鹿島戦で2得点を挙げた佐々木 [写真]=兼子愼一郎
絶対的FW大迫勇也を起点とした縦に速い攻めで今季開幕からポイントを重ね、シーズン終盤でトップに立つヴィッセル神戸。9月29日の横浜F・マリノスとの頂上決戦を制し、3週間の中断期間を挟んで迎えた10月21日、鹿島アントラーズとの上位対決に挑んだ。
ホームゲームながら、国立競技場開催ということで、鹿島のサポーターも多く、完全なる本拠地ムードの中での試合ではなかったが、神戸は序盤から一気に主導権を握った。吉田孝行監督が開幕時から積み重ねてきたハイプレスと素早い切り替え、長いボールを多用したスピーディーな攻めが奏功。16分には井出遥也の左クロスに佐々木大樹が右から飛び込み、値千金のヘディング先制弾をゲットする。
前半終了間際にも、同じような形で左から武藤嘉紀が中に折り返し、井出が頭で合わせて2点目を奪い、この時点で早々と勝負を決めた印象が強かった。
「試合を通して点を取れる雰囲気ではあったし、焦る雰囲気ではなかった」とキャプテンの山口蛍も自信をのぞかせたが、この日の両者はそれだけの力の差を感じさせた。
結局、神戸は3-1で勝利。勝ち点を61に伸ばし、いよいよ初J1制覇へカウントダウン状態に入った。その原動力となっているのは、もちろん今季20点の大迫、9点の武藤である。が、鹿島戦で2ゴールを奪い、シーズン通算7点を挙げている佐々木大樹の成長も見逃せない。
島根県浜田市出身の佐々木は神戸U-18出身。2018年にトップ昇格し、同年夏から1年間、ブラジルのパルメイラスにレンタル移籍。異国での活躍は叶わなかったが、本物のプロの厳しさを味わった。
その後、2020年から少しずつ試合に出始めたが、トルステン・フィンク監督からは主にボランチで起用されるのがメインだった。
三浦淳寛監督体制移行後は本来の攻撃的ポジションに戻ったものの、“うまくて献身的な選手だが得点にはあまり絡まない”というイメージ。2022年までのプロ通算ゴール数が2という数字がそれを物語っていた。
ところが、2023年に入ると佐々木のゴール数が一気に上昇。とりわけ鹿島相手にホーム&アウェー合計3得点というのは特筆すべき点だ。まさに“鹿島キラー”としてこの日も大いに輝いたのである。
「チームとしても(相手)左サイドバックの上をヘディングというのは狙っていましたし、日頃からコーチにヘディング練習を付き合ってもらっているので、恩返しが少しはできたかなと思います。2点目のリバウンドも気持ちで押し込んだという感じ。『ここぞという時に点を取れないと前の選手は価値が上がらない』とタカさん(吉田監督)から言われて、今年は意識がすごく変わりました」と鹿島戦後、彼は前向きな変化を口にした。
目の前に大迫と武藤というJリーグ屈指のFWがいることも大きなプラス。特に細部に至るまでアドバイスしてくれる大迫の存在は佐々木にとって大きな意味があるようだ。
「最後の部分が練習で合わなかったりすると『そこだよ、そこだよ、お前』と常に言ってくれる。最後のバイタルエリアのところは強く意識できるようになってきました。今日も得点後には『続けろ』『それで終わるな』と言ってくれた。本当に感謝してます」と本人もしみじみと語っていた。
大迫もこの日の鹿島戦後、「若い選手に話を聞いてあげてください」とミックスゾーンで発言。佐々木らを後押ししようという姿勢を色濃く示している。24歳のアタッカーはそういう期待に応える責務があるのだ。
佐々木の進化はチームにとって紛れもなく朗報だ。山口はさらなる期待を示しつつも、「もっと点を取れる」と注文をつけている。
「僕が神戸に来た時からもともと能力があったけど、7点じゃ少ないと思う。攻撃の選手であれだけのクオリティを持っているのであればもっと点を取らなきゃいけない。毎試合チャンスがあるし、それをモノにしていかないといけないですよね。ただ、今までの大樹はいいプレーだけで終わっていたけど、ゴール前で仕事をする回数が多くなったのは確か。本人も自信をつけていると思います。クロスとか雑な部分はまだあるけど、今のチームにとって必要不可欠な選手であることに間違いはない。もっと活躍していけば、(前川)黛也みたいに代表の道も見えてくると思うんで、そこは期待したいと思います」
日本代表としてワールドカップに参戦した偉大な先輩たちに面々に囲まれ、最高の環境で自己研鑽を図っている佐々木。視察に訪れた森保一監督も「佐々木選手は得点の部分で目立っていた」とコメントしており、注目度がアップしている今のタイミングを逃す手はない。もっともっと貪欲に高みを目指してこそ、大舞台が見えてくるのだ。
日本人2列目アタッカー陣の能力の高さはすでに欧州でも実証されているが、そこに佐々木も参戦するようになれば面白い。25歳を過ぎて急成長した伊東純也のように、遅咲きの男にもここからグイグイと伸びてほしいものである。
取材・文=元川悦子
By 元川悦子