川崎F戦入場時の鈴木優磨 [写真]=金田慎平
「セットプレーでやられちゃうっていうのが今のウチを示しているなと。悪い内容の中でも勝ち点3を取れていたら違う試合になっていたと思うけど、同点にされるのは、弱いチームかなと。そこに対して真摯に受け止めて、また練習からやっていこうと思います」
8月21日の湘南ベルマーレ戦を1-1で引き分けた後、鹿島アントラーズの鈴木優磨は神妙な面持ちでこう言った。
岩政大樹監督率いる新体制へ移行してから2試合。14日のアビスパ福岡戦こそ勝利したものの、思うように波に乗り切れていない。“常勝軍団復活”を期して今季から3年ぶりに古巣に戻り、小笠原満男が背負った40番を引き継いだ男は、「チームを何とかしたい」という思いを色濃くにじませた。
それから約1週間後の27日。鹿島はJ1王者の川崎フロンターレを撃破すべく、等々力陸上競技場に向かった。ご存じの通り、鹿島はオリジナル10の名門であり、川崎Fは2000年にJ1初昇格を果たした後発組。関塚隆、相馬直樹、鬼木達といった川崎Fの歴代指揮官が鹿島出身者という点からも分かる通り、鹿島のいい部分を学んで成長してきたと見ることもできるだろう。
ところが、2016年4月2日の等々力での一戦が1-1のドローに終わって以来、鹿島は川崎Fに勝てなくなり、両者の関係性は逆転した。足掛け7年間で13戦未勝利というのは“負の歴史”以外の何物でもない。
「川崎Fは風間八宏さんというチームの哲学を作り上げた監督がいて、鬼木さんがそれを継承している。目先の結果は大事だが、ベースとなる鹿島のサッカーがどういうものかを表現できるようならないといけない」と岩政監督も就任会見で強調した。川崎Fに先を行かれているという事実を認めつつも、現有戦力の英知と底力を結集して勝つしかない。そう考えて、鈴木優磨らはピッチに立ったはずだ。
この日の鹿島は4-3-1-2の布陣を採用。中盤をダイヤモンド型にして、相手の4-3-3に対抗しつつ、攻守両面で上回って勝利することを目指した。川崎Fの最大のポイントである中盤を寸断するため、樋口雄太、和泉竜司、仲間隼斗にしっかりとマークをつかせ、高い位置で奪って攻め込むイメージで挑んだのだろう。だが、序盤はギクシャク感が否めない。相手の山根視来、脇坂泰斗、家長昭博の素早い連係を止めきれず、最終的に家長をディエゴ・ピトゥカが倒してしまい、PKを献上。これを開始8分に決められるという苦しい滑り出しを余儀なくされたのだ。
さらに14分にも、ピトヵカがマルシーニョの突破を止めに行ってFKを与え、これを脇坂に決められるという最悪の展開になってしまう。奇しくも、湘南戦後に鈴木が「セットプレーでやられちゃうのが今のウチを示している」と発言した通り、今回も2点をリスタートから奪われてしまったのだ。
ただ、そこからの巻き返しは凄まじかった。特に後半に入ってからは「前半は守備タスクの位置取りをさせていたが、後半は攻撃に振り切った」と指揮官が説明した通り、怒涛の猛攻を見せる。そして52分に樋口のクロスから仲間がヘッドで合わせ、1点を奪い返したのだ。
このシーンで背番号40はファーサイドに侵入。登里享平とGK丹野研太を引きつけ、仲間を後方支援するという黒子の仕事をしてみせた。その後、エレケと中村亮太朗が入ってからは最前線からトップ下にポジションを下げてフリーマン的にプレー。つなぎ役もこなしながら得点機を演出しようとトライした。さらに3バックにシフトした終盤には、ロングボールに呼応してゴール前で再三、競り合いに行く。ガムシャラにゴールに向かう姿勢は鬼気迫るものがあったが、川崎Fの徹底した守りに跳ね返されてしまった。
最終的にボール支配率や走行距離などのスタッツでは上回ったものの、鹿島は1-2の惜敗。川崎F戦14戦未勝利という不名誉な記録が続く形となった。クラブ生え抜きで、この日キャプテンマークを巻いた鈴木は重責をひしひしと感じたに違いない。
「戦い方は提示されているので、あとは選手がどういう熱量でやっていくかだと思う」とも湘南戦後にコメントしていたが、こういう苦境にいる時こそ、選手側が積極的にアクションを起こしていくことが肝心だ。岩政監督が「“常勝”の看板は降ろしていい」と重圧を軽減させるとともに、新たな鹿島を作っていくことを宣言したのだから、それをピッチで実行するのは彼らなのである。
鈴木はその筆頭と言える存在だ。今季10ゴールをマークした上田綺世が去った後、土居聖真、エヴェラウド、アルトゥール・カイキ、エレケと前線のパートナーが猫の目のように変わる中、やりづらさは少なからずあるだろう。実際、幅広く動き過ぎてゴールから遠ざかっているようにも映るし、うまくいかない時の苛立ちや激しさを前面に出し過ぎる傾向もある。そういった課題を含め、ここからしっかりと意思統一を図り、それぞれの役割を明確化させることが重要ではないか。
彼自身のゴールが7月6日のガンバ大阪戦から遠ざかっているのも、連係面の難しさと無縁ではないはず。いかにして自身の得点を奪える環境を作っていくのか。もともとフォア・ザ・チームの意識が強い男にとって、チームと個人のベストバランスを見出すのは容易ではないだろうが、クラブの大先輩である岩政監督を後押しするためにも、早急に最適解を導き出すべきだ。
9月3日の次戦は、AFCチャンピオンズリーグ決勝進出を決めたばかりの浦和レッズが相手。ここで大黒柱の背番号40が大仕事をすれば、必ず風向きは変わる。鹿島には天皇杯タイトルもまだ残されているだけに、シーズン終盤のスパートを強く求めたい。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子