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大舞台でのPK失敗から這い上がれ 2年で5カテゴリーを個人昇格した新潟FW長倉幹樹に託されるもの

2024.11.04

決勝では後半途中からピッチに立った長倉 [写真]=金田慎平

 2021年王者の名古屋グランパスにファイナル初進出のアルビレックス新潟が挑む構図となったYBCルヴァンカップ決勝。35歳の快速FW永井謙佑の前半の2ゴールで名古屋がリードし、2度目のタイトル獲得大きく近づいたと思われたが、試合は一筋縄ではいかなかった。新潟の後半からの粘りはすさまじいものがあった。

 国立競技場に押し寄せた62000人超の大観衆の半数以上を占めた新潟の大サポーターの声援を受けた選手たちは71分に谷口海斗が1点を返し、反撃ムードに打って出た。そして後半終了間際に途中出場の小見洋太がPKを奪い、確実にゴール。2-2の同点に追いついて延長戦に突入した。

 その延長戦も小見にPKを献上した名古屋の中山克弘が3点目を奪って先手を取ったと思いきや、111分に再び小見が同点弾をゲット。勝負の行方はPK戦に委ねられた。

 張り詰めた緊迫感の中、新潟の秋山裕紀、名古屋の稲垣祥がそれぞれ成功。次に出てきたのが新潟の長倉幹樹だった。

 ゴール右側を狙って思い切り右足を振り抜いたが、ボールはまさかの枠の外。本人は両手で顔を覆うしかなかった。結局、その後は全員が成功。新潟はあと一歩まで頂点に近づきながら、初戴冠を逃してしまったのだ。

「自分のせいで負けてしまったと思います」

 ピッチ上で号泣し、表彰式でも涙が止まらなかった背番号27は伏し目がちにミックスゾーンに現れ、改めて肩を落とした。

「自分の技術力がなかった。右の方で枠の中を狙っていましたけど、『ああ、外れてしまったな』と。意外と普通のメンタルだったんですけど、入らなかった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と言葉を絞り出していた。

 それでもキャプテンの秋山は「決勝に来られたのは本当に彼の力。(9月4日の)準々決勝のFC町田ゼルビア戦で4点を決めて、ファーストレグであれだけの点差をつけられたことで、自分たちは戦いを優位に進められた。彼には感謝の気持ちしかないです」と語り、真っ先に慰めた。それはチーム全員の共通する思いだったに違いない。

 小見の2点目のスルーパスに象徴される通り、背番号27の存在感は絶大だった。今大会6ゴールで得点王に輝いた結果も含め、25歳の成長株なくして、新潟の躍進はあり得なかったと言っても過言ではないだろう。

 長倉は浦和レッズユース出身。同期には日本代表の橋岡大樹、ディナモ・ザグレブでチャンピオンズリーグ参戦中の荻原拓也がいる。だが、彼らとはかけ離れた地道なキャリアを歩んできた。浦和でトップ昇格が叶わず、順天堂大学に進むも、プロから声がかからず、2022年に関東1部リーグの東京ユナイテッドFCへ。当時はアルバイトしながら生計を立てていたという。

 苦労人をザスパクサツ群馬(現ザスパ群馬)に引っ張ったのが、ユース時代の恩師である大槻毅監督だった。群馬では2022年後半戦に2ゴール、2023年前半戦に5ゴールを挙げ、一気に注目度を高めていた。昨夏、荻原は「幹樹はユースの頃からもともといい選手だったから」と話していたが、その直後に同じJ1の新潟に引き抜かれるという想像はしていなかったかもしれない。

 結局、長倉は1年間で5カテゴリーを駆け上がり、さらに1年後にはルヴァンカップ決勝の大舞台に立っていた。PK失敗という悔しい結末を強いられたかもしれないが、こういう成り上がり組の選手がいるということを多くの人々が認識したことには大きな意味がある。

「下からでも上の舞台に来られるという可能性を自分が示せていると思うし、下にいる選手の希望でありたいなと。自分が頑張ることで、下の選手も頑張れるのかなと思います」と本人もしみじみと語っていたが、新潟というチームはそういう”雑草集団”だ。

 谷口も当時J3のいわてグルージャ盛岡、ロアッソ熊本がプロキャリアのスタートだし、秋山もアスルクラロ沼津や鹿児島ユナイテッドFCといったJ3へのレンタルを経験している。彼らがGKからのポゼッションというハイリスクな戦術を貫き、堂々と戦い抜いたことを前向きに受け止めた人は少なくなかったはず。長倉も人生の糧になる経験をしたと言っていい。

 振り返ってみれば、FIFAワールドカップカタール2022でも南野拓実、三笘薫といった面々がPKを失敗も、糧の一つにして大きな飛躍につなげている。まだ成長途上の長倉も同じような軌跡を辿れるはず。ヨーロッパでタフに戦っている橋岡や荻原の領域を目指し、この悔しさをバネに凄みを増していくことが重要だ。

「自分が足りなかったのは、決め切るべきところを決め切れないところ。今後は勝たせられる選手になりたい。自分でいい方向に向かうように頑張りたいと思います」と自分に言い聞かせるように語った長倉。さしあたって向かうべきなのは、今季リーグラスト3戦だ。新潟はまだJ1残留が決まっていない。

「こういういいチームがJ2に落ちるのだけは回避しないといけない」と小野裕二も語気を強めていたが、ルヴァン得点王が攻撃陣を力強くけん引していかなければいけないのは確かだ。

 12月8日の最終節は古巣である浦和との対戦になる。そこで成長した姿を示し、この日の屈辱感を晴らして、チームもJ1に残れれば理想的。長倉の爽やかな笑顔を見たいものである。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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