今季の東京VはJ2第7節終了時点でわずか1失点と堅守が光っている[写真]=東京ヴェルディ
2023シーズンの開幕を前に、東京ヴェルディの城福浩監督は「大崩れするような、不安定なチームを作ってきたつもりはない」と断言した。そしてその言葉の正しさは開幕戦で証明され、試合を重ねていくごとに重みと深みを増している。
2022年6月13日、J2第21節を終えて6勝7分け8敗、7試合未勝利となったところで城福監督はチームを引き継いだ。真っ先に取り組んだのが、その時点で失点数リーグワースト2位を記録していた守備の再建だった。『リカバリー・パワー』というキーワードを掲げ、ボールを失った後の奪い返しに行くスピードや強度、チーム全体の帰陣の速さを徹底的に植え付けていくと、それが徐々に浸透し、シーズンのラスト6試合をわずか1失点の6連勝で締め括った。
その約4カ月で築いてきたベースに、さらなるスピードとインテンシティを求め、ハイプレス、ハイラインで戦っているのが今季の東京Vだ。前線から激しくプレッシャーをかけ、最終ラインを敵陣近くまで押し上げ、できるだけ長い時間相手陣内でボールを動かし、主導権を握るサッカーを目指している。
ここまではそれが見事に結果として表れている。開幕から7試合を終え5勝1分け1敗。失点は第2節の大分戦でセットプレーから喫した1点のみで、第4節から第7節まで4試合連続完封勝利中と驚異的な守備力を誇っている。その堅守の要因は、チームの誰に聞いても同じ。「前の選手もチーム全員、誰一人抜くことなくボールを奪いに行けているから」だ。今季副主将の要職を任されて使命感に燃えるGKマテウスはじめ、対人に強い平智広、山越康平、谷口栄斗らセンターバックと、危機察知能力、カバー能力に長けた宮原和也、奈良輪雄太、深澤大輝らサイドバックが形成する最終ラインの粘り強い守備はもちろん、阪野豊史、河村慶人、齋藤功佑ら攻撃的ポジションの選手が最前線から激しいプレッシャーをかけ続けることで、相手のパスコースが限定され、守備陣がボールを回収しやすくなっているという側面もある。
そうした守備でのハードワークは、決して進んでやりたいものではないはずだが、そのタスクを一人ひとりが完遂することでチームに流れが生まれ、カウンターが繰り出しやすくなるなど攻撃面での相乗効果も生まれている。その成功体験があるからこそ、今は全員がポジティブに守備に取り組めている。「守備に追われる時間が長くても、みんなそれを苦だと思っていなくて、全員が“勝つためにする行動”だと受け止め、率先してやろうとしているように感じます。そして、そこでの活躍をみんなが褒め合っている。守備へのポジティブな姿勢こそが、相手にボールを持たれても崩れない大きな理由かなと思います」と中盤の底を担う林尚輝は分析する。
また、もうひとつの側面として特筆すべきは、交代枠5枚というルール改正によるサッカーそのものの競技性の変化だろう。城福監督は就任早々からこの点に着目し、積極的に選手交代を行ってきた。特に今季は5人交代を大いに活用し、90分間通して強度の落ちない隙のない戦いをしている印象が強い。その点に関しては、主将の森田晃樹が次のように語っている。
「これまでのように、90分出るつもりでペース配分を考えてちょっと抑えながらやるというよりは、最初から全力でいって出し切って、いつ交代してもいいくらいの強度でやっています。それが今のインテンシティの高さにつながっているのだと、たぶんみんながきちんと理解しているんだと思います。正直、選手としては交代ってあまりしたくないものだし、誰もが90分間試合に出たい気持ちを持っていると思います。でも、今は全員がチームへの献身を優先できています。練習を見ていただければ分かると思いますが、試合のベンチメンバーも、それ以外の選手も、全員が毎日の練習で一切気を抜かずにやっています。全員がチームのために戦う準備をしているからこそ、交代する選手も、『なんで俺が交代なんだよ!?』ではなく、代わる選手に『頼んだよ』と言えるんだと思います」
これこそがまさに指揮官の理想とするチームだ。「後半にギアチェンジができているのも、前半に我慢して不具合を修正するような選手がいて、代わった選手はそうした思いを引き継いだ上で自分の特長を出し切るという使命を持ってバトンを受け取っている。それができるのが本当に強いチームだと思いますし、今シーズンの我々が目指しているところです」
現在、東京Vは勝ち点16で2位とスタートダッシュに成功した。だが、監督も選手も誰一人浮かれている様子はない。それもそのはずだ。昨季も開幕から8試合を5勝3分け無敗でスタートしながら、その後に失速した経験がある。その教訓も含め、誰よりも慎重なのが梶川諒太だ。「本当にちょっとでも緩めば失点すると思いますし、一つのほころびで簡単に崩れてしまうことは、J2での長い経験の中で何度も見てきました。締めるべきところ、厳しくやるべきところは、僕もしっかりと声をかけていきたい。ここまでは勝てていますが、毎試合相手に決定機を作られています。『一歩寄せる』とか『靴一足分』のところを、毎日の練習から全員が積み重ねてやり続けていくことがこの先も本当に大事だと思っています」
城福監督は「日本で一番の練習をしたい」と、トレーニングの内容、強度、集中力に徹底的にこだわる。そのメニューを全力でこなし、チームのために高いパフォーマンスを出せた選手が試合で起用される。そして、その試合が終わればまたすべてがフラットとなり、再び次の試合へ向けてのポジション争い、切磋琢磨が始まる。そこには特別扱いなど一切存在しない。だからこそ、選手たちも気持ちを切らさずに常にチャレンジを続けられているのである。
守備という、時にネガティブになりがちな要素がチームの強みになったことで、チームには『献身』という名の一体感が生まれつつある。指揮官が毎日繰り返し選手たちに強調しているという「自分だけはこれくらいでいい」という惰性、緩みの連鎖を生じさせないことが、今後チームが上位争いに踏みとどまれるかの重要なカギとなるだろう。
文=上岡真里江
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