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東京Vの背番号10、木村勇大が逆転勝利の原動力に 3戦連続ベンチの苦境を支えた存在とは?

2025.03.17

名古屋戦でフル出場した木村 [写真]=J.LEAGUE

 第5節終了時点で16位の東京ヴェルディと最下位の名古屋グランパスが顔を合わせた16日の一戦。序盤の苦境から抜け出すためにも、両者ともに絶対に負けられなかった。

 先手を取ったのは、崖っぷちの状況である名古屋だった。長谷川健太監督の抜擢に応えた2シャドーの森島司と浅野雄也が躍動。21分に浅野がゴール前に上げたパスから稲垣祥のヘッド。これに反応した森島が先制点を挙げることに成功する。

 前半の東京Vは間延びした状態が続き、相手にいいように保持されてしまう。加えてキャプテンの森田晃樹が負傷交代。苦境に追い打ちをかけることになった。

「これはいつもの俺らじゃない」

 ハーフタイムに城福浩監督の檄が飛ぶ中、今季から背番号10を背負う木村勇大は「前から行く、前にボールを入れる姿勢を前面に押し出そう」と決意を新たにしたという。

 後半頭から山見大登がシャドーに入り、新井悠太が左サイドに移動。翁長聖が右サイドに回るという配置変更も奏功し、東京Vは一気にギアを上げていく。木村も体を張ってボールを収め、しっかりと起点を作るようになった。

 それがゴールという形で結実したのが、63分。谷口栄斗のロングパスを木村が収め、染野唯月が一目散に敵陣を駆け上がり、最終的にフリーの山見に渡ったのだ。山見は持ち前のスピードでゴール前に侵入し、左足を一閃。GK武田洋平のキャッチミスもあって、同点弾が生まれた。

 そうなると、今季未勝利の名古屋は落ち着きを失ってしまう。東京Vは一気に畳みかけ、73分に山見の右CKから188センチの長身DF綱島悠斗が豪快なヘディング弾を決める。マークについていた河面旺成を巧みな動きではがして奪った一撃が決勝点となり、東京Vは逆転勝利。勝ち点を7に伸ばした。

「真ん中で木村に起点を作られてしまった」と長谷川監督は試合後の会見で悔しさをにじませたが、背番号10の貢献度の高さは目を引くものがあった。

「後半から後ろからボールを入れる回数も増えましたし、ボール蹴る準備ができたら自分も動く意識を強めました。前が動かないと後ろも蹴れないと思うんで、そこは助け合いながらやりましたね。ああいう展開になったら自分の良さも出てくる。今日は久しぶりに自分らしいプレーを出せたと思います」と本人も納得の表情を浮かべていた。

 しかしながら、今季序盤の木村は思い描いた通りに物事が進んでいなかった。2月16日の開幕戦の後の3試合でスタメン落ちを強いられたのである。

「今年は立場も変わり、強い自覚を持って臨んでいました。そこで開幕に負けて、外された。気持ち的には昨年外された時以上に落ちる部分がありました」と本人も言う。

 城福監督はその間、山田剛綺を1トップに据えた。山田は木村の関西学院大学時代の同期。献身的かつアグレッシブなプレースタイルを誰よりもよく理解している。その一挙手一投足を目の当たりにしながら「自分に何が足りないのか」を木村は考え続けたが、スッキリと心が晴れるわけではなかった。

 そんな悩めるエースに寄り添ってくれたのが、森下仁志コーチだった。

「(3月2日の)ガンバ大阪戦で剛綺が左ひざをけがして、ソメ(染野)が出たんですけど、僕は最後のちょっとしか出られなかった。『なんでこんなことになっているんだ』と自分に腹が立ちましたし、不安とかモヤモヤ感がすごくありました。その次の日が練習試合だったんですけど、仁志さんがクラブハウスに呼んでくれて、1時間くらい喋りました。いろいろな話をしましたけど、僕が涙する中、仁志さんも泣いてくれたんです。その姿を見て『俺はベクトルを外に向けている場合じゃない』と痛感した。『この人のために俺は走りたい』と強く思ったんです」

 高校生相手ならいざ知らず、プロフェッショナルの指導者が1人の選手にそこまで感情移入するケースは少ない。過去に鎌田大地や中村敬斗を大きく伸ばした森下コーチはそういう情熱的なタイプの人物なのだろう。

「仁志さんは僕のことを一番気にかけてくれて、ずっと見てくれているので、思っていることは全部言うようにしています。あの時もそうだった。それでモヤモヤを取り除けて、次の(3月8日のアルビレックス)新潟戦で先発復帰して初ゴールできた。そこから1週間後の名古屋戦だったので、本当に前向きになれましたね。この先も期待に応えられるような選手になっていきたいと思っています」と名門の新10番は“奇跡の出会い”に感謝しつつ、目を輝かせた。

 実際、今季の東京Vは攻撃陣の競争が非常に激しい。名古屋戦で1ゴール1アシストという結果を残した山見でさえも先発をつかみ切れていない。最前線も山田が長期離脱したとはいえ、好調の染野もいる。「僕も全然安泰だとは思っていない」と木村も今一度、気を引き締めて、チームをけん引していく覚悟だという。

 今季の海外移籍を封印し、残留を決断した以上、彼にはもっともっと結果を残す責務がある。ここからのゴール量産とチームの躍進を楽しみに待ちたい。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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