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初の得点王受賞も心境は複雑…横浜FMのアンデルソン・ロペス、ストライカーとしての矜持

2023.12.05

アンデルソン・ロペス(撮影は第28節鹿島戦) [写真]=兼子愼一郎

 2023シーズンの明治安田生命J1リーグ第34節(最終節)が3日に行われ、横浜F・マリノスは敵地で京都サンガF.C.に1-3で敗れた。

 前半19分に退場者を出して数的不利の戦いを強いられた横浜FMは、1-1で迎えた後半の立ち上がりに連続して失点を許すと、最後まで反撃の狼煙を上げることはできず。既に前節のアルビレックス新潟戦をスコアレスドローで終えた時点で2連覇の可能性は消滅していたが、今季のリーグ戦はショッキングな幕切れとなった。

 チームとしてはタイトルに手が届かなかったものの、個人としては嬉しい記録もあった。24分に横浜FMの先制点を決めたFWアンデルソン・ロペスが、今季のリーグ戦での得点数を「22」に伸ばし、ヴィッセル神戸所属のFW大迫勇也と並んで得点王を受賞したのだ

 横浜FMの選手が得点王を勝ち獲るのは2年ぶりのこと。当時はFW前田大然(現:セルティック)が年間ゴール数「23」を記録し、川崎フロンターレに在籍するFWレアンドロ・ダミアンと共に得点ランキングの頂点に立っていた。その2年後、奇しくも2021シーズンと同じく2名同時受賞という形で、横浜FMの“エースストライカー”が自身初の栄誉に輝いた。

 京都戦のロペスは得点王を意識し、個人タイトル獲得を目指して闘志を燃やしているように映った。ゴールシーンもさることながら、例えば前半41分のシーンではカウンターの流れから左サイドを突破したFWエウベルからパスを受けると、ファーサイドに余っていたFWヤン・マテウスやMF山根陸を使うのではなく、強引にシュートを選択した。このシーン以外にも、ロペスが得点王を意識していることが垣間見えるシーンは多々あった。

 このようなシーンを見ていたため、ロペスは自身の得点王を何よりも喜んでいる。そう思っていたが、試合後にロペスが発したのは意外な言葉だった。「チームとしては勝利で終わりたかったので、残念です。得点王に関しては嬉しく思います。繰り返しになりますが、リーグ戦の最後は勝って終わりたかったですし、もっと言うならば(リーグ戦の)タイトルも勝ち獲りたかったです」

 もちろん、ロペスが得点を狙っていたことは事実だろう。実際、シーズン終盤が近付いてくると、試合後の取材時に彼は得点王への意欲を示すような発言も残している。だが、あくまでロペスは自身の得点で「チームを勝たせること」にこだわっていた。

 今シーズンを振り返ってみると、ロペスのゴールがチームに勝ち点をもたらした試合は非常に多い。ロペスが得点を決めた試合の成績は10勝2分2敗。この数字をどのように評価するかは人によって様々だとは思うが、少なくともロペスがゴールを挙げると勢いに乗れる。今季の横浜FMはそのようなチームだった。チームメイトの山根も、その存在感を「本当に、数字が物語ってると思います。彼によって助けられた試合っていうのは数えきれないので」と表現している。

 そんなロペスが京都戦で決めた先制点は、今季何度も見せてきた形だった。サイドを切り崩した流れの中で、ゴール前の抜群なポジションに待ち構え、最後はクロスボールからゴールネットを揺らす。ロペスは「一連の流れをずっと追っていたので、ゴール前に入っていけばクロスが入ってくるのはわかっていました。エウベルが運んでいる時に『陸に出せ』と声を掛けました。陸に渡ればきっとペナルティエリアの中にボールが入ってくると思っていたので」と話したが、今季このような心境でゴール前に顔を出したのは1度や2度ではないはず。アシストした山根は「誰かいるだろうなと思ってボールを出したのですが、得点王はしっかりそこにいてくれますね」と語っていた。

 誤解を恐れずに記すとするならば、既にリーグタイトルを逃し、2位が確定している横浜FMにとって、最終節の京都戦は消化試合のようなものだった。だからと言って負けていいわけではないが、唯一の個人タイトルが懸かっていたロペスは勝利よりもまず得点王を意識する。筆者はそう勘違いしていた。

 だが、前述の通りロペスはチームの勝利と同時に得点王を達成することにこだわっていた。1点目の後、急いでボールを抱えてハーフラインまで走って行ったのも、単独での得点王という個人タイトルを最優先する思いから生まれたものではない。「僕らは1人少なくても、もっともっと点を決められると思っていたので、あのような行動をしました」と振り返っている。

 自身の得点でチームを勝利へ導く。このような姿勢でシーズンを戦ってきたロペスに、チームメイトは何としてでも得点王を獲らせたいと思っていた。横浜FMを率いるケヴィン・マスカット監督が「彼に2点目を入れさせたい、3点目を入れさせたい。自分で打てる場面であっても、なんとかロペスに得点を決めさせたいという気持ちの表れがピッチに出ていました」と話した通り、リーグ戦2連覇を逃した中でもせめて個人タイトルは勝ち獲って欲しいというメッセージがスタンドにまで感じられた。そして、マスカット監督はそのような姿勢を「彼らの良さの1つでもあると思います」と話した。

 ロペス自身の耳にもチームメイトの話は入っていたようだ。「昨日の前日練習でも色々な声が聞こえました。僕がいないところでも、『ロペスを得点王にしよう』といった話があったみたいです。本当に心強い仲間がいっぱいいるんだな、これがマリノスなんだなと思いました」と明かしている。一方で、ストライカーのロペスに「最後に仕上げて欲しい」というメッセージは、この試合に限って感じられたものではないとも主張した。

「今日の試合だけでなく、シーズンを通してチーム全体が僕にパスを出して、得点を決めさせようという思いは感じていました。パスが来て、決めるか決めないかは僕次第だとはいつも感じています」

 チームメイトの期待を背負いながら、シーズンを通してゴールを量産したストライカーは、最終節でもその期待通りのゴールを決めて見せた。だが、試合結果は1-3の黒星。ロペスとしては嬉しさと悔しさが混在する、複雑な心境だったはずだ。

 それでも、最終節で通算得点数を「22」に伸ばし、得点王を勝ち獲ったロペスは間違いなく個人としての評価に値する。試合後の会見ではマスカット監督も「ロペス自身の今後のキャリアの中に残っていくものです。個人としてこのようなタイトルを獲って、自分は嬉しく思います」と称賛していた。試合後は悔しさを拭えない表情だったが、5日の18:20から行われる『Jリーグアウォーズ』では、大迫と共に笑顔で表彰されるロペスの姿が見られるだろう。

取材・文=榊原拓海

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