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「まだまだ足りない」…名古屋の重鎮ボランチ・稲垣祥がルヴァン制覇で抱いた新たな決意

18時間前

ルヴァン杯優勝に貢献した稲垣祥 [写真]=金田慎平

 2024年シーズン最初のタイトル・2024JリーグYBCルヴァンカップの頂点を賭け、11月2日に行われたファイナル・名古屋グランパス対アルビレックス新潟戦。季節外れの悪天候に見舞われた東京・国立競技場で両者ともに一歩も譲らず、120分の壮絶な死闘を繰り広げた結果、最終的に頂点に立ったのは名古屋だった。

「いや本当に長かったね。長かったけど、試合の中でこれだけのいろんなストーリーがあった。俺はそういうのは結構好きだなと思います」と爽やかな笑みをのぞかせたのが、攻守の要・稲垣祥である。

 32歳のベテランボランチが言うように、この日の決戦はさまざまなドラマが凝縮されていた。

 名古屋で言えば、前半に2点を叩き出した永井謙佑は長谷川健太監督の下で2020年のルヴァン優勝を経験。恩師に名古屋初のタイトルを取らせようと躍起になっていた。その永井に2点目をアシストした和泉竜司は市立船橋高校のエースとして同じ国立で13年前に高校選手権を制覇。それ以来のタイトル獲得に燃えていたのだ。

 後半終了間際に小見洋太にPKを献上し、2-2の同点に追いつかれた中山克広が延長前半3分に3点目を奪ったのも劇的な展開だった。

 そして最後のPK戦で新潟の前に立ちはだかった守護神、ミチェル・ランゲラックは今季限りでの退団が決まっている。前主将の稲垣は「ミッチが自分の後にキャプテンをやってくれてよかったし、本当に全力でサポートしようと思えるリーダーだった」と絶賛。2人で優勝カップを掲げるという感動的な瞬間も共有した。

「2-2になって、そこから粘り強く戦うっていうのは簡単なことじゃない。それを決勝の舞台で出せたのは、今までの積み上げがあったから。正直、今年は難しい時間も多かった。本当にあらゆる出来事が120分間にグッと凝縮されたのかなと思いますね」と彼はしみじみと感動を口にしていた。

 山あり谷ありの今季にあって、やはり稲垣の果たした役割は非常に大きいものがあった。今季はここまでリーグ35試合中32試合に先発。開幕3連敗や5〜6月のJ1・7戦未勝利の時期も力強くチームを支えてきた。

 ボランチのパートナーもシーズン途中に米本拓司から椎橋慧也に代わったが、新たな連携を確立。新潟とのファイナルでも中盤の安定感が光った。

「あいつが勝手に『(稲垣君と)顔似てきました』みたいなことを言ってるらしいけど、俺は認めてないんだけど(苦笑)。まあでも、お互いの役割ややりたいことはしっかり分かってやれてるし、円熟味はちょっと出てきたかなっていう感覚はあります。言葉にすると難しいんですけど、『ここは下がるな』とか、『ここにパス出すな』とか、『あいつだったらここに顔向けるな』とか、細かいところなどが何となく分かってきた。ヨネ君とはすでにそういう感覚ができていたけど、同じようなレベルになってきたのかな」

 稲垣は前向きにコメントしていたが、扇の要であるボランチが阿吽の呼吸でプレーできなければ、勝てるチームにはならない。名古屋が苦境を乗り越え、1つの成果を残せたのも、彼らの力によるところが大だと言っていいだろう。

 稲垣自身にとっては、2021年のルヴァン制覇以来、2つ目のタイトルとなったわけだが、「まだまだ足りない」という思いが強いようだ。確かに小笠原満男、遠藤保仁、長谷部誠、といった日本を代表するボランチたちは数えきれないほどのタイトルを手にしている。かつてサンフレッチェ広島で共闘した先輩・青山敏弘にしてもそう。それに比べたら、「自分は発展途上」という気持ちになるのもよく分かる。

「今年、アオさんが引退しますけど、アオさんはもっともっと多くのタイトルを取っている。自分もアオさんに追いつき追い越していかないといけない。俺はまだまだ満足しちゃいけないんです。自分も30代になりましたけど、そういういいベテラン選手がいるかどうかでチームの出来も変わると思う。そこらへんは自覚を持ってやっていきたいです」と彼は改めて語気を強めていた。

 今年に入って長谷部、青山、細貝萌といった年長のボランチが続々とユニフォームを脱ぐ中、ここからは稲垣がJリーグの看板になっていくべき。それだけの能力と実績が彼にはある。そのためにも、もっともっとチームを浮上させていくことが肝心。まずは目先のJ1に目を向ける必要があるだろう。

 目下、名古屋は10位。前半戦の苦境を考えれば、すでにJ1残留を決めている現状は悪くないのかもしれないが、ラスト3連勝して順位を上げて終わりたいところ。対戦相手は鹿島アントラーズ、サガン鳥栖、横浜F・マリノスという難敵ばかりだが、ルヴァン王者として強さを示すことが彼らには強く求められているのだ。

 稲垣にはしっかりとチームの手綱を引っ張ってほしいところ。見る者を唸らせる頭脳的なプレーを楽しみに待ちたい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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