今季からJ3の大宮でプレーしている杉本 [写真]=J.LEAGUE
2023明治安田生命J2リーグで21位に沈み、初のJ3降格を強いられた大宮アルディージャ。2024年は1年でのJ2復帰を目指し、FC東京やファジアーノ岡山で長く指導に当たっていた長澤徹監督を招聘。攻守両面で立て直しを図ったところ、開幕から9戦無敗というロケットスタートを見せている。
そんな大宮にとって4月14日のアスルクラロ沼津との首位攻防戦は極めて重要な一戦だった。今季からJ3に身を投じ、攻撃陣を力強くリードしている杉本健勇も「サポーターも今日の試合が優勝に向けてのポイントだと思っていたと思う」と勝利への強い責任を感じつつ、ピッチに立ったという。
杉本と藤井一志を2トップに並べた3-5-2でスタートした大宮は序盤からゲームを支配。たびたびゴールに迫った。杉本自身は最前線での仕事を意識しながらも、空いたスペースを幅広く動きながらフリーマンのような形でプレー。長澤監督も「彼は前回の試合も12、13キロと誰よりも走っている。それが一番のタスク」と発言するように、走力やハードワークというタスクを課せられており、本人もそれをこなしつつ、決定機に顔を出すことを意識していた様子だ。
それが結実したのが、39分の先制点の場面。左サイドでボールを奪った大宮は小島幹敏から藤井につなぎ、最終的にペナルティエリア少し外側にいた杉本へ。落ち着いて豪快に右足を振り抜き、2試合連続となる今季5ゴール目をマークした。
「一志も自分で打てたと思いますけど、丁寧に出してくれた。相手GKが左に動いていたので、インステップでいいところに行けば、逆には飛ばないかなと。まぁ、いいコースに行ったということですね」と本人も嬉しそうにコメントしていた。
エースFWの一撃で1点をリードした大宮はこのまま行ければよかったが、そこは相手も9試合18得点を挙げているチーム。ギアを上げてきて、素早い展開から同点弾を浴びてしまう。そこからの反撃姿勢は凄まじく、長澤監督も持ち駒を次々と投入。杉本自身も再三、ゴールに迫ったが、あと1点が奪えない。最終的に痛み分けに終わり、大宮としてはほろ苦い結末となった。
「俺自身は1失点、2失点は覚悟していたので、やられてからが大事だと思っていました。『1-0では終わらんよな』と。だからこそ、自分が決められなかったのは悔しい。ただただ悔しかったです」と、背番号23は感情を爆発させた。
悔しさや不完全燃焼感をストレートに表現できるのも、試合にコンスタントに出場できているからだ。浦和レッズ、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田を渡り歩いた近年の彼はピッチに立つ時間が減り、結果も出ていなかった。30代に突入し、「このままでは終われない」という焦燥感を覚えていたに違いない。
「健勇は少し力を出し切れない状況が数年続いていました。若い頃から彼を知っていますけど、感情をむき出しにしていた。それがどう映るか分からないですけど、『心が年を取っちゃうとダメだよね』と話をしました。攻守を全部見ながらやるのが今のタスクで、勝利に責任を持つとか、若い時にやっていた姿を年齢関係なくやることを求めています」
長澤監督の愛ある要求に対し、杉本自身も応えようと懸命に取り組んでいる。その結果として直近5試合5発という結果がついてきているのだろう。
「若い頃のギラギラ感?たぶん今よりもっとあったと思いますけど、自分が点を取ってチームが勝てなかったら、ホンマどうでもええという気持ちが強いんです。自分が決めなくてもチームが勝てればいいと思っているので。チームのためにプレーするだけですし、それが結果的にゴールやアシストにつながってくる。これからもチームのためにプレーしたいと思います」と本人はフォア・ザ・チーム最優先で取り組んでいることを明かす。
傍目から見れば、「杉本健勇ほどのタレントがJ3にカテゴリーを落としたのなら、このくらいやれて当然」という目線もあるかもしれない。ただ、こちらも今季から初のJ3でのプレーとなっている沼津の齋藤学が「J3とJ2、J1はそんなに違いはない」と言うように、そう簡単なリーグではない。そこで結果を出し続けることは想像以上に難しい。新たな環境下で、今の杉本は大宮のJ2昇格のために全力を出し切ろうとしている。長澤監督らチーム全体の後押しを受け、前向きなマインドになれていることが、復活の原動力なのだろう。
「今はやっていて楽しいですし、勝利、優勝だけを見ているので、そこに向けてコツコツと戦って、最後は喜びたいですね。今のチームは若い選手も多いですし、個人としてもっとやらなアカンことも多い。それを彼らに示して、いい意味で要求し合えるようなチームにしていきたい。そうすればもっと強くなれると思います」
自身が若かった頃、森島寛晃ら数々の偉大な先輩たちが示してくれた姿勢を脳裏に刻みつつ、成長途上の大宮を引き上げ、自身も輝くことができれば最高だ。そうなるように、2024年の杉本健勇はフレッシュな気持ちで前へ前へと突き進んでいく。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子