鳥栖でプレーしている清武弘嗣 [写真]=Getty Images
2012年のJ1昇格後、初の降格危機に瀕しているサガン鳥栖。8月8日に川井健太前監督を解任し、7月にテクニカルダイレクターに就任したばかりの木谷公亮氏を監督に据えたが、その後は浦和レッズに引き分けた以外、黒星が続いている。9月13日の川崎フロンターレ戦も勝ち点1まであと一歩と迫ったが、最後の最後にまさかの失点。4連敗となり、チームのダメージは大きかった。
それでも足を止めてはいられない。30試合終了時点では勝ち点24の最下位に沈んでいるが、ここから勝ち点3を積み上げていくことは不可能ではない。彼らはそう切り替えて、22日の東京ヴェルディ戦に挑んだ。
この日は累積警告で出場停止のキム・テヒョンが不在。普段はパリ五輪代表の木村誠二が3バックの中央に位置するのだが、この日は山崎浩介がセンターに入り、木村誠二が左、右に原田亘という最終ラインの並びになった。これが災いしたかどうか分からないが、前半18分に縦に抜け出した木村勇大を山崎が引っかけてしまい、好位置でFKを献上。これを名手・山田楓喜に蹴り込まれ、いきなりのビハインドを背負ってしまったのだ。
その後も攻守両面で立て直しを図り、応戦していたが、内容的には悪くないのに肝心のゴールが奪えない。0-1で前半を折り返すと後半も膠着状態に陥った。
そこで木谷監督は後半15分に中原輝を下げ、34歳のベテラン・清武弘嗣を投入。攻撃の活性化を試みた。その思惑通り、背番号55をつける男は巧みにライン間を取って起点を作り、敵に揺さぶりをかけ、チャンスを作る。流れも目に見えてよくなったが、ゴールをこじ開けるパワーがどうしても足りない。最終的に相手に2点目を奪われ、終わってみれば0-2の敗戦。ついに5連敗となり、ますます追い込まれてしまったのだ。
「チャンスは沢山作ったとは思うけど、決めきれないのはあと一歩二歩、何かが足りないんだろうなと。勝てない現状は苦しいですけど、公亮さんがやろうとしているサッカーをみんなが体現していると思う。監督が求めていることは、ほぼほぼみんなやれている、だからこそ、諦めずにやり続けるしかない」と清武は苦渋の表情を浮かべていた。
彼が「残留請負人」としてセレッソ大阪からレンタルで鳥栖に赴いたのは7月。当時はボールを大事にする川井監督体制で、経験豊富な清武を中心にチーム再構築が進んでいくと見られていた。
ところが、長沼洋一、河田篤秀、横山歩夢、河原創といった攻撃のカギを握る面々が次々と移籍。ヴィキンタス・スリヴカや久保藤次郎といった新戦力は加わったものの、短期間で勝てる状態に持っていく簡単なことではない。清武自身も木谷体制では後半から流れを変えるジョーカー的な役割を託されるようになり、彼なりにできることを最大限しようと必死に取り組んでいるという。
「出場時間は監督が決めること。自分はプロ生活が長いし、本当に与えられた時間で何ができるかだけを考えています。一番いい時の自分は間で受けてパスを供給して動いてというプレーだけど、鳥栖に来てやっと体も動くようになってきた。今日もパフォーマンスは悪くなかったし、残り7試合、続けるしかない」と本人も覚悟を口にする。
そんな清武だが、2010年の大分トリニータ、2013−14シーズンのニュルンベルク、2015−16シーズンのハノーファーなど、過去に複数回の残留争い経験がある。今こそ、それを糧にすべきなのだ。
「若い時は『自分がのし上がっていく』とか『自分が結果を出せば…』という気持ちでつねにいましたけど、年齢も重ねてベテランになった中で、今はサガン鳥栖というチームのためにやらないといけないと思います」
「このチームは本当にひたむきで真面目でいい選手が多い。良くも悪くも静かな選手が多いんで、そういう中で自分は明るくやることを心がけています。いじられることもあるし、全然そういうのでもいい。チームの雰囲気は悪くない。自分が引っ張るというよりも、明るくなることが一番大事ですよね」
彼がそんな話をするのも、ニュルンベルク・日本代表時代に共闘した長谷部誠氏の姿が脳裏に焼き付いているからだろう。長谷部氏は日本代表コーチになった今も時にいじられ役に回ることがあるが、そうやって周りをなごませ、前向きなムードを作ることに一役買っている。かつて「長谷部さんのように代表でキャプテンマークをつけてW杯を戦いたい」と語った清武にしてみれば、いくつになっても理想のベテラン像なのだろう。
長谷部氏とともに死力を尽くしたニュルンベルク時代は残留は叶わなかったが、鳥栖ではミラクルを起こさなければいけない。そのためにも清武自身がゴール・勝利に直結する大仕事をしなければいけない。出番が短くてもそれを遂行するのが「残留請負人」に託された命題と言っていい。
「1つ勝てばまた流れが変わると思う。次の(アビスパ福岡との)ダービーをきっかけに頑張りたい」と本人も改めて語気を強めた。残り7戦で17位・湘南ベルマーレとの勝ち点差8という現状は厳しいが、数少ない可能性を信じて前進することが肝要だ。
ここから先は背番号55の一挙手一投足がより重要度を増していくに違いない。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子