ともに古巣復帰となった昌子(右)と [写真]=元川悦子
「僕の目標はタイトル。それしか考えていません。チームのために戦えば、自ずと結果がついてくると思っています」
1月15日に行われた鹿島アントラーズの2023年新体制発表会。2018年夏以来の古巣復帰となる植田直通は、イベント後の会見で改めて強い決意をにじませた。
「結束してタイトル奪還を目指す」。これを2023年の強化指針に挙げた鹿島にとって、彼と昌子源というタイトル獲得経験のある2人の復帰は力強い材料と言っていい。
岩政大樹監督も「伝統的に鹿島には常勝軍団を体現する先輩がいて、自分と照らし合わせて追いつけ追い越せで努力する環境があった。『新しい鹿島を作る』と僕は言っているが、彼らは指標となるべき存在」と話していたが、植田自身もその覚悟を胸に秘め、4年半ぶりに戻ってきたのである。
「僕も海外でやっていろんなことを経験しましたし、物凄くハングリー精神がついた。人間的にも少しは大きくなれたのかなと思う部分があります。海外ではうまくいかないことがたくさんあって、それが当たり前。そういうことを乗り越えて日本に帰ってきたので、かなり余裕を持ってやれると思う。経験を生かしながらやっていきたいです」
しみじみとこう語ったが、ベルギー、フランスでのキャリアは本当に一筋縄ではいかなかった。
2018年夏から2年半を過ごした最初のクラブ、サークル・ブルッヘではコンスタントに試合に出ていたが、つねに下位争いを強いられる難しさに直面した。
「チームを立て直すことが僕の役割。この苦境は『神様が与えた試練』だと思ってます。このチームでは若い方ではないし、約束事なんか関係ないやつばかりだから、僕が制御しないといけない部分も結構ある。彼らの良さを失わせないように修正することが必要なんです。それに自分も単純な空中戦で競って勝てるとは思わなかった。日本では身体的に必ず勝てたけど、ベルギーには2メートル超の選手もいますし、相手を自由にさせないポジション争いや技術にはかなりこだわってきた。そこはうまくなったという実感はあります」
サークル・ブルッヘで奮闘していた2019年10月。植田はこんな話をしていたことがある。もともと人見知りで、口数の少なかった彼がリーダー、集団を統率する自覚を口にしたのは、この時が初めてだったかもしれない。ちょうど同時期に結婚し、家族を持ったことも、自身のマインドを変化させるきっかけになったのだろう。
2021年1月には、当時フランス1部のニームへ赴いたが、半年で降格。2021-22、2022-23シーズンは2部での戦いを余儀なくされた。昨シーズンは出場機会を与えられたからまだよかったが、今シーズンはほぼピッチに立てなくなった。本人もプロ入り後、初めての苦境に直面し、もがき苦しんだに違いない。
その煽りを受け、断続的に呼ばれていた日本代表も、2022年3月のFIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選の2連戦を最後に遠ざかることになった。結果的に大津高校の先輩でもある谷口彰悟にDFの枠を奪われる形になり、2大会連続のW杯参戦を逃してしまったのである。
「(カタールW杯は)僕もフランスで見ていましたけど、今まで一緒にやってきた選手たちがたくさんいて、その中に入れない悔しさはもちろんありました。彼らが頑張っている姿を見て、すごく刺激も受けましたけど、その場に立てていない悔しさをより感じた大会でした。今のメンバーのほとんどが海外組。僕は日本に帰ってきましたけど、自分次第で変わってくる。次の大会がすごく注目される中で、ベスト8を狙うのではなくて、もっと上を目指せるように、自分の能力を高めていければいいなと思ってます」と彼は今一度、高みを追い求める覚悟だ。
そのためにも、常勝軍団復活は不可欠な命題だ。昌子がいきなり長期離脱してしまったこともあり、植田が最終ラインの統率役を担うことになるのは確か。15日の南葛SCとの練習試合でも関川郁万、佐野海舟らとセンターバックを組んでいたが、彼らをはじめとしてキム・ミンテや昌子を含めた面々と強固な連携を構築し、鉄壁の守備組織を構築することができれば、タイトルにまた一歩近づいていくはずだ。
昌子も「鹿島がここ何年かタイトルを取れていなかったのは、どこかで甘えがあったり、仲良しこよし、言い合いがなかったせいかもしれない。サッカーはそんなに甘いものではない。他のJリーグチームより紅白戦の相手が一番強い時の鹿島が一番強い。そういう雰囲気を作りたい」と言っていたが、植田もその意見に大いに賛同している。
「日頃の練習からどれだけ厳しさを持ってやれるかが大事。そういう気持ちで取り組めれば、必ず結果はついてくると思ってます」と語気を強めた植田。自身が掲げた今季のテーマである「鬼迫(きはく)」という言葉を体現するような荒々しいパフォーマンスを披露して、鹿島に7年ぶりの国内タイトルをもたらしてほしい。
取材・文=元川悦子
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By サッカーキング編集部
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