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「仲間として戦い、選手で対戦、次は相手監督と選手として」“盟友”率いる古巣戦に挑んだ浦和FW興梠の現在地

2023.06.05

浦和FW興梠慎三 [写真]=清原茂樹

 4万5000人超の大観衆が集結し、異様な熱気の中、埼玉スタジアム2002で行われた4日の浦和レッズvs鹿島アントラーズ。首位ヴィッセル神戸との勝ち点差を詰めるためにも、両者ともに負けられない重要ゲームだった。

 とりわけ、14試合終了時点で勝ち点27と4位につけていた浦和にしてみれば、京都サンガF.C.、サンフレッチェ広島戦に続いて3連勝し、トップに肉薄したかった。

 マチェイ・スコルジャ監督はハイプレスを仕掛けてくる鹿島に対して特別な対策を用意。過密日程を考慮し、35歳の岩尾憲を休ませるなど、メンバーも微妙に入れ替えて試合に挑んだ。

 2試合ぶりに先発した興梠慎三にとってもこの一戦を特別なものだった。というのも、ご存じの通り、鹿島は2005年から12年まで8年間過ごした古巣。しかも、敵将の岩政大樹監督は当時の盟友だ。

「今でこそ『浦和の男』という顔をしていますが、もともとは鹿島の男(笑)。ともに3連覇を成し遂げて、修羅場をくぐり抜けた同士」と、岩政監督は興梠に愛情あふれるコメントを寄せた。かたや興梠も「仲間で一緒に戦って、選手で対戦して、次は監督と選手の立場で。岩政さんが喜んでいる姿は見たくない」と冗談交じりに話していた。

 強い絆で結ばれた2人が「鹿島の監督と浦和の選手」という立場で対峙するのは今回が初めて。そういう意味でも注目度が高かった。

 前半の主導権を握ったのは鹿島。ディエゴ・ピトゥカ、佐野海舟、樋口雄太らが中盤を流動的に動かし、相手のスペースを突きながらのビルドアップがうまく機能し、内容的にも圧倒した。だが、11分の佐野のシュートは枠をとらえられず、24分の鈴木優磨の決定機も西川周作に防がれる。

「(アレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの)両センターバックは集中力が違った」と鈴木優磨も高い壁にぶつかる形となった。

 劣勢の展開を何とかしのぎ、迎えた後半。浦和は温存していた岩尾を投入し、一気に攻勢に出る。興梠も前半よりはボールを触る回数が増えたものの、この日はシュートゼロで66分にホセ・カンテと交代。ベンチから味方の猛攻を見守ることになった。

 終盤はほぼ浦和ペースで、アディショナルタイムには途中出場の荻原拓也の左クロスをホセ・カンテが打点の高いヘッドで押し込もう試みた。が、最大の決定機は鹿島GK早川友基に阻止されてしまう。

 結局、緊迫した大一番は0-0でタイムアップの笛。酒井宏樹が「アウェーだったら負けてたんじゃないかな。勝ち点1を取れたことをよしとするしかない」と語るほど、浦和は厳しい戦いを強いられたのだ。

「『後ろのつなぎがうまかった。苦戦しました』と岩政さんに言いました」

 試合終了からかなりの時間が経過した後、ミックスゾーンに現れた興梠は神妙な面持ちでこうコメントした。話好きな岩政監督とさまざまな会話をしたのだろう。今は『浦和の男』として全身全霊を注いでいるが、プロサッカー選手としてのベースは鹿島で築かれた。そのことに改めて深い感謝の念を抱いた様子だった。

 そのうえで、浦和を優勝させなければいけないという自覚も強めたはずだ。5月7日のACL決勝後、「今までACLとJリーグを両方優勝したチームはないので、自分たちがそれを達成させたい」と強調。新たな目標に向かっているが、足りない部分があるのも確かだ。

「連戦の疲れもあったかもしれないけど、今回は内容的にあまりよくなかった。後ろはしっかり守ってくれるので、その分、前のコンビネーションとかは物足りない。もっとチャンスを多く作らないと点も取れないし、もっと突き詰めていきたい」と語気を強めたのだ。

 酒井も「最後の質は特に課題。そこは永遠に日本人の課題でもありますし、もっと責任感を持ってやらないといけない。1つのプレーで試合が変わる、人生が変わるというような重い気持ちでやっていかないと一向によくならない。僕らの現状は妥当な順位(15試合終了時点で暫定5位)。まだまだ自分たちはトップに立てるようなチームではないと思います」と厳しい表情で話したが、興梠もその意見に賛同していた。

「優勝するためには運だけでは足りない。チームとしての内容がよくないと難しい。質を上げていくしかない」と自らに言い聞かせるように語ったのだ。

 特にFW陣の得点力アップは必要不可欠なテーマ。大迫勇也(神戸)とアンデルソン・ロペス(横浜FM)が11点、鈴木優磨が8点を挙げる中、浦和は興梠の3点が最高というのは心もとない。

「得点ランキング上位に誰もいない現状は寂しい。優勝しているチームは1人がたくさん点を取っていることが多いですから。37歳の僕がやるのはちょっと…、まあ頑張ります」と興梠自身は少し歯切れが悪かったが、今の彼なら十分やれるはず。それだけの非凡な能力がある。

 同い年のオリヴィエ・ジルーはFIFAワールドカップカタール2022でのフランス代表や所属クラブのミランでもセンターフォワードに君臨している通り、年齢を重ねた分、プレーの幅は広がる。興梠もまだまだ数字を残せる日本のトップFW。それは紛れもない事実である。かつての「同士」との再会を機に、若かりし日の野心と躍動感を思い出すことができれば理想的。今後のリーグ戦でゴールを量産する興梠慎三の雄姿をぜひ見たい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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