浦和に加入した安部裕葵 [写真]=URAWA REDS
「チームに合流して1週間くらい経ちますけど、スタッフや選手含めて温かく迎えていただいて、すごく居心地がいいと感じています。今は(出場の)メドを立てるのは難しいですけど、まずはピッチに立つこと。ゴールを決める、アシストする、もしくは守備を頑張る…。それは時によって違いますけど、まずはピッチに立つことが第一優先。それ以上のことは考えていません」
14日にオンラインで浦和レッズ入団会見を行った安部裕葵は、公式戦復帰への強い意欲をにじませた。
それもそのはず。2019年夏に赴いたバルセロナ・アトレティック(バルセロナB)では1シーズン目こそ20試合出場4ゴールの結果を残したものの、2シーズン目以降は度重なるケガに苦しんだからだ。
2年目の2020-21シーズンはまだ8試合に出たが、2021-22シーズンは開幕からメンバー外。2022-23シーズンも右足ハムストリングスの手術を受けるなど、治療に専念する形になった。そして契約が切れた今夏のタイミングでJリーグ復帰を決断。浦和移籍に踏み切ったのだ。
「移籍に関しては、全てを話せるわけではない」と本人は言葉を濁したが、出身地である東京都北区から一番近い浦和には幼少期から馴染みがあったという。2007年7月に埼玉スタジアム2002で行われたマンチェスター・U戦も生観戦。「家族や友達が来やすい環境で喜んでくれている。僕自身も嬉しい」と身近な人々に今一度、雄姿を見せたいという気持ちが強かったようだ。
ポジションに関しても「僕は右だろうが、左だろうが、真ん中だろうが、1トップだろうが、どこでもいいプレーができると思っている」と断言。そのうえで、「ここから連戦がキツい中、ローテーションが必要なので、とにかく試合に絡んでチームの負担を減らしたい。簡潔にハードワークすることが、一番分かりやすく、やりやすいプレーかなと思います」と課せられたタスクに全力で取り組むことを強調した。
コンディションさえフィットしてくれば、得点力不足に悩む浦和攻撃陣の新たな起爆剤になる可能性は大いにありそうだ。
実際、10代の安部はそれだけのスケール感を示していた。瀬戸内高校から2017年に鹿島アントラーズ入りし、プロ2年目だった2018年にはAFCチャンピオンズリーグ優勝に貢献。Jリーグベストヤングプレーヤー賞受賞。2019年には背番号10を背負うなど、非凡なセンスとテクニックで見る者を魅了したのである。
FIFAワールドカップロシア2018ではU-18日本代表の一員としてベースキャンプ地のカザン入り。当時は久保建英以上に注目度が高く、A代表側の紅白戦メンバーに呼ばれてプレーする機会もあったという。
それだけに日本代表の森保一監督の期待も大きく、FIFA U-20ワールドカップポーランド2019ではなく、ブラジルでのコパ・アメリカに参戦するA代表に招集されている。同大会ではチリ、ウルグアイ、エクアドルとの3試合に出場。多くの関係者が、安部はエース級の1人として東京五輪に出る選手。FIFAワールドカップカタール2022行きも有力だろうと見ていた。
そこからサッカー選手にとって最も重要な20代前半の2年間をケガで棒に振ることになるとは、本人にとっても想定外の何物でもなかっただろう。一時は「安部裕葵はサッカー選手を引退するのではないか」といったネガティブな噂も流れたくらい、先行きを不安視する見方が高まった。
数々の苦境に立たされた若きアタッカーは「東京五輪とカタールW杯に関しては正直な話、多少なりとも複雑な思いはありました」と改めて本音を吐露した。
とはいえ、過ぎ去った時間は取り戻せない。ケガをしたことも含めて今の自分である。24歳になった今、安部は納得いくキャリアを自らの力で構築していくしかないのだ。
「長く実戦から遠ざかった不安? 何も感じていないです」と堂々と言い切った。そのあたりは非常に頼もしい。あとはマチェイ・スコルジャ監督の戦術とアタッカーの役割を理解し、パフォーマンスを引き上げることにフォーカスすることが肝要だ。
浦和の2列目には関根貴大、大久保智明、安居海渡らがいる分、競争は厳しいが、安部本来の才能をしっかりと出せる状況さえ作れれば、ゴールやアシストといった目に見える数字を残すことはできるはずだ。「スコルジャ監督からは、部分合流した時に『期待している』といった声はかけてもらいました。その言葉を受け止めて、期待に応えられるように頑張ろうと思います」と神妙な面持ちで語った安部。本格的な練習合流はオフ明けの7月24日からになりそうだが、新背番号7がいつ埼玉スタジアム2002のピッチに立つのかはサッカー界全体の大きな関心事に違いない。
何度もケガを繰り返した宮市亮が完全復活して人々に大きな勇気を与えたように、安部にも同じような復活劇を見せて、浦和の希望になってほしいものである。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子