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復活を遂げたアビスパ福岡が見据える“新たな未来”〜日本初のスポーツDAOとは〜

2023.04.04

アビスパ福岡の川森敬史社長(左)とフィナンシェの田中隆一COO・CMO(右)

 日本中を熱狂の渦に巻き込んだW杯を経て、待ちに待ったJリーグが開幕。30周年という、ひとつの節目を迎えたJリーグにあって、“日本初のスポーツDAO(ダオ)”という新たな試みを始めたクラブがある。

 それが、J1昇格から3年目を迎え、躍進の予感を漂わせているアビスパ福岡だ。

 「Web3×スポーツの力で、福岡から世界に広がるイノベーションモデルの共創」を目標に掲げたクラブが仕掛ける、“日本初のスポーツDAO”とは? その先に見据えるものとは何なのかーー。

 アビスパ福岡の川森敬史社長と、その取り組みをサポートしている株式会社フィナンシェの田中隆一COO・CMOにうかがった。

■クラブのこれからを共に創る

ーーチームは2年連続でJ1残留を果たし、今季は良いスタートを切っています
川森社長:はい。ありがとうございます。あまり編成に口を出すことはありませんが、2016年J1に上がった当時、9億円程度のチーム人件費しか渡せていませんでした。当時J1の18クラブの中で一番下だったんです。結果は1年で降格でした。

過去の例から、基本的にはチーム人件費、選手の報酬で2〜3チームのズレはあっても、年間を通して戦うと、大体その順位の幅に入ってくる傾向があります。

2020年にJ1を戦う時には、確か9億6000万円(のチーム人件費)で昇格したと思うんですが、次の年に15〜6億の予算を組んでチームに渡しました。強化部はその原資を有効に活用して編成し、新加入も含め所属選手のパフォーマンスを長谷部茂利監督が引き出してくれて、想定以上の8位でフィニッシュすることができました。

その前の年に15億の年商だった会社が15億のチーム人件費を組むことは普通に考えて本末転倒です。年商が原価ですから(笑)。J1に定着するために、その辺から入場料、グッズ、放映権、広告による収入をどうやって、さらに伸ばしていくかということを、コロナ禍ということもあり、全社員、サポートいただく支援団体AGA(アビスパ・グローバル・アソシエイツ)の皆さんと真剣に議論しながら、年商15億の次は21億、その次は28億と伸ばすことができています。

現在決算で利益は出ていません。チーム人件費を確保するためにかなりストレッチした事業計画にチャレンジしている最中ですが、J1に昇格して一年で降格する苦い経験から得た多くの反省からいろいろ勉強することができました。フロントは数字面で強化部を支えてチームをサポートし、その期待に長谷部監督以下選手たち、チームスタッフが応えてくれる好循環で、今シーズンも良いスタートが切れていると思います。

ーーこれまでの営業面の取り組みについて教えてください
川森社長:首都圏から見た場合、基本的に九州は支店経済ですが、AGA理事の経営者皆様によるアドバイスや、直接のスポンサードによるご支援で、スポンサー費を伸ばすことができています。

チケット代も2021年にはワンシーズンで2回値上げをさせていただきましたが、私が直接クラブ公式YouTubeなどでファン、サポーターの皆様へ説明させていただき、ご理解をいただきながら取り組んでいます。コロナ禍ですが入場料収入も毎年億単位で上がっておりますので、少しづつJ1クラブの数字に近づきつつあると思います。

ただ、各クラブの年商、チーム人件費も年々上がっています。2015年は年商30〜40億円くらいがJ1クラブの多いゾーンでしたが、今は40、50、60億という規模に上がってきています。いわゆるJ1のビッグクラブにウチのような市民クラブが、どうやって食い込んでいくか。新たな課題となっています。

単純に今までの看板営業や、社名、商品名が露出しますよといったものだけの営業では行き詰まってきましたし、企業さんもそこにお金を出しづらい。特にコロナになって広告費も絞られています。

昨今では企業によるSDGsや、サスティナビリティな地域課題への取り組みが重要視されている中で、「共創」。共に創るという、価値を一緒に議論したり、認め合ったり、リスペクトし合える企業や人たちと新しいものをつくりながら、価値を創造してマネタイズしていくという、ここ数年の大きな流れがあります。アビスパ福岡もクラブが地域のハブとなることでスピード感をもって取り組むことに注力しています。

ーーその一つが今回のDAOを含めたフィナンシェでの取り組みですか?
川森社長:そうですね。フィナンシェさんはリアルとバーチャル両方の取り組みがありますが、デジタル領域の共創と捉えています。去年はフィナンシェさんでアビスパトークンを発行して、リアルのスタジアムを楽しんでもらう。非日常体験を味わってもらう。皆さんワンダーランドに来ませんか?といったことを伝えながら、田中さんとYou Tube配信をして取り組んできました。

ーートークンとはどういうものでしょうか?
田中COO:デジタルアイテムみたいなもので、我々のアプリの中で購入し、保有いただけます。

そのトークンを持っていると、特典とか体験に参加できたり、それを使った投票で最終的な決定等に関わることもできます。

トークン自体を売ったり買ったりできます。その価値が需要と共有に応じて変わったりするので、その持っているトークンの一部を売ることもできます。単純にモノを消費して買うだけではないというところですね。

■トークン=ゲーセンのコイン

ーー株主になるみたいなことですか?
田中COO:株ですと、経営に携わることになるので、そこはもうちょっとシリアスなビジネスになります。どちらかと言えば、トークンは体験を楽しむためのアイテムかなと思っています。

川森社長:トークンに関してファンやサポーターが腹落ちしたのは、ゲームセンターのコインの話なんです。

ゲームセンターに行くと現金をコインに変えるじゃないですか? それがフィナンシェさんのデジタルアイテムのトークンにあたります。コインに変えたら、そのコインを使ってゲームセンターの中で遊べますよね? 色んなゲームで。

遊ぶというのは、フィナンシェアプリ内のフィードでアビスパについてアイデアや意見をコメントしたり、投票機能で意思決定に関わったりすることを表現しています。リアルイベントに参加することもできるんです。

そのコイン=トークンを持った人というのは、どこのゲームセンターでもいいわけではなく、このゲームセンター(アビスパ福岡)が好きな人が集まっているコミュニティなので、熱量も高く、とってもポジティブで楽しい空間なんです。

ポイントは、ゲームセンター内(フィードでのコメントやイベント参加など)で遊んでも、コインが減らないということと、もし飽きてしまったら最後にそれを、二次流通で売却することもできるところ。そして、あわよくばこのゲームセンターが儲かっていて、コインの価値が上がっていたら、そこでキャピタルゲインを得る可能性があるというところです。

この取り組みは、クラウドファンディングのような側面もありますが、クラウドファンディングはお金を出したら返礼品をもらって終わりなんですが、トークンは継続性があり、伝えたいことはダイレクトにクラブに伝わるのと、あとは伝わった後も体系的にそれがどうなったのかを検証するところまで一緒に見れるところが、仕組みとしてすごく面白いなと。

アビスパトークンについてこのような説明を始めましたら、Web3やブロックチェーンはまだよくわからないけど、ゲームコイン(=トークン)を買う感覚でライトに始めてくれている方も増えています。金融商品ではないので、ライトに楽しむためのコインを、デジタルアイテムで買うという、それくらいハードルを下げて皆さんに説明しています。

ーーなるほど。そのトークンを発行してきた中で感じた手応えなどはありますか?
川森社長:はい。僕の立場ですと色んな形でクラブへの要望や提案、苦言などをいただきますが、フィナンシェさんのアプリの中でアビスパトークンを発行して、トークンホルダーの方々からご意見をいただくと、ひとつの仕組みの中で動いていくので、取り組みやすいなと感じています。

また、今までアビスパ福岡を気にしたこともなかった方々に、フィナンシェさん、もしくはアビスパトークンをきっかけに興味を持っていただいて、ファン層が広がっています。そういう意味で手ごたえを感じています。

田中COO:川森社長が仰っていたように、トークンきっかけで入っていただき、チームのことを知っていただいて、チームのことが好きになりスタジアムに足を運ぶだとか、福岡に行くことは難しいので住んでいる場所から近いスタジアムにアウェイでも行くみたいな世界観になれるといいなとは思っています。

実際の数からいけばまだまだ少ないんですけど、一部ではそういった方も出てきている。僕らプラットフォーマーとしても、もっともっとそういった方を流せるようにしていきたいと思っています。

■日本初のスポーツDAOとは!?

ーーそういった中で新たに取り組んでいるDAO(ダオ)についても教えてください
田中COO:もともとは「Decentralized Autonomous Organization」の略で、自律的な組織になっていくというところなんですね。

自律的な組織というのは、そのコミュニティに参加する人たち全員が主役になって、ひとつのコミュニティを作っていくということ。

今までは、チームがあって、選手がいて、スタッフの方がいて、最後にサポーターの人たちが乗っかってくるという形だったと思うんですけど、それがもっと横のつながりになりながら、且つこのコミュニティをもっと大きく成長させていこうとか、もっともっと循環を加速していこうというような形に持っていくことが目標です。

ーーそのメンバーになるためのトークンを発行するということですか?
田中COO:そのためのインセンティブとしてのトークンというものが大事だなと我々の立場からは思っています。

というのも、関わるときには継続的に関わるためのインセンティブだったり、最初から関わっていくためのインセンティブというところがトークンによって可視化されて、最初から応援していた人たちにメリットがあると感じていただけるのがいいのかなと思っています。

ーーDAOの中でやっていきたいこととは?
川森社長:6〜8つくらい図式化して、「グローバル・アカデミー・プロジェクト」とか、「Web3人材育成」とか、やりたいこと、やれそうなことを書いています。

とっかかりは“スタジアム感動創出プロジェクト”といって、いろんな方がいろんな形でアビスパの本拠地であるベススタを「もっとこうしたいね」とか、「もっとこうすると選手も高揚していいじゃないか」とか、「僕たちも来てワクワクする」っていうものをいただいていて、何から手をつけて何をするときにはどんなお金がかかって、みんなの意見を聞きながら、早ければ今シーズン中にDAOの中のスタジアム感動創出プロジェクトで決まったものが形になるところまでやれたらいいなと思っています。

ーー今回の取り組みには選手も一緒になって参加するという話ですが
川森社長:はい。そうなんです(笑)キャンプから戻ってきたときにフィナンシェさんとアビスパDAOについて選手たちに伝えました。去年ワンデーマッチを開催していたので選手たちも覚えていました。その上で、今年はDAOという、スポーツ業界のプロチームで初となる取り組みをやっていくから、興味がある人がいたら手を挙げてと話しました。アンバサダーとして一緒に勉強して一緒に盛り上げようと。

選手は注目される存在なので、ぜひ広報大使みたいにアンバサダーとして、知らないことを一緒に勉強しようというスタンスで参加してくれればいいからと伝えたところ、10名の選手が手を挙げてくれました。それ以外の選手も食い入るように。キャピタルをとりたいのかなっていう目線だったんですけど(笑)、それが目的じゃないから売り抜けないでねって(笑)冗談を言いながら皆んなで盛り上げ行きましょう。と、話しました。

ホーム開幕戦では田中さんにもご来場いただいて、(田邉)草民選手と鶴野(怜樹)選手と一緒にアビスパDAOの記者会見を開催しました。選手も非常に興味津々でした。

田中COO:本当にありがたい話です。まだ会見の時も、新しいことだし、最終的にはチームの強化にも繋がってくるというところを言ってくれていたので、僕らとしてもありがたい。

新しい技術って、特に若い世代の人たちは興味があると思うんです。なので、これを機会にもっと選手たちにも知っていただいて、知るだけでなくもっと発信していただければ嬉しいです。

この新しい応援の仕方というところは、アビスパさんだけでなく、選手に対してもメリットがある。NFTとかもうまく使いながら、みんなが潤っていくような世界観ができればいいかなと思っています。

ーー選手とサポーターがクラブのために一緒に何かをするというのは素晴らしいですね。
川森社長:はい。事業や運営などについてオンラインで意見を頂いて集約したり、選手たちがそこにコメントしてくるコミュニティープラットフォームは今までありませんでした。従来ですと後援会やファンクラブがアビスパ福岡の応援団としてございますが、基本オフラインでの取り組みとなっています。アビスパDAOはオンラインでリアルタイムに情報が共有されますのでスピード感もあり、全く新しい取り組みだと思います。

田中COO:そうですね。トークン保有者みたいな同じ立場で、インセンティブがあるというところは目線が一緒になるかなと思っていますね。

■勝負の3年目へ

ーー最後に、今後に向けた思いや意気込みをお聞かせください
川森社長:今シーズンはJ1に定着するため、3年目ということで勝負の年だと考えています。
社会環境も不安定で変化も激しい中、「共創」というテーマを掲げ、クラブはあらゆる面で進化していかなければならないと強く感じています。そのためには最新のテクノロジーも活用して地域課題と向き合い、デジタルとリアルな取り組みをサスティナブルに実行し、クラブ価値を高めていきたいと思います。

特に今年テーマに掲げました「共創」は時代にマッチした重要な取り組みです。チャリチャリというレンタル自転車が福岡ではいっぱい配置されていますが、先日パートナー契約を締結させていただき、アビスパのロゴとキャラクターを掲出した自転車が街を走り、CO2削減に向けた取り組みをしながら、地域の皆様にアビスパ福岡を知っていただきカーボンニュートラルに向けた取り組みをスタートいたしました。

デジタルな領域では、DAOのような、オンラインコミュニティでご縁をいただいた方々の輪を拡げ、クラブ運営についてもご意見をいただきながら年商規模を拡大していくことにチャレンジしたいと思います。

チームも去年から進化した戦い方、結果にこだわりつつ、監督が今シーズンの目標として示したリーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4位以上を達成していきたいです。

そのためにフロントとチームが一体となって、良い時も苦しい時もそれを分かち合い、鼓舞する言葉を掛け合いながら、最後までやりぬく気持ちを強く持って1年を戦い抜き、市民クラブとしてアジアを代表する強豪クラブに成長していきたいと思います。

田中COO:我々としてはまずしっかりと、今回一緒に打ち出したアビスパさんのDAOを成功させていくというところは、コミットして達成していきたいというのがひとつ。

どこのスポーツチームでも抱えている問題が3つあると思っていて、ひとつは収益をいかに上げていくか、上げ続けられるか。2つ目は新規のファンを獲得していけるか。そして3つ目が既存のファンを含めて体験価値をより向上させていけるか。そこに尽きるかなと思っています。

これをDAOによって今までにないファンの人たちが入ってきて、そこで継続的な収益と、さらに入っていただいた人たちに今までにない体験価値を提供していく。そこをわかりやすい形で明確に可視化できればいいかなと思っています。

By サッカーキング編集部

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