いよいよ本日よりスタートする2023-24シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区グループステージ。4チームが出場する日本勢では昨季J1王者の横浜F・マリノスが唯一ホームで初戦を戦うが、その相手となるのが大会初出場の仁川ユナイテッドだ。
今季の韓国勢はKリーグ王者の蔚山現代をはじめ、昨季ACLで浦和レッズと死闘を繰り広げた全北現代モータース、2021年ACL準優勝の浦項スティーラーズと国内屈指の強豪が名を連ねている。そんななか、クラブ史上初のアジアの舞台に臨む仁川は一体どんなクラブなのだろうか。
■韓国の市民クラブが別名払拭
仁川は2003年12月30日、仁川広域市をホームタウンとする地方自治体運営の市民クラブとしてKリーグ歴代13番目に誕生した。
創設以降、国内で優勝した経験はなく、2005年のリーグ戦2位と2015年のFAカップ準優勝を最高成績としている。リーグ参入初年度の2004年には元日本代表の前園真聖氏、2015年には元ヴィッセル神戸の和田倫季(マジヤS&RC)といった日本人選手がプレーしたこともある。
そんな仁川は、2013年の昇降格制度導入以降で一度も2部に降格したことがない。ほかに降格経験がないクラブでは前出の蔚山、全北、浦項のほかFCソウル、水原三星ブルーウィングスといった企業主体の名門が揃うなか、仁川は市民クラブでは唯一降格歴がないのだ。
だが、実際には毎年のように降格危機に瀕してきたクラブであり、昇降格が始まった2013年から2021年までの最高順位は7位。そんな苦戦続きでも最終的には劇的な1部残留を果たしたことから、Kリーグファンの間では「残留王」や「生存王」とも呼ばれていた。
ただ、昨シーズンの仁川は「残留王」の別名を払拭する快進撃を見せ、シーズン通して一度も残留争いに絡むことなく、昇降格制度導入以降で最高順位となる4位フィニッシュに成功。リーグ戦2位の全北がFAカップで優勝したことにより、繰り上げでACLプレーオフ出場権を獲得した。
■元神戸FWら外国籍トリオが攻撃を牽引
では今季の仁川はというと、第30節終了時点で11勝10分9敗の12チーム中7位に位置している。シーズン前半はリーグ戦19試合でわずか4勝、一時は10位まで沈むなど苦戦していたが、7月2日の第20節から直近の11試合は7勝2分2敗と勝ちが先行。ACL前最後に行われた16日の済州ユナイテッド戦では、後半アディショナルタイムの勝ち越し弾で2-1の劇的勝利を収めるなど、チームの状態は万全と言って良い。
注目選手は前線の外国籍トリオだ。ギニアビサウ出身の快足FWジェルソ・フェルナンデスはリーグ戦30試合6得点7アシストでいずれもチーム内最多をマーク。背番号10番のブラジル人FWエルナンデスも26試合5得点4アシストとし、ジェルソに次いでチーム内2番目にスコアを演出している。
そしてもう一人が、今夏の移籍市場でヴィッセル神戸から1年ぶりに復帰したモンテネグロ代表FWステファン・ムゴシャ。復帰後のリーグ戦は6試合1得点1アシストと目立った成績ではないものの、クラブの公式戦通算最多得点記録(138試合69得点)を保持する“仁川の王”として絶対的信頼を寄せられているストライカーだ。
彼らだけでなく、2020年に蔚山でACL優勝、2021年に浦項でACL準優勝を経験した35歳MFシン・ジンホ、過去にUAEのアル・アインやアル・ワフダでACLに出場した副キャプテンのMFイ・ミョンジュなど、アジアを知るベテランたちにも注目したい。
■仁川と横浜FMをつなぐ人物
そんな仁川は今回、横浜FMと初の対戦となるが、両クラブを繋ぐ一人の共通人物がいる。それが、現役時代に横浜FMや柏レイソルで活躍し、2021年6月にがん闘病の末この世を去ったユ・サンチョルさんである。
というのも、ユ・サンチョルさんが生涯最後に監督として指揮を執ったクラブがこの仁川なのだ。2019年に仁川を率いたユ・サンチョルさんはシーズン途中にすい臓がんが発覚、同年限りで監督を退くことになったが、名誉監督として現在も仁川の歴史に名を刻んでいる。この共通したレジェンドの存在もあり、仁川のファンやサポーターの間では横浜FMとの一戦を「ユ・サンチョル・ダービー」と呼ぶ人も多い。
仁川によると、今回のアウェイ横浜FM戦には約600人のファン・サポーターが駆け付ける予定だという。チームを率いるチョ・ソンファン監督は、前日会見の場で「いつも感謝している。リーグ戦だけでなく、ACLでもアウェイまで応援に来てくれると思うと責任感が生まれる。ファンの皆さんの仁川に帰る足取りが軽くなるよう、しっかり準備したい」と善戦を誓っていた。
クラブ創設20周年を迎える節目の年に、新たな歴史となるアジアの舞台に挑む仁川。J1王者の横浜FMと激突するACL初陣でどんな戦いぶりを見せてくれるか注目したいところだ。
文=姜 亨起(ピッチコミュニケーションズ)
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