いちご株式会社の長谷川拓磨代表執行役社長 [写真]=野口岳彦
Jリーグを支えるタイトルパートナー、トップパートナー企業のインタビュー連載「私たちがJリーグを支える理由」。第6回は、2019年からトップパートナー契約を結んでいるいちご株式会社。
スタジアムでの観戦をライフワークとしているサポーターなら、場内アナウンスされるその特徴的な社名を耳にして「?」と興味を持ったことがあるかもしれない。不動産の投資・運用をメイン事業とする同社は、2019年に不動産業界から初めてトップパートナー契約を締結。自身も学生時代にサッカーに熱中していたという代表執行役社長の長谷川拓磨さんは、単なる広告としてではなく、Jリーグが持つあらゆる可能性に大きな魅力を感じているという。
一般消費者を直接的な顧客としない“B to B”を業態とする同社は、なぜJリーグをスポンサードするのか。今最も注目される「サステナビリティー(持続可能性)」をキーワードに、スポーツとビジネスの可能性を考える。
インタビュー・文=細江克弥
Jリーグとの「一期一会」の縁
———Jリーグのスタジアムでアナウンスされる「いちご」という社名が強く印象に残る御社ですが、まずは事業内容について教えてください。
長谷川 当社はオフィスビル、商業施設、ホテル、大型マンションなど様々な種類の不動産の投資と運用を主だった事業としており、2011年の東日本大震災以降は太陽光発電や風力発電といったクリーンエネルギー事業もスタートしました。ただ、その大部分がいわゆる“B to B”ですので、「いちご」という特徴的な社名があっても一般的に認知されることはありませんでした。そういう意味では、Jリーグとのパートナーシップ締結以降は取引先のお客様から「いちごって、Jリーグの?」と聞かれる機会がかなり増えました。結果的には、とてもありがたいきっかけをいただけていると思います。
———“B to B”を主な業態とする企業にとって、Jリーグとのトップパートナー契約を直接的にビジネスに結びつけることは簡単ではない気がします。それでいて、なぜパートナーシップ契約に至ったのでしょう?
長谷川 当社は2019年に「長期VISION『いちご2030』」を掲げ、サステナブルな社会を実現するための「サステナブルインフラ企業」として事業を新たに定義しました。不動産とは、人々の生活に欠かせない社会インフラであり、私たちは、スポーツ、エンタメ、農業、カルチャーなどのコンテンツと融合することで人々の生活をより豊かにすることを目指しています。スポーツにおける不動産とは、例えばスタジアムのこと。私たちは様々なコンテンツと結びつく形でビジネスを広げていきたいという思いを持っていますし、逆に、私たちが持っている不動産の知識やノウハウを各業界に落とし込むこともできます。そう考えていたタイミングで、Jリーグの村井満チェアマンからお話をいただいたことがパートナーシップを結ぶきっかけでした。
———村井チェアマンとは、どのようなお話を?
長谷川 全般的に言えばサッカーに対する熱い思いについてですが、やはりJリーグにとっての通念である「Jリーグ百年構想」と社会のためにJリーグを使おうというコンセプトで進められている「シャレン!」、それから、とにかく“地域”に貢献しようとするその姿勢に最も強いシンパシーを感じました。私たちは、心で築くと書いて“心築(しんちく)”を中心としたサステナブルな事業モデルを展開しており、わが国の不動産の寿命を100年にしたいという考えのもと「100年不動産」にも取り組んでいるのですが、Jリーグもまさに、100年という単位で地域をどのように活性化するかを考えている。不動産というプラットフォームを生かして少しでもそのお手伝いができると思いましたし、互いに連係できると考えました。私たちにとっては、策定したばかりの「長期VISION『いちご2030』」における考え方と完全にマッチするご提案をいただけました。「いちご」という社名は「一期一会」に由来するのですが、強く“縁”を感じる、本当に素晴らしいタイミングでお話をいただけたと思っています。
スポーツと不動産は似ている
———スポンサーとしてスポーツに関わることについては、どのような考えをお持ちですか?
長谷川 どのようにお客様を呼び、そこでどのように楽しんでもらうかをテーマとする点において、スポーツと不動産はとても似ていると感じています。スタジアムはもちろんのこと、サッカー周辺のその他の不動産にとって、Jリーグはお客様を呼び、楽しんでもらうための強烈なコンテンツになり得る。その親和性をうまく引き出すことができれば、不動産のバリューもさらに上がりますよね。Jリーグに関わるいろいろな企業や地域と一緒にそれに取り組むこと、あるいは自分たちが何らかの形で協力できることにはとても大きな魅力があると考えています。
———いわゆる「看板広告型」のスポンサードではない関係性を目指されたということですね。
長谷川 そのとおりです。私自身がずっとサッカーをやってきたこともあって、身近に“プロ”を経験した人が何人もいます。ただ、特にセカンドキャリアにおいてはまだまだ大きな課題があり、その根源にはスポーツをマネタイズすることの難しさがあると感じていました。そういう意味でも、Jリーグ、あるいは各クラブの直接的な取り組みが、もっとビジネスとして積極的に成立する世界を作らなければいけない。それがきっと地域を活性化し、その他の事業に対してもいい影響を及ぼすと考えているので、そういった仕組み作りにも貢献したいという思いを強く持っています。
プロスポーツのあり方は、転換点を迎えている
———お話を聞いていて、不動産を100年スパンのサステナブルインフラにしようとする長谷川社長の考え方と、サッカーそのものをサステナブルなインフラにしなければならないというJリーグの考え方には強い共通性を感じます。
長谷川 だからこそ私たちに声を掛けていただけたのだとしたら、ぜひともその期待に応えたいです。少し大きな話になってしまいますが、日本におけるプロスポーツのあり方は、今、大きな転換点を迎えている気がします。サッカーは間違いなくその先頭を走っていて、地域との密着性をより強めて発展させていくためには、やはりサッカーそのものが文化やビジネスとして自立し、多種多様なバックグラウンドを持つ人が自主的に支える構造を作らなければなりません。その結果が、スポーツとしての強化やビジネスの発展につながり、地域の活性化を力強く後押しする。そこにはスポーツを本業とする人にとっても、私たちのようにそうではない人にとっても、とても大きな可能性があると感じています。
———とてもよくわかります。
長谷川 スポーツの素晴らしいところは、それを通じて関わるすべての人がポジティブな働きかけができること。近年のJリーグはまさにそうした考え方を強く持っているので、私たちもそこに貢献したいと思っていますし、もちろんビジネスとしても応援できると実感しています。
新しい“豊かさ”を生むために
———失礼かもしれませんが、長谷川社長ご自身のサッカーに対する思いの強さに驚きました(笑)。
長谷川 もちろん“思い”だけで何かを決めることはできませんが、小学1年生からずっとサッカーをやってきたという私自身のバックグラウンドは大切にしています。Jリーグとのパートナーシップとは別の話ですが、私が子どもの頃はプロの世界なんて想像すらできませんでしたし、サッカーでメシを食える時代が来るなんて思ってもみませんでした。でも、高校生、大学生と成長するにつれて、本当にサッカーがうまい人はプロの道が開けるようになった。その様子を間近に見てきましたし、当時の私にとって、彼らは本当に憧れの的だったのです。
でも、そういう選手でさえも、現実的には引退後のキャリアに悩んでいたり、思うようなセカンドキャリアを形成できない人のほうがむしろ多い。そのことに対しては、やはり「何とかしたい」という思いを個人的に持っていました。
———その解決策の一つがサッカーそのものの発展であり、すなわち自立したビジネスとして成立することであると。企業は自分たちのビジネス機会を拡大しながら、サッカーの発展に貢献できるということですね。つまり、それが“宣伝”ではないスポンサーシップの新しい形になり得る、と。
長谷川 私はそう思います。ともに発展するという意味においては、冒頭に申し上げたとおり不動産とスポーツの相性はとてもいいと考えています。地域があって、様々な種類の不動産があって、そこにサッカーという魅力的なコンテンツがある。それを地域の皆さんが心から楽しむことができたら、そこから派生して様々な効果を生むはずです。そういうパワーのある好循環を実現するための力になりたいです。
———日本のスポーツは、これからが楽しみですね。
長谷川 本当の意味で“生活の一部”となったら、いろいろなことが面白く変化するのではないかと期待しています。私たちは「日本を世界一豊かに。」という経営理念を持っているのですが、それはもちろん心の豊かさも意味しています。間違いなく、スポーツはその役割の一端を担っていますよね。だからこそ私たちは、不動産とスポーツを掛け合わせ、新しい豊かさを生み出すためにJリーグとのパートナーシップを結んでいると言えるかもしれません。
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By サッカーキング編集部
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