2021年、セレッソ大阪はセルソース株式会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結した。
再生医療関連事業を手掛ける同社と組むことによってメディカル体制のさらなる充実を目指している。
森島寛晃代表取締役社長とMF鈴木徳真。2人の言葉からこの30年のメディカル体制や治療法の進化に迫る。
取材・文=山本剛央 写真=フォトレイド、セレッソ大阪 取材日:2023年9月7日
※本記事はセレッソ大阪オフィシャルファンクラブ会報誌『12TH』vol.154に掲載されたものです
2023年、Jリーグは30周年の節目を迎えた。セレッソ大阪も今年12月にクラブ創設30周年となる。
この30年でクラブや選手を取り巻く環境は大きく変化し、さまざまな進化を遂げてきた。スタジアムや練習場、クラブハウスといったハード面はもちろん、劇的な進化を遂げた通信インフラによって試合映像は携帯電話でも観られるようになり、チケットは紙から電子へと変貌した。
医療・治療の分野においても、テクノロジーや研究成果によって発展を遂げ、直接的に選手にも好影響を及ぼしている。今回は、セレッソ大阪の森島寛晃代表取締役社長とMF鈴木徳真へのインタビューをもとに、Jクラブにおけるメディカル体制の進化に迫っていきたい。
治療の選択肢を増やす。それが選手のためになる
30年前の1993年、森島はヤンマーディーゼルサッカー部の一員として、ジャパンフットボールリーグを戦っていた。当時のメディカル体制については、次のように回顧する。
「ドクターはもちろん、トレーナーさんもチームには常駐していませんでした。試合の前後に体をチェックしてもらう程度。ただ、セレッソがJリーグに加盟した95年からは選手をサポートする体制もだんだんと良くなっていきました」
その反面、現役時代の森島は多くのケガに悩まされる。2002年の日韓ワールドカップ、長居スタジアムでチュニジア相手に歴史的なゴールを決めた森島は当時30歳。それまでは「大きなケガをほとんどしなかった」という。しかし、30代に突入すると身体の変化とともにケガが増えていった。肉離れは完治したと思ったら再発を繰り返し、同じ箇所を4度も負傷した。そして、現役引退の引き金となった原因不明の首の痛み。「あらゆる検査をしたけど原因が分からず、『これからどうなってしまうんだろう』と大きな不安を抱えていました。クラブからは『焦らないでいい』と言ってもらい、1年以上試行錯誤しましたが、完治の目処が立たず……。最終的にそれが原因となり、08年限りで引退する決断をしました」
スパイクを脱いだあともクラブに残った森島はアンバサダーや強化部のスタッフを歴任し、18年に代表取締役社長に就任。「より愛されるクラブに」を合言葉に、忙しい日々を送っている。数多くのパートナー&スポンサー企業との付き合いを重ねてきたなかで、21年10月にはセルソース株式会社とオフィシャルサプライヤー契約を締結した。再生医療関連事業を手掛ける同社と手を組むことが、選手の手助けになると決断に至った。
再生医療とは、ケガなどによって失われた身体の組織を再生することを目指す医療技術のこと。その一種であるPRP(多血小板血漿)療法は患者自身の血液を使って自然治癒力を引き出す。最近では野球界のスーパースター大谷翔平も利用するなど、スポーツ界で急速に浸透しつつある。
森島はセルソースの持つ再生医療技術への期待を次のように語る。
「あらゆる面において良いものはどんどん採り入れていきたい、という考えがあるなかで、現場からも要望の声がありましたから。言うまでもなく、ケガが早く治る可能性があるのであれば、ぜひ利用したい。選手はもちろん、クラブにとっても大きなメリットになります」
続けて、メディカル体制を充実させること、それはすなわち勝利へと近づく手段の一つだと説く。「選手全員がケガなく、元気にプレーしてもらいたい。そのために準備段階から最善を尽くしています。ただ、それでもケガは起こり得る。実際、ケガをしてしまったら1日でも早くピッチに戻ってもらいたい。それがチームの成績に直結します。ファン・サポーターの皆さんも選手の復帰を待ち望んでいます。選手が常にピッチで輝けるようにしたい。クラブはそのために、いろいろな手を打っています」
現役時代、ケガに悩まされ、原因や適切な治療法さえも見つけられなかった森島が、「治療の選択肢を増やすことは大きなメリットがある」と強調するのは説得力が伴う。と同時に、自身が味わった悔しさを今の選手たちには味わわせたくないという強い思いがあるのだろう。
「治療法やリハビリのトレーニングは選手一人ひとりに合う、合わないがあります。だからこそ、多くの選択肢を用意しておくことがとても重要です。選手目線で考えると、選択肢が多いことで安心感が増します。環境面やサポート体制が充実していればいるほど、選手は思い切りプレーでき、より持てる力を発揮してくれるはずです」
選手のケアや治療法は年を追うごとに進化し続けている。もしも、森島の現役時代に現代の治療法が普及していたらどうなっていたのだろうか。その問いかけに、「カズさん(三浦知良)を追いかけて、まだ現役でやっていたかもしれないですね(笑)」と冗談で場を和ましたあと、少し寂しそうな顔つきで言葉を続けた。「今の選手たちがいろいろな治療を体験し、その感想を聞いたりすると、『自分の時代にもあったら、もう少しピッチに立てたかもしれない』と頭をよぎることはあります」
森島の現役時代、ケガの診断においてセカンドオピニオンを受けることは稀だったという。治療法も医者の指示に従う。それが当たり前だった。だが、今の時代は違う。セカンドオピニオンを取るケースは増えているし、治療法もその時々の状況を考慮して複数の選択肢から検討できるようになっている。
今を良くするために最善を尽くす
森島をはじめとするクラブスタッフが尽力し、構築している治療のサポート体制を現場の選手たちはどう感じているのか。セレッソ加入2年目のシーズンを過ごす鈴木徳真に率直な思いを聞いた。
まずは鈴木のケガの経験を紐解いていこう。彼のサッカー人生は、ケガとの闘いでもあった。中学時代に負った捻挫にはじまり、肉離れ、膝や足首の靭帯損傷。よく耳にするケガはほとんど経験してきたという。筑波大学時代には意識を変えるほどの大きな経験もした。
「足首と腰を一気にやってしまった。腰は筋膜炎で1カ月ぐらい寝る時もずっと横になれないほど痛くて。それで、『何かを変えないと、こういったケガが続くな』と思い、ケガをしないためには何をすればいいのかを真剣に考えるようになった」
そこから鈴木は自身の身体を“実験”していった。まず、単純に筋力アップを図ることでケガへの耐性を強めようとした。しかし、あっけなく失敗に終わる。「筋肉を余分につけ過ぎてしまい、かつ、動かし方が下手くそだから、また違うところが痛くなってしまった」
次に、身体全体の連動性を高めようとした。筋肉を削ぎ落としつつ、関節の可動域を広げるトレーニングを採り入れる。そうすることで運動機能改善を目論んだ。だが、これも「どこかのバランスが悪くなり、うまくいかなかった」
どちらも失敗に終わった原因は過度にやり過ぎたためと鈴木は結論づけた。そして試行錯誤した末に自分なりの最適解にたどりつく。自身にとって適量な筋肉量を見極め、かつ身体の連動性を高めることも追求していく。身体全体のバランスを整え、食事にも気を遣う。栄養バランスを考えながら、軟骨や関節にいい食品も意識的に摂取した。
そうした努力が実り、ピッチで結果を残した鈴木は全日本大学選抜のメンバーに選出されるなどの実績を積み、プロ入りの目標を実現させた。2019年、徳島ヴォルティスでプロキャリアをスタートさせ、2年目には完全にレギュラーに定着。チームのJ1昇格に貢献した。その働きが評価され、2022シーズンから活躍の場をセレッソ大阪に移した。
加入当初こそチームへの適応にやや苦しんだものの、シーズンをとおして印象深い活躍を続けた。ピッチ中央に構えるボランチとして攻撃をコントロールしつつ、守備でも献身的に走り回り、勝利に貢献していた。しかし、その陰でケガにも悩まされていた。昨年の秋、右膝の靭帯を痛めてしまったのだ。
その際、チームのトレーナーからセルソース提供によるPFC- FD™療法(PRP療法の一種)があることを知らされた。メリットとデメリットをドクターから聞いた上で、鈴木はPFC- FD™療法を受けることを決心する。
「従来の治療では完治するまで1カ月から2カ月ほどかかりそうだったのですが、PFC- FD™を打つことによって回復速度が早まる可能性があるという説明を受けて、それに懸けたいと思った」
その判断は結果的に大正解だった。1週間ほどはピッチから離れたものの、信じられないほどの速さでチームトレーニングへの復帰を果たした。
「本当に驚きました。膝の靭帯がこんなにも早く治るのか、と。僕の経験上、膝の靭帯は相当な時間をかけないと元に戻らないし、その時の受傷度合いはかなり大きくて、すぐには治らないと覚悟していたので。PFC- FD™を打って1週間後には、膝の揺らぎというか、緩さがなくなり、膝の踏ん張りも効くようになった。少し残っている緩さはテーピングでカバーできる範囲だったので、練習にも復帰していいと」
そうして鈴木は無事、2022シーズンを最後まで駆け抜けることができた。
誰であろうとケガをしてしまった時はショックを受ける。ナイーブにもなるだろう。それが身体を資本とするプロサッカー選手であれば、なおさらだ。しかし、鈴木はそれをやんわりと否定する。サッカーにケガは付き物。ケガとうまく付き合うことも、プロに求められる資質の一つと捉えている。
「先ほど話した大学時代のケガは精神的にもキツかったですよ。頭の中と身体がうまく噛み合わず、焦りから不甲斐なさを感じ、『俺は何をやっているんだろう』とナイーブにもなりました。ただ、そういった経験を積み重ねて、ケガの治し方を学んだ。何をして、どうアプローチすればいいのか、大体分かっています。『絶対に治せる』という自信があるからナイーブにもならない。その状態にPFC- FD™という治療法も出てきた。なので今はケガをしている時でも、ピッチに戻ったらこうしよう、という前向きな気持ちしか持っていないです」
プロサッカー選手にとって、ケガを負うことによる代償は大きい。だからこそ鈴木は「理想は誰一人、ケガをしないこと」と森島と同じ言葉を口にする。それが極めて難しいことも理解しているため、「ケガの予防法やケガをした選手に対するアプローチはクラブ全体で突き詰めていかないといけない」と主張する。
鈴木が思い描く将来像の一つに、「40歳までプレーする」という目標がある。
「今の自分が成長するため、良くなるために、いろいろなことを考え、試行錯誤しながら取り組んでいます。練習前後のストレッチやケア。食事面。そういった日々の積み重ねによって結果的に40歳までプレーできたら最高だな、と」
今を良くするために最善を尽くす。ピッチでいいプレーをするため、試合に勝つため、環境を良くするため。森島と鈴木は、それぞれの立場でやるべきことに全力で打ち込んでいる。その姿勢は今後も変わることはない。
膝治療の新たな選択肢 PFC-FD™
血液を活用するPRPサイトカイン療法
血液に含まれる血小板や成長因子が持つ傷の修復に働く自然治癒力を応用し、膝の関節痛に有効な成分を活用する治療です。関節内に注射することで、組織の再生能力に働きかけ、痛みの改善を後押しします。
出典:関節治療オンライン「PFC-FD™療法(血液由来の成長因子を用いたバイオセラピー)とは」PFC-FD™療法で改善が期待できる疾患(全国1,109院[2022年1月末現在]の医療機関で実施し、その情報を公開しているホームページ)
※PFC-FDはセルソース株式会社の保有する商標です。