[写真]=新井賢一
敗北は、苦すぎる──。
その味を知る森重真人が2017年以来、5年ぶりに腕章を巻いて先頭に立っている。
かつては寡黙ながらストイックなキャプテンとしてチームをけん引した。チームでは常に先頭を走り、背中で語ってきた。だが、周りとの温度差を感じたこともあった。「万年中位」「勝負弱い」が、FC東京の代名詞と言われてきた。それに抗い続けてきた。
「納得がいかなかった。その印象や、周りの声をかき消したいとやってきたのに、望んでも望んでも変えられなかった」
大事な試合で負けるたびに、チームを変えられない自分を責めた。「このままじゃダメなのに」という言葉には、いつも怒気が含まれた。あの日の怒りと、探した矛先は──。「今考えると、背負ってきたものはあったのかもしれない。以前は、周りにイライラもした。自分との温度差があるのはしょうがないってどこかで割り切ってきた」
「でも、今は違う」という。キャプテンを譲り、それまで一人で背負い込んだ責任を一緒に持ってくれる仲間を得たからだった。そして今季、チームの指揮を執るアルベル・プッチ・オルトネダ監督から再び腕章を託された。
以前の人を寄せつけなかった、寡黙なキャプテンの姿はどこにもない。森重は、キャプテン就任直後の取材で冗談交じりに「以前よりも、もっと口数が多いキャプテンになりたいかな」と言い、目指す新たなキャプテン像についてこう言葉にした。
「どうしても監督と、選手の間に立たないといけない。監督が求めることと、選手が思っていることのギャップはどこかで生まれる。そういった小さな問題を早め、早めに解決したい」
今季は新しいプレーモデルの確立を目指す一年でもある。新監督が持ち込んだ、ポジショナルプレーへの挑戦はトライ&エラーの連続だ。開幕前のキャンプから森重を中心に、ピッチでは自然と話合いの輪ができることも多かった。そうした中で、いつも充実の表情を浮かべていた。森重は「正直、以前よりもやりやすい」と言う。
「練習や、試合に対する姿勢は、監督が一番求めていることでもある。だから、何のストレスもない。正直、以前は、そこでの温度差を感じていた。今はみんなが勝つために必死に頑張っているし、それが前提にあって、その上に戦術や、一人ひとりの向上心が積み上がっていくのだと思う。すべてが勝つためというか、みんなが勝つために練習をしている。監督のリーダーシップもあって、そういう意識で日々を過ごせている」
今年で在籍13年目の最古参。いまだに、J1リーグ優勝は果たせていない。敗北の味はチームの誰よりも知っている。悔しさを糧に、いつかカマすための準備を今は整えているところだ。いつか勝者となるために、森重は再び先頭に立った。そのために、アルベル監督のサッカーに取り組んでいる。
立ち位置の優位性を保ち、攻防一体となったサッカーへの挑戦。ポジショナルプレーという聞こえは難解だが、指揮官が求めているのは「ベーシックな部分」だという。
「すべてが止めて、蹴るの連続の延長上にある。一対一で負けない、相手よりも気持ちも、運動量も上回る。そういう当たり前のことを、全て当たり前にすることが必要。そのために、どれだけ練習のときから積み上げられるか。意識してできるか。大きな成果を生む方法はそれしかない」
「結局は、シンプルで相手がどう動いて、どこが空いて。そして、いかにしてそこに届けるのか。3つのパスコースがあったとして、その中から瞬時にどこがいいかを判断していく。それができればゴールまで辿り着ける。そうやって整理すると、本当にシンプル。でも、それが難しい」
いよいよ12日にはサンフレッチェ広島を味スタに迎える。そこが新生・FC東京のホーム初披露の場となる。
「きっとファン、サポーターの期待も高まっている。だからこそ、期待に応えられるようにいいプレーをして勝たないといけない。みんなワクワクしていると思うから」
まだまだ道半ばだが、選手一人一人がそのサッカーに可能性を感じ始めているのも確かだ。充実の一番の理由は、そこにある。
「監督が求めていることに必死に追いつこうとしているし、これがいいサッカーと信じて、みんなで表現したら絶対に楽しいし、強いし、面白いというのが根底にある。そうしたときに生み出される団結力は、(優勝争いをした長谷川)健太さんの2年目にも感じた。そうなったときの東京は強いということも知っている」
そう言うと、以前の苦みばしった顔で口にしたフレーズとは真逆の言葉が口からこぼれ出た。
「だからめちゃくちゃ楽しいですよ、今」、と。
文=馬場康平
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By 馬場康平