鹿島戦で決勝ゴールを決めた槙野智章 [写真]=清原茂樹
「浦和レッズは2017年にアジア王者になり、2019年にもアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で準優勝したチーム。2020年11~12月にJリーグ勢がカタールでACLを戦っているのを見て、『ああいう舞台でもう一度やらないといけない』と奮い立った。その思いをピッチにぶつけたいです」
2021年シーズンが始まる前、浦和10年目を迎えた槙野智章は新たな闘志を燃やしていた。2020年はコロナ禍の難しいシーズンだったが、浦和はJ1・10位、YBCルヴァンカップも1次リーグ敗退と結果が残せなかった。彼自身もシーズン序盤はベンチスタートを強いられ、大槻毅前監督の信頼を勝ち取れずに苦しんだ。
それでも、決して腐らないのがこの男だ。
「外から試合を見ながら、『すごく静かだな』『チームに元気がないな』と感じていたんです。声を出すのは自分の武器。ピッチに立ってからはコミュニケーションを特に意識しました。それで守備面が大きく変わった。組織としてやるべきことが明確になったし、自分も存在価値を示せた」とベテランの優位性を存分に発揮したという。
こうしたピッチ内外での影響力をリカルド・ロドリゲス新監督は高く評価。開幕から槙野を最終ラインの軸に据えた。30代以上の年長者は休養するケースの多いルヴァン杯も連続先発し、今季はここまで全試合スタメン出場している。その奮闘にもかかわらず、チームは思うように勝ち星がついてこなかった。
「リカさんが来てから練習の質も高いし、確実にいい方向に進んでいる。みなさんに期待を持ってもらえる魅力あるサッカーをお見せできる」と言い続けていた槙野も人一倍、危機感を募らせていたはず。阿部勇樹からキャプテンマークを託された3日の鹿島アントラーズ戦は必勝を期したに違いない。
リカルド監督のバースデーでもあるこの日、浦和はこれまでにない連動性と機動力を押し出し、鹿島を圧倒した。前線の武藤雄樹を軸に、両サイドの関根貴大と明本考浩、インサイドハーフの武田英寿、小泉佳穂が流動的に動きながらボールを支配する。移籍後リーグ戦初先発の西大伍も的確なポジショニングと鋭い戦術眼で試合を落ち着かせた。
そんな彼らを槙野は背後から力強く鼓舞。エヴェラウド、上田綺世という鹿島自慢の2トップに対しても体を張って激しく守る。前半は1-1で折り返すことになったが、「今日はイケる」と手ごたえを感じていたに違いない、
後半も激しいバトルが続いたが、槙野は一歩も引くつもりはなかった。それを象徴したのが、60分にエヴェラウドとスローインを巡ってボールを奪い合った場面。エヴェラウドに倒されると、背番号5はテレビカメラ前に座り込んで凄まじい形相で睨みつけた。これも敵を苛立たせる1つの駆け引きなのだろう。巧みな心理戦に持ち込み、敵を動揺させるのもベテランの味と言っていい。
決勝弾のチャンスが転がり込んだのは、この直後。武藤のスルーパスに反応した明本を対峙していた常本佳吾がペナルティエリアで倒し、VARチェックの末にPKが与えられたのだ。キッカーは明本と思いきや、キャプテンマークを巻く男。重圧のかかる中、槙野が右足で振り抜いたシュートはゴール左隅に突き刺さり、待望の2点目が生まれたのだ。
「今日は監督の誕生日だったから、絶対に勝ちたかった。このゴールはみんなで取ったゴール」
試合後の取材対応に登場したなかった分、槙野は自らのSNSでこうつぶやいた。武藤や明本のお膳立てがなかったら、この得点は生まれていない。まさにみんなで勝ち取った貴重な1ゴールにほかならなかった。
その後も関根の3点目がVARで取り消されたり、後半ロスタイムの彼自身のヘディングシュートがオフサイド判定で幻となるなど、いくつかアクシデントはあったが、浦和は最後の最後まで宿敵を凌駕。2-1で勝ち切った。
「ありとあらゆる面で成長している。非常にパフォーマンスがよかったので、これを基準にして続けていきたい」とスペイン人指揮官も大きな手ごたえを口にしたが、チーム全体が進むべき道をより明確にしたことだろう。「必ずいい結果が出る」と繰り返してきた槙野本人も1つの確信を得たのではないか。
しかしながら、ここで気を抜いてはいけない。今月はJ1・ルヴァン杯含めて8試合の超過密日程。今後のリーグ戦も知将・ロティーナ監督率いる清水エスパルス、リカルド監督の古巣・徳島ヴォルティス、絶好調・大久保嘉人擁するセレッソ大阪など難敵続きだ。けれども、鹿島戦で示した高いスタンダードを維持し、さらに発展させていけば、勝ち星を重ねられるはずだ。
ケガで出遅れた西も本調子を取り戻し、エースFW興梠慎三も完全復活が見えつつある。4日にコロナ陽性者が発覚し、不安なムードも漂っているが、力強い仲間たちとともに、間もなく34歳になる守備の要はリカルド新体制の浦和をグイグイと引っ張る覚悟だ。
「強いレッズをもう一度、取り戻したい」。その一心で、闘争心溢れるDFはこの先も全力で走り続けていく。
文=元川悦子
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By 元川悦子