町田戦の勝利を喜ぶ喜田 [写真]=J.LEAGUE
今季からチームを率いていたハリー・キューウェル監督が16日に電撃解任され、ジョン・ハッチンソンコーチが暫定監督として後を引き継いだ横浜F・マリノス。開幕以降、不安定な戦いが続き、最たるものが、6月26日のアビスパ福岡戦から7月6日のガンバ大阪戦までの4連敗だ。
天野純は「この過密日程がチーム状態を大きく左右したと思います。僕らのサッカーはどれだけフレッシュな状態でやれるかが大きいので」と苦渋の表情を浮かべていたが、この時点で13位という順位は名門として受け入れられなかったに違いない。
続く7月14日の鹿島アントラーズ戦は4-1で勝利したものの、クラブは監督交代を決断。2021年にアンジェ・ポステコグルー監督の下でコーチを務めた新指揮官とともに再起を図ることになった。
新体制初陣となった21日のゲームは首位を走るFC町田ゼルビア戦。6月15日にホームで対峙した際には、ハイプレスでボールポゼッションを寸断しようとする相手の術中にはまり、1-3で敗れている。
「町田は前からのプレスも激しく、強度の高いチーム。それを把握しつつ、怖がらないでボールを受けること、みんながつながって動くことを共有し、マリノスらしさを出そうと意識して入りました」とキャプテンの喜田拓也は気合を入れた。
キューウェル監督時代は中盤を逆三角形にする4-1-2-3がベースだったが、ハッチンソン監督は昨季までの4-2-3-1に戻して試合をスタート。それが喜田ら中盤の連動性をスムーズにした側面は確かにあっただろう。
「これまでと変えたところはそこまで多くないけど、一緒にやる選手の良さを引き出したいという思いは常にある。良い判断ができれば、絶対にチームのプラスになるので、しっかりと責任を持って進めました」と喜田は確実に周囲を動かしつつ、ベストバランスを取るように仕向けていった。
そのマネージメントが奏功し、横浜FMは主導権を握る。そして30分にエウベルが昌子源からPKを誘い、アンデルソン・ロペスが確実に決めて先制。前半終了間際の43分には右サイドのスローインからパスをつなぎ、最終的には左サイドを上がった加藤蓮のクロスをファーから飛び出した天野純が合わせて2点目をゲット。横浜FMらしい連動性と流動性が光った前半の戦いぶりだった。
「全ての面で気を配って穴を作らないように、チームを前進させられるように考えました」と喜田は語ったが、立ち位置とサポートのうまさは一見の価値があった。彼自身も今季は思うように結果が出ず、悩み苦しみ続けたに違いないが、いい意味で吹っ切れたようにも感じられた。
「ハリーとの挑戦が全て無意味だったとは思わない。その期間があったからこそ、マリノスらしさに関する発見や成果もあった。足りなかったこと、できなかったことを全員で受け止めて、悔しさも苦しさも含めてファミリー全員で進んでいったので、全てがつながっていることが改めて感じられました」と本人もしみじみ話す。志半ばでチームを離れたキューウェル監督の恩に報いる結果を残そうと躍起になっていたのは確かだ。
町田が攻め込んできた後半にしぶとく耐え続けたのも、強靭なメンタリティの表れだったに違いない。喜田も体を張って守備に入り、つなぐべきところは冷静につなぎ、配球を心掛けていた。どんな苦境に陥っても頭脳的かつ冷静なパフォーマンスを見せられるのが、この男の凄み。頼もしいキャプテンの存在は、苦境のマリノスの大きな力になっていると言っていい。
2-1でタイムアップの笛が鳴った瞬間、背番号8は両手をピッチに叩きつけ、歓喜を爆発させた。
「本当にシンプルに勝ちたかったですし、もう一度、強くチームと仲間を信じているということを示したかった。マリノスがいろいろな目で見られるのも分かっていましたけど、全員で見返しにいく意思表示はしたかった。『前向きにこれから進んでいくぞ』ということをみんなで共有できる時間だったと思います」
感情を爆発させた背番号8に心を揺さぶられたチームメイトやサポーターも少なくなかったはずだ。ここから横浜FMは這い上がれる…。そんな予感を抱かせてくれた、喜田の一挙手一投足だったのではないか。
24試合終わって勝ち点32の11位という現実はまだまだ受け入れがたいものがある。首位の町田との17ポイント差というのも気の遠くなるような数字だ。しかしながら、高みを目指すことを諦めるわけにはいかない。中断期間を経て、後半戦をどう乗り切っていくのか。今はそこに集中力を傾けるべきである。
アンデルソン・ロペスら前線3枚の外国人アタッカーが復調し、天野がコンディションを上げ、西村拓真というダイナモの復帰もあった。水沼宏太も9試合ぶりに出場するなど、好材料は少なくない。喜田が彼らを全力でサポートしていくことで、事態は一気に好転するかもしれない。今こそ、名キャプテンの真価を力強く示してほしいものである。
取材・文=元川悦子
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