[写真]=Getty Images
今や稲垣祥は名古屋グランパスに欠かすことのできない存在となった。J1リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯、ACLの全大会・全公式戦に出場。獅子奮迅の活躍を見せ、初のベストイレブン入りを果たした。「自分自身としてもステージを一つ上げることができた」充実の2021シーズンを振り返ってもらった。
取材=三島大輔
ーープロキャリア8年目、稲垣選手にとって最も多くの試合に出場したシーズンだったと思います。まずは現在の心境から聞かせてください。
稲垣 今シーズンのグランパスは公式戦55試合を戦いました。長期間に渡っての隔離生活もありましたし、タフで充実した1年でしたね。個人としてはプロになって初めてのタイトル獲得もありました。その喜びや充実感というのは、いまだに残っています。総じて「いいシーズンだった」とは思いますね。
ーー2・3月度の『2021明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVP』を受賞。2021 JリーグYBCルヴァンカップ では優勝&MVPを獲得しました。そして今回初のベストイレブン入りということで、ご自宅にトロフィーやメダルなど記念品が増えた1年になったと思います。
稲垣 たくさんあります! でも、僕は飾らず大事にしまうタイプなんですよ。ルヴァンカップMVPに選出された時にもらったクリスタルは、クラブに「貸してほしい」と言われて渡してからまだ返ってきていないので、さっき「僕のクリスタルはどこにいきました?」と連絡したところです(笑)。
ーーリーグ戦は19勝9分10敗の5位という成績でした。
稲垣 この結果に満足はしていません。上位争いという土俵に立つことはできたかもしれないですけど、グランパスはもっと上を目指さなければいけないクラブです。自分たちの力不足を痛感した試合も多くありましたし、個人としても「まだまだだな」と感じる試合がたくさんありましたね。
ーー特に序盤戦は『失点しない名古屋』を強く印象付けたと思います。
稲垣 流れがいい時はそういうもので、極端な話、“普通にプレーしていれば勝ててしまう”という感覚すらありました。序盤戦はそれが続いていたので自信もありましたね。昨年から積み上げてきたものが表現できていたと思います。一方で川崎フロンターレとの2連戦で自分たちの力不足を痛感しました。フィッカデンティ監督が不在というアクシデントもありましたが、結果的には2連敗ということで自分自身に対する不甲斐なさを強く感じました。
ーー6月下旬から7月上旬にかけてAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージが開催され、これまでに経験したことのないようなスケジュールで試合をこなすことになりました。タイでの連戦はいかがでしたか?
稲垣 精神的にも肉体的にも、今シーズンで最も厳しかった時期ですね。隔離生活は部屋から一歩も出られないという厳しいものでした。ピッチや気候に苦労したことも含めてすごく大変でしたけど、今振り返ると「いい経験ができたな」とは思います。「もう一度やるか?」と言われたらちょっと考えますけど(笑)。
ーー隔離生活中はどのように自分をコントロールしていたのでしょうか?
稲垣 コントロールできる幅も狭いんですよね。動画を観たり、本を読んだりするしかできないので難しかったですよ。監督も「こんなのやっていられない!」という感じでした(笑)。みんなで食事をしたり、散歩をしたり、部屋で会話ができていたコロナ以前の環境はすごくいいものだと改めて感じましたね。
ーー今シーズンはルヴァンカップ優勝を果たしました。リーグ戦に加え、ACLや天皇杯の試合をこなす中、決勝までの道のりもすごくハードだったかと思います。
稲垣 あの時期もすごく厳しかったですね。先ほど話した川崎Fとの連戦と、いろいろな大会を並行して戦っていた時期は山場だったかなと。ACLで敗れた後のリーグ戦では上位争いをしていたヴィッセル神戸に2-0から追いつかれ、天皇杯ではセレッソ大阪に0-3で負けてしまい、正直すごくしんどかったです。「すべての大会でタイトル獲得のチャンスがある!」と前向きな気持ちでいられていたのに、気付いたら多くの大会で敗退が決まってしまって、ルヴァンカップしか残っていない状況になりました。切り替えは難しかったですけど、それでも「今シーズンはタイトルを獲得するんだ!」という気持ちは強かったです。連戦の中でのルヴァンカップ決勝でしたけど疲労は感じなかったですね。「自分たちの存在を示すんだ!」という気持ちが勝っていたのかなと思います。
ーールヴァンカップ決勝では優勝を大きく手繰り寄せるゴールを決め、その後の感情の爆発ぶりも印象的でした。
稲垣 ファン・サポーターの皆さんの思いも感じていましたし、ここ数年タイトルから遠ざかっているという背景も理解した上での試合でしたから。決勝の前にはいろいろな大会で敗退が決まるという辛い時期も過ごしました。もちろん僕ら選手も悔しいし辛かったですけど、ファン・サポーターの皆さんも同じ気持ちだったと思います。そういった状況で、グランパスファミリーの前でゴールを決めることができました。今までのゴールとはやはり違いましたし、こみ上げてくるものはありましたね。
ーー個人としてはMVPと得点王のダブル受賞です。ボランチを主戦場とする選手が得点王になるのは珍しいことだと思いますがいかがでしょう?
稲垣 そうですね、運を味方にしつつ、チームメイトに助けてもらいながらの受賞でした。周りへの感謝の思いと「ラッキーだったな」という思いです。
ーー個人的にはFC東京との準決勝2戦で決めたゴールが印象的です。稲垣選手の“魂”が乗り移っていたように見えました。
稲垣 チームはもちろん、僕自身もタイトルを獲りたかったですからね。ルヴァンカップ初タイトルが懸かっていて、あの時は決勝の舞台に行けるかどうかの瀬戸際。僕らは攻めるしかない状況だったので、ある意味で吹っ切れていました。そういった中でも冷静さをしっかりと持ちながら、でも最後のところは気持ちで押し込みました。あの時は冷静さと熱い気持ちの両方を持ちながらプレーできていたと思います。
ーータイトル獲得に加え、今シーズンは公式戦全試合出場を果たしました。キャリアを振り返った時にも誇れるシーズンにきっとなったと思います。
稲垣 僕自身もそう思っています。いつか現役を引退して自分のキャリアを振り返った時、すぐに思い出すような本当に特別な1年になったと思います。それも信頼して起用してくれた監督、素晴らしい能力を持ったチームメイトが多くいたからです。普段の練習からレベルが高く、僕自身うかうかしていられなかったですね。そういった環境があったことに感謝したいと思います。
――そして日本代表デビューも今シーズンの大きなトピックスだったと思います。
稲垣 本当に光栄なことです。世代別の日本代表にも選ばれたことがなかった自分が、29歳にして日本代表に選んでいただけるというのはなかなかないことだと思います。けど、それもある意味自分らしいなと。これからもチャンスがあれば、狙っていきたいと思います。
ーーリーグ戦では8ゴール2アシスト。ルヴァンカップでは4ゴールで得点王に輝きました。ゴール数についてはどのように感じていますか?
稲垣 自分の中ではゴール数が一番だと思っていません。それよりも大事な仕事が90分の中であると認識していて、それを果たすためにすべての試合に臨んでいます。「点を取るぞ!」という思いでゲームに入ったことは一度もありません。けれど、ゴールを決めることで、チームを勝利に導くことができる。その価値を自分自身の中で感じています。ゴールを取れるボランチは、今シーズンのみならずずっと前から自分の中で一つの目標としてきたスタイルです。実際にそういったことを表現できて、自分自身としてもステージを一つ上げることができた1年だったと思います。
ーー来シーズンは国内3大タイトルに専念することになります。改めて意気込みを聞かせてください。
稲垣 今シーズン、タイトルは獲れましたけど一つだけ。グランパスはもっともっとタイトルに絡んでいかなければいけないクラブだと思います。間違いなく大きな一歩を踏み出せたと思うので、来シーズン以降どのような価値を示せるのか。そしてどのようなクラブでいられるのかが問われると思っています。まだグランパスとしてはスタートラインに立ったという印象です。
ーーでは、最後に1年間応援してくれたファン・サポーターの皆さんへメッセージをお願いします。
稲垣 ファン・サポーターの皆さんにとってもタフなシーズンだったと思います。辛いこともありながら、ルヴァンカップのタイトルを獲ることができた。そういった苦楽を共にできて、本当に感謝したいです。来年以降もさらなるサポートをお願いしたいと思います。これからも応援よろしくお願いします!
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By 三島大輔
サッカーキング編集部