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“ハマのプリンス”から“泥臭く戦える男”へ 柏MF山田康太の現在地

2023.12.11

天皇杯決勝で先発した山田康太 [写真]=兼子愼一郎

 2023年の国内サッカーの最後を飾った12月9日の天皇杯 JFA第103回全日本サッカー選手権大会決勝。2020年の天皇杯覇者であり、2023-24シーズンのAFCチャンピオンズリーグでいち早くグループステージ突破を決めている川崎フロンターレが有利だと思われた。しかし、試合が始まると、今季の最後までJ1残留争いを強いられた柏レイソルが主導権を握った。高い位置からの組織的プレスを仕掛け、相手の効果的なパス回しを封じたのだ。

 最前線から猛然と守備に行ったのが、背番号11をつける山田康太だった。

 日本代表FW細谷真大のやや下がり目に位置した24歳は、凄まじいハードワークを披露。川崎Fの中盤にボールが入った時も献身的にプレスバックに行っていた。彼自身のシュートはマテウス・サヴィオの打ったこぼれ球から右足を振ったものの、橘田健人にブロックされた35分のシーンくらいだったが、全体的に効果的な動きを印象付けた。

 後半に入り、川崎Fが少し飛ばしたボールを使うようになったことで、柏はペースダウンを余儀なくされた。それでも、山田自身の運動量と守備意識は衰えなかった。

 横浜F・マリノスのアカデミーからトップ昇格し、FIFA U-20 ワールドカップポーランド2019に挑んでいた頃は“ハマのプリンス”の異名を取り、華麗なテクニックを前面に押し出すタイプだったが、この日に見せたのは全く違う姿だった。“泥臭くタフに戦うアタッカー”へと変貌を遂げたことを力強く実証したのである。

「以前のような自分らしいプレーは要所で出したいし、局面を変えるところで違いを見せたいとは思いますけど、ハードワークや力強さは自分に足りない部分だった。それをやらないといけないとずっと意識してきて、イメージ通り、成長できているのかなと感じます」

 こう語る本人は、U-20W杯が終わった2019年夏以降、名古屋グランパス、水戸ホーリーホック、モンテディオ山形に赴き、主にJ2で武者修行してきた。世代別日本代表として、ともに戦った久保建英や菅原由勢らが日本代表の主力に定着しつつあるだけに、「このままではいけない」という危機感が募ったことだろう。

 J2での実績を買われ、今季4シーズンぶりのJ1に返り咲き、柏へ完全移籍。ネルシーニョ監督体制だったシーズン当初は出番を与えられた。が、4月以降はスタメンから外れ、井原正巳監督が就任した5月以降もなかなか浮上できずに苦しんだ。

 そんな山田が本格的に攻撃のキーマンと位置付けられたのは、中断期間を経た夏場。8月6日の京都サンガF.C.戦で2トップの一角に入ると、そこからリーグ13試合続けて先発。夏から加わった犬飼智也、山田雄士らの存在も大きかったが、彼の出番が増えるごとにチーム状態も改善し、内容がよくなっていった。

「自分がチームになかなか貢献できない時も『レイソルのために何をすべきか』と考えたし、無駄にしていた時間はなかった。そういう時間があったから、井原監督になってやり方が変わって必要とされた時にパフォーマンスや自信が変わってきたんだと思います」と本人も日に日に手応えをつかんでいったという。

 それが決勝戦での効果的なプレーにつながったわけだが、77分に19歳の山本桜大との交代を強いられたことは悔しさいっぱいだったに違いない。

「真大やサヴィオみたいにこのクラブで長くやって信頼をつかんでいる選手は120分試合に出ている。自分も『康太だったら何かやってくれる』という雰囲気をチームに残せる選手にならないといけない」と口にした。

 結局、延長戦以降をピッチの外から見守ることになり、PK戦による敗戦という辛い幕切れをベンチで迎えた。

「『もっとサッカーうまくなりたい』とか『自分がチームを勝たせたい』と強く思う1日になった。川崎Fはタイトルを取っているチームですし、そういう差もあった。決めきる部分も含めて来季はもっと成長したい」と山田はさらなる飛躍を誓ったのである。

 確かに、今季の柏は得点力を細谷1人に頼りすぎる傾向があった。中盤から後ろのオーガナイズは強固になり、マテウス・サヴィオを中心とした攻めのお膳立てもできていたが、細谷が3枚がかりで守られた時、次の一手がなかった。

 もちろんクラブは2024年に向けて補強も進めるだろうが、山田がその一翼を担えるようになれば、彼自身ももう一段階ステップアップできるはずだ。

「去年までJ2にいたので、J1に来て1年やってみて『できるな』という感覚はある。いい意味で来年慣れて、自分の特徴を磨いて、より得点できるようになっていければいいかなと思います」と本人も点の取れる怖いアタッカー目指して突き進む構えだ。

 横浜FMの先輩である水沼宏太が30歳になって日本代表入りしたように、山田も20代半ばからが勝負。近い将来、久保や菅原と再び共闘できる日を現実にすべく、柏の背番号11は自己研鑽を続けていく。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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