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オウンゴールからPKまで演出満載の引退試合 黄金世代のGK南雄太が伝えたかったこと

5時間前

引退試合で子どもたちと記念撮影に応じる南雄太 [写真]=Getty Images

 中村憲剛、松井大輔、槙野智章ら12月の引退試合ラッシュの”大トリ”を飾ったのが、2023年末に引退した黄金世代の守護神、南雄太だった。

 21日にNACK5スタジアムで行われた引退試合には、横浜FC時代の同僚である三浦知良や中村俊輔、松井大輔、1999 FIFAワールドユース選手権準優勝メンバーの小野伸二、高原直泰、稲本潤一、偉大な先輩GKである川口能活と楢崎正剛も参加。豪華な面々と久しぶりの共演が実現した。

 静岡学園1年だった1995年度の第74回全国高校サッカー選手権大会で優勝GKになってから、目覚ましい勢いで表舞台にのし上がった。1997年、1999年ワールドユースに連続出場し、1998年にプロ入りした柏レイソルでも1年目から定位置を確保した。

 GKというのは1人しか出られないポジションだが、南は柏のラストイヤーだった2009年、横浜FC時代の2017年、大宮アルディージャの最終年だった2023年を除いてすべて2桁以上のリーグ戦に出場。惜しくもオリンピックやワールドカップには出られなかったものの、ここまでコンスタントな実績を残した守護神は皆無に近いだろう。

 だからこそ、これだけのメンバーが一堂に介したわけだが、最後の大舞台はユニークな演出満載だった。まず始球式では父の雄太が守る中、長男の太童(城西大学GK)がPKスポットから手でボールを投げ込み、観衆を湧かせた。本番突入後は自身がPKを蹴って失敗したり、柏時代の後輩である菅野孝憲と2トップを組んだりと数々の見せ場を作った。

 そして10-9で迎えた後半終了間際、南自身が前線にボールを出そうとして自陣のゴールに投げ込んでしまう。次の瞬間、家本政明主審がVARのボードを掲げると、ビジョンには2004年5月のサンフレッチェ広島対柏が映し出された。同じようにボールをスローしようとしてゴールに投げ入れてしまった公式戦での南の痛恨のオウンゴールのシーンである。「これをやらないとエンタメとして寒い」と本人も語ったが、この1点が認められて10ー10。試合はPK戦へともつれこんだ。

 最後はカズのシュートを自身が止めてフィニッシュ。大団円を迎えたわけだが、南自身が人選をすべて決めたというPKキッカーの中に2028年のロサンゼルスオリンピック世代のトップを走る19歳の大宮DF市原吏音が入っていたのは、一つの特筆すべき点。若い世代に今後を託したいという思いがあったからだろう。

「吏音は可能性しかない。あのサイズ(187センチ)で身体能力が高くて足元もうまくて、本当に今っぽい選手。人間性も抜群だし、良くなる要素がすごくある。こういう経験をするとまた見え方も変わってくると思って声をかけました」と南は神妙な面持ちで言う。

「17~18歳でプロデビューしたことをニュースで見たことがあるけど、その選手が彼なんだなと。その若さで引退試合に出るというのはなかなかない。俺もラモス(瑠偉)さんの引退試合に出させてもらってビックリしたけど、そういうのは残るからね。雄太からしたら『頑張れよ』ということだと思うし」と、中村俊輔も高校時代から知る1歳年下の盟友の気持ちを代弁していた。

 南は日本サッカー界でFIFA国際大会のファイナルを経験したただ1人のGK。一方の中村俊輔もチャンピオンズリーグでゴールを決めている選手である。そういった面々から目をかけられた市原はこの日の刺激を今後の糧にしなければいけない。来季の大宮アルディージャでの躍進はもちろんのこと、2025年9月からチリで開催されるFIFA U-20ワールドカップへ導くことが強く求められるのだ。

「僕らが出たナイジェリア大会の時は、スペイン以外の対戦相手が『メチャメチャすごい』と感じたことはなかった。小野伸二よりうまいやつはいないと思ったし、伸二という基準があった」と南は改めて25年前の日々を述懐したが、市原にもそんなハイレベルな経験をしてほしい。引退試合参加者たちは彼に輝かしい日本の未来を託したことだろう。

 南にはもう一つ、発信したいことがあった。それは日本人GKのレベルアップの重要性である。この1年、彼は横浜FCのアカデミーを筆頭に小中高生や社会人など幅広いカテゴリーのGKを指導する機会に恵まれたが、まだまだ地位向上や環境改善が必要だと感じている。

「GKを目指す子供がもっと増えてほしいし、憧れの存在になってほしいと現役の頃からずっと思っていました。それに日本は環境がまだまだだなと。芝生のグラウンドが増えていかないとヨーロッパのGKのようなダイナミックなセービングは難しい。土のグラウンドだとどうしても恐怖心を抱いてしまうところがある。そこは良くしていきたいですね」と強調していた。

 昨今は鈴木彩艶のようにヨーロッパ5大リーグで定位置をつかめるGKも出てきているが、もう一段階引き上げることが、日本代表のワールドカップ優勝につながるという考えもある。

「やっぱりチャンピオンズリーグやスペイン、プレミアリーグでレギュラーになる日本人選手が出てきたら、基準がもっと高くなる。彩艶くんにはさらに飛躍してほしいですし、シュートストップが日本人で一番うまい中村航輔にはぜひ代表に戻って彩艶くんとレギュラー争いをしてほしいですね」と改めてエールを送った。

 中村を筆頭に、代表に名を連ねている大迫敬介、谷晃生、その下の世代のGKも含めてハイレベルなバトルが繰り広げられるようになってこそ、日本代表も本当の意味で強くなる。

 南の言葉が多くの人々に届いてほしい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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