鳥栖戦でJ1デビューを飾った村上悠緋 [写真]=清原茂樹
横浜F・マリノスの右サイドバック(以下:SB)争いにおいて、新たな風を吹かせている存在がいる。村上悠緋、2021年7月に翌々シーズンの加入内定が発表されたと同時に特別指定選手に認定されると、翌シーズンのJリーグYBCルヴァンカップ・プライムステージ準々決勝第2戦のサンフレッチェ広島戦でプロデビューを果たした選手だ。
今シーズン、現在22歳の村上は大学卒業後のルーキーイヤーを過ごしている。本職はストライカーの選手で、関東学院大学在学時には関東大学サッカーリーグ戦2部の得点王に輝いたこともある。これはかつて小林悠(現在:川崎フロンターレ)や伊東純也(現在:スタッド・ランス)も獲得した個人タイトルで、ストライカーとしての能力を高く評価されて横浜FM内定を勝ち獲った。
そんな村上が、ここに来て新たな可能性を見せている。本職のストライカーポジションではなく、右SBでだ。チーム事情により右SBとして抜擢されると、JリーグYBCルヴァンカップのグループステージや天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会での途中起用を経て、9月6日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ・準々決勝第1戦の北海道コンサドーレ札幌戦で今季公式戦初のスタメン出場を飾った。
この試合は2-3で敗れこそしたものの、村上はフリーランニングの質の高さ、チャンスに繋がるスペースへの侵入など数多くのポジティブな面を見せ、度々決定機にも絡んだ。4日後に行われた第2戦では、1列前に入っている水沼宏太との連携面や守備時の立ち位置にも向上が見られ、3-0(2戦合計5-3)での勝利と準決勝進出に大きく貢献した。
そして迎えた9月15日、明治安田生命J1リーグ第27節のサガン鳥栖戦で、J1デビューの機会を自ら手繰り寄せる。横浜FM加入内定が決まった時には想像もできなった右SBでのデビューとなったが、本人は「本来のポジションではなかったのですが、ルヴァンカップでも右SBとしてプレーさせてもらっていたので、そんなに驚きはなかったです」と平然とした様子だった。「チームの監督として、このような状況であっても責任を持ってピッチへ送り出す選手を選びます。村上は長い間プレー機会に恵まれていませんでしたが、チームにとって必要な時にここに居てくれました」と話したのはケヴィン・マスカット監督。期待を込めて村上をピッチへ送り出した。
実際、鳥栖戦のピッチで村上が見せたパフォーマンスは評価に値するものだった。特にチームがボールを保持している状況で味方のサポートをする位置は試合を重ねるごとに進化を見せており、オフェンシブな選手らしさが溢れた村上の動きで横浜FMは多くのチャンスを生み出した。14分の場面では大外に開いた水沼にパスが出ることを察知すると、内側を駆け上がって局面で数的有利の状況を作り、背後のスペースへ飛び出してマイナス方向へ折り返した。25分の場面では水沼が内側に絞って相手の目線をズラすと、外側でパスを受け、縦への突破を見せている。51分にはエウベルが左サイドを突破し、ナム・テヒを経由して右に渡した場面で、鳥栖の最終ライン手前にスペースが発生すると、水沼からの落としをダイレクトで狙った場面もあった。
村上は試合後に「監督からは自分の良さである攻撃的な部分をどんどん出していってほしいと日頃から言われています。そういったところを今日も出そうと思い、試合に臨みました」と明かしており、「行くところ、行かないでバランスを取るところなどは毎試合学習しながらできています。試合を重ねるごとに理解度は高まってるのかなと思います」と自信をのぞかせる。3試合通して右サイドでコンビを組んだ水沼との関係性についても、「日々の練習、それから試合と試合の間という短い間ですけどコンビネーションの部分は話しながらやっています」と話していた。
ボールを保持していない場面でも村上は輝きを見せた。人に寄せる守備強度の高さは大きな武器で、後半立ち上がりの46分には右コーナーキックが跳ね返された場面で菊地泰智にボールが入ると、素早いチェックで奪い返し、低い弾道のクロスボールでアンデルソン・ロペスのポストに直撃したシュートを演出した。チームの結果も相まって、「前半から右サイドを崩してクロスまで持ち込む場面がいくつかあったのですが、最後自分のクオリティ不足もあってゴールまで到達できなかったので、そういう部分を練習からもっと追求していきたいです」と満足した様子は見られなかったが、自身の武器を決定機に繋げた素晴らしいプレーだった。
一方で、この試合では課題が浮き彫りになったことも忘れてはならない。鳥栖の攻撃は大外の選手にボールが入ると、高い頻度で内側のスペースへ選手が走り込んでくるが、守備対応の際に後手を踏む場面も散見された。87分に喫した失点の場面でも、村上が中央へ出したパスを横山歩夢に奪われたことがきっかけだ。長沼洋一のカットインからシュートは見事だったが、横浜FM視点で厳しい指摘をするのであれば“もったいない”場面でもあった。「パスコースを消す立ち位置」と「味方を使った守備」にはまだまだ改善の余地がある。
もっとも、前述の通り村上は元々オフェンシブな選手だ。守備対応の場面については「前半はうまく対応ができていたかなとは思いますが、相手からしたら行きやすいと思われがちなところではあったと思います」と語ったが、右SBで出場を重ねたからこそ突き付けられた課題とも言える。横浜FMはこの試合を1-1で終えており、優勝争いに向けて手痛いドローとなったが、公式戦のピッチにおける村上の“発掘”はポジティブに捉えられるはずだ。
現在の横浜FMでは、小池龍太が負傷により長期離脱を強いられている関係で、松原健が試合に出られない時には本職ではない選手が右SBに入ることが多い。19日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の幕が上がり、JリーグYBCルヴァンカップでも準決勝に進んでいることから、今後の過密日程で“右SBの村上”にかかる期待は大きいだろう。マスカット監督も試合後の会見で「村上は長い間プレーする機会に恵まれていませんでしたが、チームにとって必要な時にここに居てくれました。彼は頭の良いサッカー選手で、もっともっと伸びると思っています」と語っている。
本人はストライカーへのこだわりを捨てたわけではないはずだが、現在のチーム状況も理解している。「松原選手とは違った自分の特徴があるので、そういった部分をどんどん出していって、どっちが出てもチームの勝利に貢献できるように頑張っていきたいです」。こう意気込んだ村上は、今回のコンバートで自身の可能性を拡大している最中だ。
取材・文=榊原拓海
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