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多様化するJリーガーの“その後”のキャリア 支援する側の考え方とは?

2024.07.12

[写真]=野口岳彦

 プロアスリートにとって、セカンドキャリアは重要なものの一方、現役時代は競技に全身全霊を懸けるため、どのように道を定めていくかは難しいもの。

 その中で、団体として選手たちを支える立場にあるJリーグJPFA(日本プロサッカー選手会)はどのように向き合っているのか。

 Jリーグで長年キャリアサポートに携わっているフットボール本部育成部の松沢緑さん、JPFA事務局次長の佐藤将司さんに、これまでの取り組みと、これからの選手のキャリア形成について聞いた。後編ではこれからのキャリア形成へのアプローチなどについて。

インタビュー=小松春生

―――選手のキャリア形成に対する考え方は昔と比較して変わっていますか?

佐藤 変わってきていると思います。特にオンラインで何かを学ぶことがコロナ禍もあって急速に浸透し、そういった学びの場を使う、アンテナを持つ人が増えたことで、学べるチャンスに対して意欲を持つ選手は確実に増えていると思います。新入団選手からはプロになることで、これまでと同じようにサッカーをしているのにお給料を急にもらえるようになり、不思議な感覚になったと聞いた事があります。ただ、その感覚は昔の選手と同様に持っていても、先輩側のノウハウが昔よりも増え、アドバイスの質も変わり、時間の使い方も知るようになるということ含め、現在は変化が出ていると思います。

―――セカンドキャリアやお金の面などを早い段階から意識している新人選手が増えたなどはありますか?

佐藤 そこまで多くはないと思います。ただ、そこへの感度の高まりや、支援金の制度など、使えそうな仕組みがあれば積極的に取り入れようとする選手は肌感覚として増えたように感じます。

―――アカデミー選手を見ているJリーグ側としてはどのように感じていますか?

松沢 ユース選手向けの研修教材を制作する際、例えばプロサッカー選手の現状をデータとして見せるようにしました。在籍年数や出場試合数など、厳しい現実を突きつけることになるので、辛辣な数字を見せることにもなりますが、だからこそ最初に提示します。そこから、それでもプロになりたいと思う選手に対しては、その後のキャリアの道を伝えることも大切になります。過去には、「選手はまだ現役なのに、引退後のことを考えさせるなどありえない」という考えがクラブにも選手自身にもあることが多かったですが、今は違います。もちろん、選手なので現役のキャリアに集中してもらいたいですが、その後のキャリアもあることを知っていてサッカーをすることと、そうではない状態で過ごすのは全く違うので、選手も就学支援などを活用していると思います。

[写真]=野口岳彦

―――現役中に法人を作るなどして社会貢献活動などをする選手も増えました。

佐藤 法人を選手が立てるようなことは、15年前などは少なかったと思いますし、例えば農業をやってみたり、子どもたちにも体験させてみたり、サッカー以外のことでも自分がハブになって何ができるのか考える選手は圧倒的に増えていると思います。行動に移せるようになった選手、それをサポートしてくれる方も増えている感覚があります。

―――デュアルキャリアに近いのでしょうか?

佐藤 自分が空いている時間に何を成せるかですとか、サッカー選手であることを使いながら、他者に価値を提供できるかを考えている選手は一定数います。いろいろな情報量が増えたことと、トライをしている選手が増えてきていることで、それが連鎖して、取り組みの幅も増えている印象があります。

―――キャリア形成についての課題や今後どういったアプローチをしていきたいか、お考えはありますか?

佐藤 ここまでお話ししてきたポジティブな話題は、濃淡でいえば濃い方の事例で、まだまだ淡い方が大多数です。行動を起こさない選手もいますし、選手会側もリサーチしきれていないところがあるので、お互いに課題はあると思います。それを引き上げられるようになっていくと、どんどん濃いものになっていきますし、淡いままでは駄目だ、ということも出てくると思います。

 Jリーグさんにも種まきをしていただいているので、それを私たちはどう芽吹かせるか。ただ、サッカー選手も“職人”なので、プロになって早々、引退後のことを話しても信頼を失いかねません。まずは現役生活をフルパワーで過ごせることに寄り添っていく。一方で、質問が来たらタイムリーに返すという信頼関係を結んでいくことで、可能性も広がるので、選手の希望に沿って、こちらが何かを指し示すのではなく、本人の話にしっかりと耳を傾けて伴走していくことが当面は必要だと思います。

[写真]=野口岳彦

松沢 ジュニアユース、ユースの選手たちのキャリア教育をする中、「やって終わり」にならないようにしなければいけません。伝えたことを忘れず、いかに継続させられるかも大事です。結果的にプロになれる選手は本当に一握りです。プロにならない、なれない選手たちにもJリーグのクラブにいて良かったと思ってもらえることと、自分で次のキャリアをしっかりと考えられるようになってほしいと思っています。広い意味で、彼らもJリーグファミリーですし、そういった方が違う分野で活躍していることも、私たちにとって非常に喜ばしいことです。まだ、その実態を把握しきれていないところもありますが、いろいろな分野で活躍できるようなサポートもしていきたいです。

―――最後に、競技者の方に向けてメッセージをお願いします。

佐藤 まず、選手として全力でやっていく中で、鍛えられることは体だけではないと思っています。培ったものはサッカー界以外でも通用することを、こういった話題での会話になった時には相手の選手に伝えてはいますが、選手は他の職業のことや実態を知る機会が少ないので、「この能力はこっちでも使える」と、転用できることもあると色々な機会を通じて気付いてもらえたらと思います。サッカー界に関わっているいろいろな人たちをきっかけとして、様々な人と交わって、繋がってもらいたいです。自分の可能性はサッカー界だけではないですし、「サッカーだけしかしていない」と言う選手も多いですが、そういった言葉がなくなっていくことが、アスリートにとっても明るい話だと思います。

松沢 選手のときにしかできないことは、たくさんあります。研修を受けたり、様々な体験をしたり、その気になればいろいろな方とつながることもできます。
これら一つひとつをいいチャンスであると思って、前向きに取り組んでほしいです。そのような機会は、必然的に選手としての成長につながりますし、次の自分のキャリアを考えるきっかけになることもあると思います。私としても、最終的に選手は自分のキャリアを自分で考えるようになってほしいので、そのサポートは何でもするスタンスでいたいと思っています。

【プロフィール】
公益社団法人 日本プロサッカーリーグ フットボール本部 育成部 松沢緑
2002年からJリーグキャリアサポートセンターの業務に従事する。現在は、フットボール本部育成部にて、アカデミー選手からトップチームの若手選手に向けた選手教育やキャリアサポートを担当している。

一般社団法人/労働組合 日本プロサッカー選手会 事務局次長 佐藤将司
2013年より一般社団法人/労働組合日本プロサッカー選手会にて、会員選手の個別サポートや事務局運営業務に従事。現在は選手向けの指導者ライセンス養成講習会の運営やJPFAトライアウトの運営統括を担当。2022年から事務局次長に就任。



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By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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