◆ 危機的状況の中で
8月末にペア・マティアス・ヘグモ前監督が更迭された第29節時点では、2試合消化が少ない状態で12位につけていた浦和レッズ。この段階では上位浮上も十分可能と見られていたが、マチェイ・スコルジャ監督就任後は初陣だった9月14日のガンバ大阪戦に勝利した以外、まさかの4連敗を喫し、気づけばJ2降格圏に沈む18位・ジュビロ磐田との勝ち点差は「4」にまで縮まっていた。
10月18日の東京ヴェルディ戦で逆転負けを喫した直後には、キャプテン・西川周作、スコルジャ監督と同時期に古巣復帰した原口元気がサポーターと意見を戦わせる事態に発展するなど、クラブ全体が重苦しいムードに包まれた。
こうした中、迎えた10月23日の柏レイソル戦。この試合は当初、8月7日に開催されることになっていたが、雷雨の影響で中止となり、日程変更されていた。奇しくも柏も残留争いに巻き込まれており、試合前の勝ち点は同じ「39」。万が一、ここで負けるようなことがあると、浦和としては本当に崖っぷちに追い込まれる。彼らの危機感は最高潮に達していた。
そこで腰を上げたのが、原口と関根貴大だった。21日の練習前に彼らが号令をかけて、約1時間の選手ミーティングを実施。ベンチ外になっている興梠慎三、宇賀神友弥らベテランも思いのたけを口にしたという。
原口も「僕はサポーターが思ってることを伝えました。自分も『お前、何しに帰ってきた』と言われた。その言葉を聞いて『確かにな』って思ってしまったし、このままじゃダメだと。ピッチで見せないといけないと感じました」と神妙な面持ちで語った。
◆ 自覚と覚悟と…
この日はスタメンから外れたが、「出たら何とかしてやろう」という気持ちでいっぱいだった。スコルジャ監督からは「後半に経験がほしい」と説明を受けたが、本人は「ヴェルディ戦のパフォーマンスが良くなかったから外された」という自覚を持っていた。その悔しさを必ずピッチでぶつけてやるんだと自身を奮い立たせながら。
両者とも負けられない一戦ということで、序盤から硬い展開となった。浦和は原口に代わって先発したサミュエル・グスタフソンが最終ラインに落ちながらビルドアップ。気の利いた縦パスも供給していた。だが、サイドからクロスが入らず、決定機を作れない。前半のシュート数は浦和が1本、柏が2本。どちらも攻めあぐねた印象だった。
後半に入ると、柏は山田雄士を投入し、攻撃のギアをアップ。圧倒的な個の力を持つマテウス・サヴィオ中心に相手陣内に攻め込んできた。浦和も59分には渡邉凌磨の縦パスからブライアン・リンセンが決定的なシュートを放つも、GK松本健太に阻まれる。スコアが動かないまま、ラスト15分というところまで時間が進んだ。
そこで浦和はグスタフソンと松尾佑介を下げ、原口と中島翔哉をダブル投入。そこから流れが変わり始める。原口はボランチに陣取りながらも前へ前へという姿勢を鮮明に押し出し、中島も流動的なポジション取りで敵をかく乱する。
そして後半アディショナルタイム。安居海渡のパスをペナルティエリアギリギリのところで原口が受け、左に走り込んだ関根にパス。関根がゴールライン際からマイナスのクロスを狙うと、DFの足に当たってバウンドしたボールにチアゴ・サンタナが反応し、左足でシュートを放つ。これが対応した立田悠悟の手に当たると、長いVAR判定の末にPKが認められ、チアゴが値千金の決勝弾を決め切った。
◆ 喜んでいる場合じゃない
原口は「タカ(関根)がシュートに行けるようなパスを意識しました。タカの反応が一瞬遅れたかなと思ったけど、そのおかげでオフサイドにならなかった。結果オーライでしたね。相手のハンドはチアゴが確信していたし、本当に勝ててよかった…」と心からの安堵感をにじませた。
これで連敗は「4」でストップ。ホーム・埼玉で勝利したのは6月30日のジュビロ磐田戦以来というから、いかに長いトンネルだったのかがよく分かる。原口にとっても、浦和復帰後、初のホーム白星。10年以上、遠ざかっていた「We are Diamonds」の大合唱を耳にして、感極まるものもあったはずだ。
「でも、1勝して喜んでる場合じゃないなと。何で俺たちは残留争いしてるんだろう…っていうい気持ちもあります。早くもう1勝して、とりあえず残留を決めて、来シーズンに向けて僕も変わらなきゃいけない。チームを変えなきゃいけないと思ってます」。原口は停滞感を打破すべく、目の色を変えて取り組んでいく覚悟だ。
◆ チームを救うために
日本では海外から戻ってきた代表経験者への期待値が非常に高いが、彼らがフィットするまでには時間がかかるもの。それは大迫勇也や武藤嘉紀もそうだった。原口の場合はシュツットガルトで1年以上、試合に出ていなかったのだから、トップフォームを求められても難しさがあるのは確かだろう。
しかも、ボランチというポジションも本来のよさを出せない一因になっている。浦和OBの多くが「元気はもっと前目の選手」と口を揃えるように、本人も柏戦のPK奪取に絡んだことで、それを痛感した様子だ。
「僕は早くチームを救える仕事をしたい。そのためにはやっぱり前かなと。そこは監督に伝えていこうと思います」と目をギラつかせる。チーム事情でボランチ起用が続くにしても、攻撃センスのあるグスタフソンと組み合わせて起用する形も模索すべきだろう。
いずれにせよ、原口という貴重なピースをどう使いこなすかで、浦和の今季終盤、来季の動向が変わってくる。この日の希望を確信に変えるべく、背番号78にはよりアグレッシブなプレーを前面に押し出してもらいたい。
取材・文=元川悦子(もとかわ・えつこ)
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By 元川悦子