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古巣相手に中盤制圧、リカルド監督の“申し子”浦和MF岩尾憲が断ち切る停滞感

2022.03.07

湘南戦での浦和MF岩尾憲 [写真]=J.LEAGUE

「ここ3週間くらいはコロナ陽性者、退場者、オウンゴールに近い失点などコントロールできないことが起きている。我々のような若い選手が多いチームは1試合ずつ戦い、長いプロセスを経ていいチームになる。早く結果を出したいですね」

 2022年のJ1開幕から4戦未勝利という想定外のスタートを強いられた浦和レッズ。リカルド・ロドリゲス監督は4日のオンライン会見で複雑な胸中を口にした。だが、試合は待ってくれない。まずは6日の湘南ベルマーレ戦を確実に勝利し、悪循環を断ち切ることが肝要だった。

 重要な大一番に向け、指揮官が中盤のキーマンに指名したのは33歳の新戦力、岩尾憲。2017年から2020年にかけて徳島ヴォルティスでリカルド監督と共闘してきた同士であり、戦友だ。この男の傑出したリーダーシップと戦術眼を高く評価しているからこそ、昨季末、徳島の主将だった岩尾に獲得オファーを出したのだ。

「6年という長い間、徳島にいて、引き続き力を貸してほしいというクラブの意向と自分の思いが交錯し、簡単には決められなかった。ただ、今年34歳になる自分には残された時間が少ない。その時間をどう使いたいのかと考えた結果、浦和にお世話になることを決めました」と本人も覚悟を持って新天地に赴いた。

 浦和での最初の公式戦となった2月12日のFUJIFILM CUPでは目覚ましい働きを見せ、リーグ王者である川崎フロンターレ撃破の立役者となった。本人も「今日はおおむねうまくいった」と手ごたえを口にしており、J1開幕後の快進撃が続くと思われた。

 ところが、冒頭の通り、浦和は2月19日の京都サンガF.C.戦の黒星発進から苦境が続いた。岩尾自身もアクシデントがあったのか欠場。湘南時代の恩師である曺貴裁監督との新天地初対戦は叶わなかった。続く23日のヴィッセル神戸戦で途中出場したものの、1点リードを守り切るクローザーの仕事を全うできずにドロー。さらに26日のガンバ大阪戦では2枚の警告を受けて退場となり、自身が与えたFKがきっかけとなり、福田湧矢の決勝点が生まれるという不運にも見舞われた。

 予期せぬ紆余曲折を経て、ようやく2戦ぶりのスタメンに抜擢されたのだから、勝利に直結する仕事でリカルド監督を窮地から救わなければならない。平野佑一とのボランチの関係性含め、その動向が注目された。

 彼らが統率する中盤は序盤から安定。湘南のハイプレスにも引っかかることなく、スムーズな組み立てを見せた。開始16分に左サイドの好連携から江坂任が待望の先制点をゲット。1点をリードしたが、その後も浦和は相手にまったくと言っていいほど隙を与えなかった。

「(岩尾と平野は)2人とも相手と味方を見ていいポジションを取れる選手。自分のポジションを空けてくれたり、相手のマークを引き付ける位置を取ってくれるので、自分のところも比較的空いていた。そういうスペースやマークの共有ができていたので、チームとしてうまくボールを運べたと思います」と、江坂も新ボランチコンビの息の合った連携を前向きに評していた。

 そんな前半31分、平野にアクシデントが発生し、伊藤敦樹との交代を余儀なくされた。ただ、このボランチコンビはG大阪戦でも経験済みで、岩尾にとっては問題なくスイッチできた。背番号19は伊藤や関根貴大ら周囲にいる面々に的確に指示を出しつつ、空いたスペースを埋め、ボールを奪いに行く。そして時には攻撃の起点となる効果的なパス出しを披露。リスタートのキッカーとしても脅威となった。

 大ベテランの一挙手一投足を目の当たりにして、湘南のパリ五輪世代のアンカー役、田中聡も学ぶところが多かっただろう。「戦術も大事だけど、気持ちの部分で浦和の方が上回っていた」と19歳の若武者は反省しきりだったが、声掛けや指示、周りを動かす力は確かに足りなかった。岩尾にしてみれば、自身が新人時代を過ごしたクラブの若手にその重要性を示せたのなら嬉しいはずだ。

 まさに「中盤の司令塔」とも言うべき存在が輝いたことで、浦和は危なげない試合運びを見せ、2-0で勝利。喉から手が出るほどほしかった勝ち点3を手に入れた。しかも、エースの江坂が結果を残し、西川周作ら守備陣が完封するという理想的な形。タイトルを争う川崎や横浜F・マリノスら上位陣との差を詰めていく意味でも、大きな一歩に違いない。

 リカルド監督にとっては、新たなボランチの組み合わせを固められたのも大きいはずだ。ここまでは柴戸海、伊藤、岩尾を回す形を取っていたが、平野を加えて4枚で過密日程を乗り切っていける体制がようやく整った。岩尾自身も開幕直後の停滞感を断ち切り、いよいよ浦和で本領発揮していけそうな状態になってきたと言っていいだろう。

 ここまで湘南、水戸ホーリーホック、徳島とメジャータイトルに縁遠いクラブを渡り歩いてきた男にとって、今季は本気でタイトルを狙いに行く年。4月にはアジアチャンピオンズリーグも始まるため、もっともっとギアを上げていかなければいけない。

 プロフットボーラーとしての真価が問われるシーズンを間もなく34歳になるMFはどう過ごすのか。自信をつかんだ湘南戦をさらなる浮上のきっかけにしてほしい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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