その必要性はみんな分かっていたと思います」
昨シーズンの後半、城福監督は前線のプレスを強化し、相手陣内でサッカーをすることにこだわった。そのコンセプトに変化はないが、アプローチを変えることで「個々の力を解き放ち、このチームのサッカーインテリジェンスの高さをより活かしたい」と、指揮官は考えた。その1つの方法論として4-2-3-1への変更が行われたのだ。
システム変更は簡単ではない。だからこそ指揮官は、宮崎キャンプ2日目からフルコートで11対11の紅白戦を行った。「ゲームは全てのフィジカルを鍛えられるトレーニング。ただしケガのリスクは大きくなるし、疲労回復などの状態も読みづらい」と、池田誠剛フィジカルコーチが語るように、身体作りを主体としたキャンプであれば異例ともいえるメニュー。しかし、昨年末からこのやり方を選手たちには伝えていたこともあり、誰もができる限りのことをやってキャンプに臨んでいた。この状況を見て監督は「実戦中心でいける」と判断した。
最初の練習試合はキャンプ4日目(1月27日)に行われたロアッソ熊本戦。1-0で勝利したものの、流れの中では得点できなかった。それが3日後の練習試合(相手は非公開)では5-1。指宿での2次キャンプでは松本山雅FC に8-1、ジュビロ磐田に6-2、モンテディオ山形に4-0(全て2試合分)と得点を量産。1試合平均3.0得点という数字は、過去のプレシーズンではほとんど例がない。
だが、今年の広島の形を「4-2-3-1」と形容するのが正しいのかどうか。指揮官が「変幻自在」というワードを駆使しているように、試合の中でフォーメーションは変わっている。「可変システム」「左右非対称」と監督が語るように、1つの形に固執することなく、選手や組み合わせの妙によってバラエティに富んだ攻撃を駆使したい。それが、今シーズンの広島が求めるサッカーだ。
補強の目玉といえるジュニオール・サントスもチームに順応し、練習試合では4試合に出場し3得点と成果もあげた。鮎川峻や長沼洋一ら若きアタッカーたちの台頭もある。4バックの守備も、試合ごとに安定してきている。ただし、練習試合と公式戦はまったく違う。極めて順調に見える影に存在する落とし穴にはまることもある。「変幻自在」も「可変システム」も、公式戦で結果を出して初めて評価に値する。
「このメンバーであればリーグもカップも、高い目標をもって戦えます」
城福監督の手応えは間違いない。佐々木翔や荒木隼人も守備の課題は「まだまだ」と言及しつつ、右肩上がりになっていることに自信を示した。その自信を確信に変えるためには、公式戦での勝利という大きなプレゼントが必要なのである。
【KEY PLAYER】24 東俊希
トレーニングマッチの磐田戦(2月10日)で生まれた東俊希の得点シーンには、2021年の広島が目指す得点の物語が表現されていた。鮎川が相手GKにプレスをかけ、連動した圧力で相手を追い込み続け、高い位置でボールを奪い、ゴールに収める。その理想形の仕上げを行ったのが、東だった。
彼のポジションは左サイドバックであり、最終ラインの一員。本来であれば「前プレス」に絡んでこない立場である。だが、東は自身のポジションを捨てて一気に前に、しかも真ん中に走り、相手パスをペナルティエリア前でカットしてゴールに叩き込んだのだ。
ある意味、ハイリスクな選択。しかし、それが許されるのが今シーズンの広島であり、東の存在だ。「シュンキには前に出ても切り替わった瞬間に守備に戻れる力があるから」と、城福監督も彼の「変幻自在」ぶりに信頼を寄せる。
そごう広島店が展開した「サンフレ選手にチョコを贈ろう企画」で第4位に入り、人気も急上昇中。「15得点に関与したい」という東は、「理想のサイドバック像は?」という質問に「いません。オリジナルのサイドバック像をつくりたい」と語気を強めた。そう、「シュンキ・オリジナル」な超攻撃的サイドバックが機能すれば、広島の得点力は次のステージに進む。
文=中野和也
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By 中野和也