チームの最大の目標は、ACL出場権の獲得だ [写真]=Getty Images
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で準決勝に進出するなど、昨シーズンのヴィッセル神戸は飛躍した。だが、一方でJ1リーグでは14位と苦戦したシーズンでもある。言い方を変えれば、短期決戦では結果を残せたものの、長丁場の戦いでは安定感を欠くという課題が浮き彫りになった。
アジアNo.1クラブに向けて再始動する今シーズンは、ACL出場権の獲得が最大の目標になる。必然的に、求められるのはシーズンをとおした安定感。昨シーズンJ1ワースト4位タイの59失点を喫した神戸が、2月の沖縄キャンプなどで取り組んできた最大のテーマは『失点減』だった。
昨シーズンの神戸は、1試合平均で約1.8失点という数字を残した。これを昨シーズンACL圏内に入った3チームと比較すると、かなり高い失点率になる。ちなみに、トップ3で最も失点が多かったガンバ大阪は1試合平均1.2失点。現実的には、この前後を目指すことになる。
そのなかで注目されたのはディフェンス陣の補強だが、結論を言えば成功したとはあまり言い難い。センターバックのダンクレーと渡部博文、右サイドバックの西大伍と藤谷壮が移籍し、新加入はジュビロ磐田の櫻内渚のみ。横浜FCから復帰した小林友希を入れても2人と、単純に枚数で不安が残る。
三浦淳寛監督が「ACLの戦い方は1つのベースになる」と話した言葉を鵜呑みにするなら、基本は4バック。その場合、人数の問題はなくなるが、バックアップ選手の成長が必須になりそうだ。
ベルギー代表のトーマス・フェルマーレンは、平均1.8失点の原因について「1つではない。各ゴールによって問題は異なるからね。ただし、1.8失点はオーガナイズ(守備を組織化)できていない証拠。よりコンパクトさを求めないといけない」と語っている。個人の問題ではなく、チームの課題であるという見解だ。
その一方で、酒井高徳は「チームでどう守るかも大切ですが、局面では個でしっかり守ることが求められます。一人ひとりの守備の意識が、チーム全体の守備を高める」と話す。つまり、シーズンをとおして個と組織の両面をベースアップする必要があるということだ。
もちろん、今シーズンの大きなテーマは失点を減らすことだが、最大の武器である攻撃力を落としては意味がない。昨シーズンのリーグ戦で5位の50得点をマークし、今シーズンは世代別ブラジル代表経験者のリンコンや東京ヴェルディのホープである井上潮音らの加入でさらに攻撃力アップが期待されている。攻撃力を引き出せる守備、あるいは攻守一体型のスタイルを形成することがACL圏内に入るポイントとなる。
その場合、『失点減』というテーマのカギを握るのはディフェンス陣よりも、攻守のパイプ役である山口蛍やセルジ・サンペールになりそうだ。
【KEY PLAYER】5 山口蛍
昨シーズンのリーグ戦全34試合に出場した山口は、無警告・無退場で自身初のフェアプレー個人賞に輝いた。それについて、沖縄キャンプ2日目(2月5日)のリモート囲み取材では、こんなコメントを残している。
「無警告はあまり意識していなかったですね。でも、若い時と違って、(ここ数年は)いかにファウルしないようにしてボールを取るかは意識しています。体のぶつけ合いで取るよりも、インターセプトしたり、相手からボールが離れた瞬間を狙うように意識してきました。今年も(そういう守備を)やりたいけれど、どうしても体をぶつけないといけない場面もあると思うので、最初からクリーンにやると考え過ぎずにやっていきたい」
そんな山口が、クリーンな守備のなかで最もこだわっているのはインターセプトである。昨シーズンは、チームトップの23回を記録している。
「僕の中でいいディフェンスはインターセプトだと思っています。(なぜ、23回もできたのかを)説明しろと言われると難しいですけど、自分の体と取りにいく距離の関係性など、体に染みついたものがある」
単に、反応が早いだけではない。前段階で何度かパスコースを消す動きを見せた後、パサーがパスをキャンセルできないタイミングで受け手の前に出るなど、山口のインターセプトは感性と駆け引きの上にデザインされている。
今シーズンは、いくつのインターセプトを成功させるだろうか。円熟味を増す山口のプレーに注目したい。
文=白井邦彦
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