広島DF中野就斗 [写真]=縄田理可子
力強い守備を見せたかと思えば、攻撃時には勢いよく前線へと走り上がる。右サイドで闘うDF中野就斗の姿に迫力が増してきた。今年23歳の大卒ルーキーは今季これまでリーグ戦25試合に出場。本職はセンターバックだが、ミヒャエル・スキッベ監督のもとで右ウイングバックの主力として成長を続けている。
中野は9月30日に行われた明治安田生命J1リーグ第29節の名古屋グランパス戦で、8試合連続のスタメン入りを果たし71分まで出場。攻守においてアグレッシブなプレーで3-1の逆転勝利に貢献した。「守備に関しては良さを出せる場面が多かったけど、攻撃においてはもっと点につながるプレーをしないといけない」と自身のパフォーマンスを振り返った。
この名古屋戦でマッチアップした相手は、今年から日本代表に選ばれているDF森下龍矢。9月の日本代表の試合を見て刺激を受けていた中野は静かに闘志を燃やしていた。「自分も日本代表を目指している中で、現役の代表選手がいる相手に負けているようでは代表には入れないと思うので密かに燃えていました」
その闘志を表すように、森下と見応えあるバトルを繰り広げた。力強い球際や出足の鋭いインターセプトなど持ち前の守備力を存分に発揮して相手をほぼ完封。右サイドの後方を守る先輩DF塩谷司も、「特に前半は完璧に抑えていたし、彼(中野)の能力からしたら、あれぐらいできるのはわかっていた」と賛辞を送るほどだった。
日本代表DFを抑え込んだ中野は、「守備では良さを出せたけど、攻撃ではもっと走力で上回っていければ良かった」とマッチアップを振り返り、「やっぱり闘う部分はまだまだ必要だと思うし、一つひとつのクオリティはもっと上げていく必要がある」と課題を挙げた。
大卒ルーキーが著しい成長を遂げている。もともと高い守備力は、日本代表DFとの激しいバトルでも見せたように、さらに磨きがかかっている印象だ。本職ではないサイドでのプレーで課題とする攻撃面についても、最近は鋭いクロスが武器になってきた。 第26節のサガン鳥栖戦と第27節のヴィッセル神戸戦では2試合連続でアシストを記録。目に見える結果への意欲も高まっている。
名古屋戦の40分には、ペナルティエリア手前の中央で浮き球のセカンドボールをダイレクトで叩き、豪快なボレーシュートを突き刺した。待望のJリーグ初得点かと思われたが、味方のオフサイドの判定でゴールは幻となった。完璧なボレーシュートだっただけに、中野は「自分でもびっくりした」と笑みをこぼしつつ、ノーゴールになって「悔しかった」と続けた。
攻撃参加のために何度でも右サイドを駆け上がる姿には頼もしさが出てきた。ボールが回って来ないことも多いが、それでも攻勢になれば常に前線へと走り込む。「それが自分の取り柄だと思っているし、それがなくなったら自分の良さが消えてしまう。ボールが出ようが出まいが、自分が走ることによって違うスペースが生まれるのであれば自分は走るし、もっとチームのためにプレーしたい」
名古屋戦も攻守で全力を尽くし、71分に19歳のMF越道草太と交代するまでチームのために戦い抜いた。塩谷は、「後半始まってすぐに(中野が)『キツイです』って言っていたけど(笑)、それぐらい高い強度でいいプレーをしてくれたら途中で入った越道もプレーしやすかったと思う」と話し、中野自身も「(塩谷に)『キツくなるかもしれないですけど、とりあえず自分のできる範囲で出し切ります』とは伝えて、そのあとはコッシー(越道)に託しました」と明かした。
代わって入った越道が鮮やかなクロスで同点ゴールをアシストしたが、その影に前半からアグレッシブに闘った背番号15の貢献があったのは間違いない。中野本人は結果を出せなかった悔しさを口にしつつも、チームの勝利や後輩の活躍の方がうれしそうだった。
「交代で入った選手が試合を決めるプレーをしてくれてチームが勝ったので、本当にうれしい。チームが勝利すれば、個人の評価も上がると思っているので。(越道のアシストを見て)悔しい気持ちもあるけど、頼り甲斐があるなと思った。でもまだまだ負けてられない」
持ち味を活かしつつ、課題にチャレンジし続けて、本職ではない右ウイングバックで台頭した。そんな後輩の成長を塩谷は、「キャンプの時の感じだと今ぐらいのプレーができるのはわかっていた。公式戦の独特な雰囲気でのプレーに慣れてきて、彼の良さを出せるようになってきた。本来のポジションじゃないところで、あれだけいいプレーできるのは彼の持っている能力の高さだと思う」と称える。
9月16日の神戸戦、2試合連続のアシストを記録して攻撃でも結果を出したときのこと。試合後、中野に今季の「成長」について聞くと、「成長に終わりはないと思っている」と力強く話していた。
「(9月の)代表戦を見て、ああいう舞台でプレーするには、まずサンフレッチェ広島で結果を出さないといけないし、そういう部分ではまだまだ自分のできることはたくさんある」
中野は目標に向かって前進し続ける。「成長に終わりはない」。その言葉通りの強い意志をピッチで表現している。
取材・文=湊昂大
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By 湊昂大