川崎戦で得点後に喜ぶ山田 [写真]=金田慎平
桜満開の等々力陸上競技場で行われた2日の川崎フロンターレ対セレッソ大阪。Jリーグ王者である川崎の26試合ホーム無敗記録樹立のかかる大一番で、逆に主役の座へ躍り出たのはC大阪の方だった。
「彼らの歴史にピリオドを打つ」と小菊昭雄監督に鼓舞された面々はスタートから躍動。凄まじいハイプレスをかけ、日本代表DF谷口彰悟が統率する相手守備陣からボールを奪い、鋭いカウンターを次々とお見舞いした。
そのけん引役となったのが、最前線の一角を占める22歳のFW山田寛人だ。最初の見せ場は前半13分。加藤陸次樹の鋭いチェイシングで谷口の持つボールを引っかけたところから鋭い切り替えで攻めに転じた瞬間、山田は勢いよく前線へ。加藤のパスを受け、強引に右足シュートを放った。これが山村和也の足に当たって右ポストを強襲。跳ね返りを乾貴士が押し込み、待望の先制点につながった。
「あの場面は今までだったら打っていませんでした。絶対にパスを選んでいたと思う。思い切りがうまいこといい形につながりました」と本人も自らの積極性に自信を深めている様子だ。
勢いに乗ったC大阪は前半28分に乾が加点。36分にも3点目を挙げる。加藤の縦パスに山田が反応。マークに来た谷口を巧みな足技でかわしてそのまま独走し、名手チョン・ソンリョンの位置をしっかり見て左足を振り抜いたのだ。
極めつけは後半23分の4点目だ。左に流れた原川力のクロスに呼応した背番号34はニアサイドに侵入し、右足を一閃。川崎を絶望の淵に追い込んだ。これで2得点1アシスト。最終的にC大阪は4-1で王者を撃破したが、覚醒した22歳の点取屋の貢献度は極めて高かったと言っていい。
「山田は去年から成長著しい選手。今年はキャンプで出遅れたんですが、コンディションが100%になったことがまず大きい。高さ、速さ、うまさといろんな水準が高い選手で、将来的には日本を代表するストライカーになると思っている」と指揮官も太鼓判を押していたが、潜在能力の高さはアカデミーに在籍していた頃から知られていた。
というのも、彼は久保建英、谷晃生、瀬古歩夢らとともに2016年AFC U-16選手権と2017年U-20ワールドカップに参戦。期待値が非常に高かったからだ。
ただ、優しく温厚な性格もあり、当時は同世代の宮代大聖、中村敬斗らの後塵を拝する格好になっていた。が、トップ昇格後にFC琉球やベガルタ仙台へ武者修行に出て、タフさや逞しさを増したのが大きかった。
そして2021年にC大阪復帰。序盤は大久保嘉人や加藤、豊川雄太らの陰に隠れていたが、8月末に小菊監督が就任してから出場機会を増やし、存在感を高めていく。10月末のYBCルヴァンカップ決勝にもスタメン出場。敗北を味わったが、U-17時代以来の大舞台を経験し、少なからず飛躍のきっかけをつかんだのではないか。
迎えた2022年。大久保が引退し、豊川が移籍。藤尾翔太、西川潤というパリ五輪世代のFW陣がレンタルに出される中、山田はFW陣の中心の1人と位置づけられた。小菊監督も話した通り、シーズン序盤はコンディション不良とケガに苦しんだが、3月6日のFC東京戦から戦線復帰。3月19日の北海道コンサドーレ札幌戦で今季初得点を挙げると、26日のルヴァン杯・大分トリニータ戦、今回の川崎戦と公式戦3連連続ゴール。「決めるべきところで決められる存在」になりつつある。
「今はとりあえず1試合でどれだけシュートを打てるかを考えてやっています。(3月12日の)清水エスパルス戦で自分がシュートできる状況で無駄にヒールで落として相手にかっさらわれ、カウンターを食らった場面があって、自分でもダメだなと思ったので。スタッフからも『もうアシストなんかするな。シュートしか打つな』と言われているので、意識を変えた。それで得点が生まれているので、すごく嬉しいですね」
本人も目をギラつかせるが、おっとりした人間性の山田がいい意味でエゴイストに変貌したことには大きな意味がある。184センチという高さとスピード、ドリブル突破力を備える山田に決定力が身につけば、まさに鬼に金棒。昨夏の東京五輪は呼ばれなかったが、五輪落選からA代表入りし、ワールドカップ出場を射止めた大迫勇也や原口元気のような軌跡を辿ることは十分に考えられる。
C大阪の先輩でもある柿谷曜一朗(名古屋グランパス)も2012年ロンドン五輪の頃はノーマークだったが、2013年に21ゴールを奪い、2014年ブラジルW杯の代表メンバー入りを果たした。山田の場合は今年11月のカタールW杯までは8カ月しかないが、このままの勢いで得点を積み重ねていけば、何が起こるか分からない。その先の代表も見据えて数字にこだわり続けることが肝要なのだ。
「この間の代表戦に同じ東京五輪世代の人が出ていて、パリ五輪世代の(西尾)隆矢とかが頑張っている中で、刺激は受けていますけど、自分はこのチームで頑張るしかない。あまり周りのことは気にせず、自分のゴールだけに集中してやっていきます」
地に足の着いたコメントを残した山田。こういうノーマークの逸材がブレイクすれば、Jリーグも日本サッカー界ももっと盛り上がる。ここからの快進撃が楽しみで仕方ない。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子