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藤田譲瑠チマが担った“ゲームチェンジャー”の役割…「行けてしまう」横浜FMに与えた安定感

2023.04.15

横浜ダービーで後半頭からピッチに立った藤田譲瑠チマ [写真]=兼子愼一郎

 2023年4月8日、横浜F・マリノスは本拠地『日産スタジアム』で行われた“横浜ダービー”を5-0で制した。

 スコアだけを見ると圧倒的な内容が想像されてしまうが、前半のみにフォーカスすると、筆者の目には横浜FCの方が試合を優位に進めているように映った。それでも、横浜FMは後半に“ブラジルトリオ”が大爆発。47分にマルコス・ジュニオールが決めた先制弾を皮切りに、エウベルアンデルソン・ロペスがそれぞれ2ゴールを挙げ、終わってみれば横浜FMが大差での白星を飾った。

 試合後、横浜FMを率いるケヴィン・マスカット監督は「敵陣でボールを失ってしまう。相手に渡してしまう。切り替えの多い前半でした」と明かした。そこで指揮官が送り出したのが藤田譲瑠チマだ。今シーズンここまで明治安田生命J1リーグで先発出場の機会がない藤田は、後半開始と同時に渡辺皓太との交代でピッチに立つ。決して派手な役割を担ったわけではないが、ピッチ上でチームが主導権を握るためのプレーに専念した。

 藤田は前半をピッチの外から見て「上下運動というか、攻め切れずに悪い奪われ方をして、自陣に戻されてという形を繰り返されていた」と分析していた。マスカット監督から任されたのはその部分の改善だ。藤田の言葉を借りるとすると、横浜FMの前線には「前に行けてしまう選手たちが多かった」。スコアレスの時間が長く続いたことも影響したのだろう。この日は右ウイングに水沼宏太、左WGにエウベルが先発したが、「行けてしまう」が故に攻め急ぐ場面も少なくなかった。だが、横浜FCの選手たちは中央を固めることで横浜FMの攻撃陣に決定的なフィニッシュの場面を作らせず、逆に前掛かりとなった横浜FMが生んだスペースを有効活用した攻撃も披露した。前半の展開を「行けてしまった時に後ろとのギャップが生まれてしまい、そこで奪われてしまってカウンターを食う場面が多かった」という言葉で表現した藤田は「攻めれるけど、1回自分たちでボールを持とう」という意識を持ってピッチに立った。

 後半に入ると意外な形で試合が動く。藤田が放った縦パスは横浜FCの和田拓也にカットされたものの、一瞬の隙を狙っていたマルコス・ジュニオールが即座にボールを奪い返し、アンデルソン・ロペスとのワンツーから左足フィニッシュを沈めたのだ。横浜FCが1点を返すべく前に出ざるを得なくなる中、徐々に横浜FCのライン間にスペースが生まれてくると、62分にアンデルソン・ロペスが決めた追加点を機に一挙3ゴール。試合は決まった。

 結果的に、藤田がピッチに立ってから横浜FMはゴールラッシュを見せ、“横浜ダービー”で快勝を飾った。「自分が入って何かを変えられたのかはわからないですけど、後半は自分たちが攻撃する時間が少し増えて、その中で結果にも結び付いて良かったと思います」。藤田はこのような言葉で自身のパフォーマンスを振り返ったが、後半の横浜FMは前半と比較して“落ち着いた”ように映った。ボールを保持している状況では、状況を見ながら前進していくシーンも増加した印象を受ける。そして、ピッチ上で工夫を凝らしながら、横浜FMに落ち着きをもたらそうとしていた選手が藤田だった。

 90分間を通して見ると、横浜FMの選手たちが常日頃から口にしている「自分たちのサッカー」を表現できたとは言い難いのかもしれない。それでも、藤田は「自分たちの時間帯はもっと増やさないといけないと思いますが、限られた自分たちの時間帯の中で何ができたか。そこをプラスに捉えてもいいのかなとは思います」と前を向いた。

 前述の通り、今シーズンに入ってから藤田はJ1の試合で1度も先発出場の機会を得られていない。同ポジションの渡辺、喜田拓也が“鉄板”のコンビとして不動の地位を築いていることが大きな理由だ。それでも、今季のJ1で最も多くの出場時間を得た横浜FC戦は、藤田にとって改めて自身の価値を証明する一戦だったように感じる。本人の自己評価は「合格点をあげられるほどではない。自分自身満足をしているわけでもないですし、もっと上達していかなければと思っています」と厳しいが、藤田が担った“ゲームチェンジャー”の役割は横浜FMの攻撃の幅を広げることに繋がったはずだ。まずは15日の湘南ベルマーレ戦。藤田が横浜FMの中盤を彩り、チーム全体の底上げに繋げていく。

取材・文=榊原拓海

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