浦和に復帰した松尾 [写真]=元川悦子
アカデミー育ちの荻原拓也がディナモ・ザグレブ、貴重なマルチプレーヤーの明本考浩がルーヴェンへ赴くなど、今冬も複数の戦力が外へ出た浦和レッズ。代わって前田直輝や渡邊凌磨らが加入し、ペア・マティアス・ヘグモ監督率いる新体制で2024年のチーム作りが着々と進んでいる。
そんな中で期待される1人が、古巣復帰した松尾佑介だ。ちょうど1年前にウェステルローへレンタル移籍し、昨シーズンは14試合、今シーズンは15試合に出場。ゴールこそ奪えなかったが、このままヨーロッパでのキャリアを続行させるかと思われた。が、契約上の問題もあり、1年で日本に戻ってくることになった。
「どこにいてもプレーできるし、1回、ヨーロッパへ行って2回目行っている人も多いですよね。僕もこの後、どうなるか分からないけど、今はレッズでチームを一番に考えてプレーしたい。自分のいるべきところで頑張ります」と様々な思いをいったんリセットして、新シーズンに挑む覚悟だ。
「『クオリティは間違いない』と(ヨナス・デ・ルーク前)監督も言ってくれているし、プレータイムさえもらえれば、本当に順応できる自信がある。特に攻撃面でチームを活性化させられると思います」と、ちょうど1年前の2023年2月にはベルギーの地で語気を強めていた松尾。そこから着実に出番を増やしたと見られていたが、本人の中では苦しい時間の方が長かったという。
「向こうでは使われ方が監督によるんです。自分の場合は本職の左で使われることがあまりなくて、右とかでやっていたので、不慣れなポジションで苦労することも多かったです。ただ、僕はサッカー人生というのは常に難しい時期しかないと思っている。自分が満足することはないし、どこに行っても常に焦燥感や何かが足りない気持ちがある。それをベルギーで再確認できた。その経験はすごく大きかったですね」と、異国の小さな田舎町で日々、サッカーと地道に向き合い続けたことを明かす。
こうした貴重な1年間で松尾がより強く感じたのは、「自分はトライし続ける継続性が足りない」という事実だったという。
「ベルギーに行って、トライする数自体を1、2回じゃなくて、どんどん増やしていかないといけないと気づきました。その分、ミスもたくさん増えるし、悪目立ちすることもあると思いますけど、それでもしっかり結果を残していけば、『あいつはチャレンジしていい選手なんだ』とチームに認められる。それがウェステルローでは足りなかったし、そういった選手になりたいと再確認したので、今季はそれを意識してプレーしたいですね。もちろん周りから厳しい目で見られるでしょうけど、あえてチャレンジしていきたい」と力強く話す。
むしろそういったアグレッシブさを前面に押し出さなければ、ヘグモ監督率いる新生・浦和で定位置を確保し、目覚ましい活躍を見せるのは難しいだろう。今季の左ウイングのポジションには実績ある関根貴大がいて、小泉佳穂も参戦してきそうな雲行き。松尾には彼らにないスピードと推進力があるものの、好不調の波も少なくない。性格的にも少しムラッ気があるため、心身両面で安定感あるパフォーマンスを発揮することも彼の課題だ。そういったハードルを越えてこそ、浦和で成功できる。
2022年はリカルド・ロドリゲス監督から1トップに抜擢され、万能性と適応力を披露。25試合出場4ゴールという数字を残したが、今季求められるのはそれ以上の結果だ。昨季得点力不足にあえいだチームにゴールという結果をもたらすことが、悲願のJ1制覇へのカギになることを松尾自身もよく分かっているに違いない。
特に右ウイングの新戦力、オラ・ソルバッケンとの相性の良さは追い風。沖縄キャンプ中の名古屋グランパスとの練習試合でも2人のスピードがかなり光っていたようだ。
「今年のレッズは縦に速い選手が意外といないので、(ソルバッケンは)『俺がもう1人、逆サイドにちょっとデカくなっている』みたいな感じ(笑)。俺よりも速いと思うんですよね。あそこにいてくれるのは助かりますし、逆に右から彼が上がった時は僕も前に出ていける。いろんなオプションがあるので、すごく楽しみです」と本人も両サイドの槍のストロングを生かしつつ、敵を凌駕していく構えだ。
ここまで浦和は練習試合全勝で前評判が非常に高いが、本当の勝負は本番になってみなければ分からない。松尾自身も気を引き締めている。ベルギーで1年間、試行錯誤を繰り返し、サッカーをより多角的に捉えられるようになった26歳の韋駄天が新たなエッセンスをもたらすことで、浦和が勝利に近づくのは間違いない。そういう存在になれるように、彼は虎視眈々とゴールを狙い続けていく。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子