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「たとえ今年がキャリア最後でも後悔なくできている」 今季苦境の徳島で柿谷曜一朗が見据えるものとは?

2024.08.26

横浜FC戦前、集中した表情を見せた柿谷 [写真]=J.LEAGUE

 今季は明治安田J2リーグ開幕から3連敗し、最下位スタートを余儀なくされていた徳島ヴォルティス。昨年8月に就任した吉田達磨監督が3月末に解任され、“愛弟子”島川俊郎(突如引退を発表して4月1日に退団。その後、7月に台中FUTURO加入)が退団。前年まで主力でチームを支えた西谷和希も4月4日に契約解除でチームを離れた(その後、ツエーゲン金沢加入)。チームに激震が走った。

 それでもヘッドコーチだった増田功作監督が昇格して何とか立て直しを図り、中断明け初戦だった8月3日の愛媛FC戦に勝利した時点で今季初の1桁順位に浮上。J1昇格プレーオフ圏内も現実味を帯びてきた。

 そこで重要な役割を担うと目されたのが、柿谷曜一朗。今季は途中出場中心で、まだノーゴールという34歳のベテランアタッカーに勝利を引き寄せる働きが強く求められた。

「ここ3試合で勝ち点6以上あれば、プレーオフが手の届くところに見えてくる。ヴォルティスにとっても僕の一個人のキャリアのおいても特別なものがある」と本人も目の色を変えて挑んでいたという。

 だが、11日のモンテディオ山形戦に0-1で敗れると、続く17日のファジアーノ岡山戦は1-1のドロー。ポイントを積み上げられなかった。となれば、24日の横浜FC戦で白星をつかむしかない。リーグ最少の総失点16という堅守を誇る相手守備陣を攻略するのは非常に難しいが、左シャドウで先発した以上、ゴールに突き進む必要があった。

 増田監督にとっても古巣対決ということで、ハイプレスに来る相手をポゼッションで裏返す準備を入念に行っていたという。しかしながら、開始早々の5分、自陣で柿谷のパスを受けた永木亮太が前後を挟まれ、バックパスしたところをユーリ・ララに突っ込まれ、いきなり先制点を献上してしまった。

「ミスした選手とかミスしたプレーがどうこうではなく、チームとして甘さがある部分を見つめ直さないといけない」と柿谷も反省していた。ここまで想像を絶する苦しみを味わいながら最下位を脱出し、ようやく上が見えてきた状況でこの失点はダメージが大きすぎたと言うしかない。

 その後、気を取り直して攻撃に打って出たが、柿谷はお膳立てに回るシーンが多く、得点機が巡ってこない。

「それが問題だとは僕は思ってない。ウチはクロスが少ないチームだから、チーム戦術の下で作りに加わると、どうしてもゴール前に行く回数が少なくなるから。僕自身のことを考えればゴールを取りたいですけど、チームが1点取れる状況を作り出すためにやっているので、ストレスはないです」と本人はフォア・ザ・チーム精神を前面に押し出しているが、チーム自体の総得点数が下から8番目の28というのはやはり改善すべき点。この日も結局、シュート4本しか打てず、後半に横浜FCのジョアン・パウロに2点目を食らって黒星となった。

「ウチのチームは最低でも8人が同じ絵を描かないとゴールに結びつかない。少しでもズレるとうまくいかなくなる。今回は(岩尾)憲君と(児玉)駿斗というアクセントを作っている大事な2人がおらんかったのも大きかったですね。でも、まだプレーオフを諦めたわけじゃない。勝負と位置づけた3試合で勝てなかったのは本当に悔しいけど、次に切り替えるしかない。次の強い清水(エスパルス)に勝てれば、監督へのいい恩返しになると思います」と柿谷は気丈に前を向いていた。

 彼にとって徳島に戻ってからの1年半は「サッカー人生において2番目か3番目にしんどい時期」だという。それでも、心が折れることなく戦い続けていられるのは、家族の存在があるから。妻・丸高愛実さんとの間に21日に第3子の長男が誕生。「損得なしに純粋に俺に向かってきてくれる存在ってホントにすごい」と彼は数年前、子どもについてしみじみ語っていたが、それが3人になったのだから、やりがいも3倍になったはずだ。

 指揮官やチームメートの支えも大きい。

「ベニ(ベニャート・ラバイン監督。2023年8月まで徳島を指揮)もそうやし、達磨さん、今の増田監督も本当に僕の辛さを何とか救ってくれていると思います。僕はどんどん現役ラストに向かっていく中で、いい監督とやって、いい終わり方、悔いのないサッカー人生にしたい。たとえ今年が最後だったとしても、後悔のないような形で今はできているなって思う。それが形になるようにしたいですね」と神妙な面持ちで語っていた。

 岩尾や永木らリーダーシップのある年長者もいる中、柿谷はより貪欲にゴールに向かうべき。名古屋グランパスに在籍した2022年にもシーズン無得点を経験してはいるものの、J2で同じ轍を踏むわけにはいかない。横浜FC戦を見ていても、強引に行ける場面でも村上悠緋ら仲間にパスを出す場面が目立った。それだけ”戦術を重んじる大人”になったということなのかもしれないが、柿谷はいくつになってもヤンチャなプレーヤーでいてほしい。

 今の徳島は6点の渡大生、5点の坪井清志郎らが主要な得点源だが、柿谷には彼らと真っ向から競うような鼻息の荒さを見せてほしい。ラスト10戦でゴール前での本来の輝きを放つ背番号8の姿を見たい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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