G大阪戦で決勝ゴールを挙げた大谷秀和 [写真]=KASHIWA REYSOL
コロナ禍の2020年J1リーグで昇格1年目ながら8位と健闘し、YBCルヴァンカップでも準優勝した柏レイソル。しかし今季は、開幕・セレッソ大阪戦を落としてから停滞が続いていた。白星を挙げたのは3月6日の第2節・湘南ベルマーレ戦のみ。そこから6戦未勝利という足踏み状態に陥ってしまったのだ。
8戦終了時点の順位はJ2降格圏の暫定17位。昨季28ゴールを挙げてMVP&得点王に輝いたオルンガが去った影響は大きく、ここまでの通算ゴールはわずか5。「最後、決め切るところだけ」とエースナンバー10を背負う江坂任も苦しい胸の内を吐露していたが、チーム一丸となって抜け出す術を見出すしかなかった。
そこで奮闘したのが、柏一筋プロ19年目の36歳・大谷秀和だ。
4月11日のホーム・ガンバ大阪戦。主導権を握りながらゴールをこじ開けられずに迎えた76分に、柏は右CKのチャンスを得た。キッカーのマテウス・サヴィオが蹴ったボールに江坂が飛び込んでヘッド。一度はクリアされたが、左の三丸拡が拾って折り返した。これを大南拓磨らが競ったこぼれ球に反応したのが背番号7。左足で思いきり放ったシュートは井手口陽介の股の間をすり抜け、右ポストに当たってネットを揺らした。
「ミツ(三丸)が持った時に、オフサイドにならないようにちょっと下がりましたけど、その後、直接入りそうな感じはしなかったので(シュートの)感覚を持っていました。東口(順昭)選手は前に選手が多くて見えないと思ったし、とりあえず枠に入れることだけ意識した。あのゴールはみんなの気持ちが乗り移ったシュートでした」と大谷は満面の笑みを浮かべた。これが決勝弾となり、柏は1-0で勝利。未勝利街道から抜け出すことに成功した。
中盤の要はもちろんゴールを期待されて送り込まれたわけではない。「(ネルシーニョ)監督からも試合を落ち着かせてくれと言われていた」と語るように、後ろと前をつなぐことを意識して69分からピッチに入った。実は鹿島戦に敗れた後、彼らはネルシーニョ監督からミーティングで雷を落とされたが、大谷は指揮官の言わんとするところをピッチ上で体現する必要があった。
「『もっと危機感を持ってやらなきゃいけない』と強い口調で言われたんです。この8試合で勝ち点4しか取れてない状況をしっかりと理解してやらなければいけないと。鹿島戦も後半、同点に追いついた後、決めるべきところで決められずに負けた。僕自身も(3月17日のサガン)鳥栖戦のケガの後、外から見ていましたけど、自信を失ったり、後ろ向きになりがちだと感じていた。だからこそ今日は、『ミスは全員でカバーすればいい。チームとして勇気を持った積極的な戦いができればいい』と言っていたんです」
キャプテンはまず言葉で仲間を奮い立たせ、試合に入ってからはプレーで前向きな姿勢を示そうとした。それが決勝弾という形で結実したのだから、本人としても感慨ひとしおだったはず。彼の存在価値の大きさが改めて実証されたと言っていいだろう。
大谷が柏で生き抜いてきた2003年からの19年間というのは、本当に紆余曲折の連続だった。2011年のJ1制覇、2012年の天皇杯優勝、2013年のヤマザキナビスコカップ獲得など輝かしい時期もあったが、2006年、2010年、2019年と3度もJ2での戦いを強いられている。2008年から一貫してキャプテンマークを巻いてきた男は、浮き沈みの激しいチームを常勝軍団にしたいと願い、できる限りの努力を続けてきた。その大願は成就したとは言い切れないところがあるが、大谷という強力なリーダーなしにここまでの歩みはなかった。それだけは間違いないだろう。
普段は明るく穏やかだが、時には厳しく、いざという時には苦言を呈するのも辞さないというメリハリのうまさは、同じ84年生まれの長谷部誠と重なるところがある。長谷部も日本代表で8年間キャプテンを努めていた間、つねに周りに気を配り、規律から外れそうな人間がいれば容赦なく注意し、一体感を作ろうとしていた。
大谷は長谷部のような日本代表歴もないし、海外でのプレー経験もないが、柏への貢献度の高さ、周囲への影響力は文句なしだ。ゆえに、ネルシーニョ監督もG大阪戦を左右する後半大詰めの時間帯に投入して、勝負を託したのだろう。そこでいぶし銀の働きをしてしまうところは、いかにも大谷らしい。一見、地味に見られがちな彼のような選手がスポットライトを浴びるのは、サッカー界全体にとってもいいことだ。
「今回の得点が柏史上最年長ゴール? あんまり意識していなかったし、あくまで“おまけ”だと思いますけど、出るからには結果に貢献したい。今は若い選手も多いし、そういう選手から刺激を受けて、最年長ゴール記録をまた更新したい。さらに向上心を持ってやりたいなと思っています」
こう目を輝かせる36歳のボランチが見据える領域はまだまだ高い。偉大なキャプテンに率いられる柏の戦いはここからが本番だ。オルンガ不在の攻撃陣がいかにしてゴールを奪い、勝ち星を積み重ね、チームとして巻き返しを図っていくのか――。目先の課題克服に向け、大谷は普段通り、黒子に徹しつつ、チームを巧みにコントロールしていくつもりだ。
文=元川悦子
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By 元川悦子