[写真]=元川悦子
いよいよ2月6日に明治安田J1百年構想リーグが開幕する。ご存じの通り、同リーグは8月開幕に移行する2026/27シーズン直前の特別大会。昇降格はないものの、優勝チームにはAFCチャンピオンズリーグエリートの出場権が与えられる。
2025年FIFAクラブワールドカップではグループステージで敗退し、「もう一度この舞台に戻りたい」と切望する浦和レッズにしてみれば、これは何としても手にしたい権利だ。そのためにも、2025年のJ1リーグで45得点に終わった攻撃面の改善は必須。新たな得点源として大きな期待を寄せられているのが、桐蔭横浜大学から加入したルーキーFW肥田野蓮治である。
JFA・Jリーグ特別指定選手ながら、先発に抜擢された昨年のアウェイ・ファジアーノ岡山戦では決勝弾。見る者を驚かせた若武者は浦和に何をもたらすのか。7日のジェフユナイテッド千葉戦で開幕スタメンの可能性もある22歳のアタッカーの本音に迫ってみた。
取材・文=元川悦子
先発抜擢の岡山戦で鮮烈弾!「LINEは100件くらい来ました(笑)」
――浦和はマテウス サヴィオ選手を筆頭に、2列目のアタッカーが充実したチームです。そういった環境にあえて飛び込んだのはなぜですか?
肥田野 自分が今まで見てきたJクラブの中で、浦和は“特別なクラブ”だと感じていました。サポーターの熱量はもちろんのこと、揃っている選手も世界レベルに近かった。練習参加した時の衝撃は凄まじいものがありました。そういうクラブからオファーを受けたのは本当に有難いことです。迷わず加入を決めました。
――印象的な浦和の試合はありますか?
肥田野 2023年のACL制覇ですね(決勝戦でアルヒラルと対戦)。その時は自分が浦和に行くとは全く考えていなかったんですけど、フラットに見ていた中で「強いな」と強く感じました。その前の2007年、2017年のACL制覇は記憶にないですね。
――昨季のJ1第37節・岡山戦の72分に鮮烈なゴールを決めました。先発を伝えられたのはいつでしたか?
肥田野 あの時期は特別指定選手として練習参加をしていました。一週間前の練習試合でスタメンとして使ってもらったので「もしかしたら次の岡山戦もあるんじゃないか」と意識し始めました。そのまま試合前日までどうなるか分からなかったんですけど、セットプレー練習でスタメンだと分かりました。「練習参加しているからには先発で出たい」という気持ちはあったので、そんなに驚きはなく「結果を残してやろう」と開き直ってプレーできました。緊張はなかったですね。
――肥田野選手は4-2-3-1の2列目右サイドでプレーし、中島翔哉選手のパスに鋭く反応して左足を振り抜きました。9~10月の浦和はリーグ戦の得点が「1」。深刻な決定力不足に陥っていました。だからこそ、肥田野選手のゴールのインパクトは大きかったと思います。
肥田野 チームとして得点を取れていなかったことは、あまり意識していませんでした。自分は「練習でやっていることを全部出そう」とだけ考えてピッチに立っていました。得点シーンも実際に練習で何回かあった形だったので、リラックスしてシュートまで持っていけました。GKの(スベンド・)ブローダーセン選手(現川崎フロンターレ)との1対1も特別意識せずに蹴り込むことができましたね。運も多少はあるでしょうけど、やっぱり準備の部分が大きかったのかなと感じます。反響も大きくて、LINEは100件くらい来ました(笑)。両親も見に来てくれていたので、すごく喜んでくれたのは嬉しかったです。
――正式加入前に名刺代わりの一撃を決めて、2026年に突入しました。沖縄キャンプでは沖縄SV、京都サンガF.C.との練習試合でも2ゴールを決めています。ここまでの仕上がりはいかがですか?
肥田野 2ゴールでは個人的にまだまだ足りないですけど、昨季のJ1で上位にいた相手から得点を取れたのはすごく自信になりました。ただ、決定力や守備の部分、周りとのコミュニケーションを含めて課題は多いです。(マチェイ・)スコルジャ監督から求められることを、高いレベルでこなせないとスタメンは難しいと思っています。今は隙のない選手になることを目指しています。
――ここまでは1トップで起用されるケースも多いようですがいかがですか?
肥田野 キャンプではFWと右サイドが半々でしたね。どちらにしても自分がフィニッシャーになる形が多いと思います。サヴィオや(渡邊)凌磨君を筆頭に攻撃陣はみんな上手いですし、中央から鋭いパスが来る。自分のスピードをより生かせる環境ですね。これまでは外から浦和を見ていて、背後の動きは少し足りなかったところだと思っています。監督もそこを求めてくれますし、自分の特徴がうまくマッチするのかなと前向きに捉えています。
――昨季の浦和は7点を挙げた渡邊凌磨選手が最多スコアラーです。突出した得点源不在に苦しみました。
肥田野 例えば凌磨君だったら、2列目・3列目から飛び出して行けますし、運動量も多い選手です。自分が落ちて抜け出すといった連動性を構築できれば、もっと得点チャンスが増えてくると思います。サヴィオや(金子)拓郎君といった選手たちも同様です。良い関係を築くことができれば、全員が数字を伸ばすことができると感じています。自分は百年構想リーグで「5点以上」という目標を掲げています。(地域リーグラウンドは)18試合あるので、そのくらい取ることができればチームに貢献できるかなと。前でも右でもどちらでもやれるのは自分の強みです。そこでスピードを生かしたラインブレイクだったり、左足のシュートを見せて、チームが苦しい時に得点を取れる存在になることができれば一番です。思い切ったプレーをチームにもたらしたいです。
“反骨心”をバネにプロ入り「目の前の勝負を一つひとつクリアしてチャンスを掴んできた」
――肥田野選手は本当にギラギラした印象ですが、その原動力はどこから来ているのでしょうか?
肥田野 ここまでのサッカー人生で悔しい思いをたくさんしてきたことが大きいですね。まずFC東京U-15深川からユースに上がれなかったことが最初。その悔しさが“反骨心”につながった部分は確かにありました。関東一高時代はコロナ禍真っ只中。高3で出場した高校サッカー選手権(第100回大会)も、史上初のベスト4入りを果たしたのに、コロナ陽性者が出て準決勝の大津戦を辞退することになりました。あの選手権でサッカーを辞めるチームメートも多かったですし、「プロになってほしい」と言われていたので、みんなの想いを持ってここまでプレーし続けてきました。とはいえ、高卒でプロになれる力がないことも自分で分かっていましたし、桐蔭横浜大もすんなり入れたわけではなかったんです。最初の練習参加では不合格となり、もう一回お願いして練習参加をさせてもらうことになりました。そこで認められたのか、何とか入ることができたんです(苦笑)。そこから必死に這い上がって、今の浦和入りを掴んだ。自分は大きな目標を持って進んで行くというより、目の前の勝負を一つひとつクリアしてチャンスを掴んできたタイプ。そのスタンスで今季も地道に実績を積み重ねていこうと思っています。
――肥田野選手も出場した選手権では、優勝した青森山田高の松木玖生選手(サウサンプトン)がスーパースターと位置づけられていました。その松木選手は今、海外で苦しんでいて、当時そこまで騒がれていなかった鈴木淳之介選手(コペンハーゲン)、佐野航大選手(NEC)はここに来て急成長しています。同い年の選手たちの姿を見て、何か感じることはありますか?
肥田野 松木選手がFC東京入りして開幕スタメンを掴んだのを見て、単純に「すごいな」と思っていました。鈴木選手や佐野選手もJリーグを経験してすぐ海外に行っていますし、自分も「そうならなくてはいけない」と気持ちを奮い立たせています。今、松木選手がサウサンプトンで苦労している姿を目の当たりにすると、プロの世界の怖さも感じます。自分はこれからプロキャリアをスタートさせるところですけど、もっともっと成長できると感じていますし、仮に挫折に直面したとしても自分には“反骨心”があるから、必ず立ち上がれると信じています。まずはこの百年構想リーグで試合に出ることが第一の目標。優勝してACLEの出場権も手にしたい。自分が少しでもチームの力になれればという気持ちです。
――大学で学んだことも力になりそうですね?
肥田野 そうですね。大学ではスポーツ健康政策学部で、トレーナー資格を取れる学科に在籍していました。ケガや体のケアなどのことを勉強しました。教職は取らなかったですけど、体のことをいろいろな角度から知れたのは、プロ選手をやっていく上でプラスになると思います。大学時代はサッカーの練習・試合と授業が重なって本当に喰らいつくのに必死で、めちゃくちゃ忙しかったです。浦和に入ってから自分に使える時間が増えたなと実感しています。僕はもともと一人でゆっくりするのが好きなんですけど、サッカー以外の時間が多くなったので、いろいろなことをのんびり考えながら過ごして、次への活力にしています。
――さて、いよいよ百年構想リーグが始まります。開幕はアウェイで千葉と対戦します。
肥田野 僕は千葉県(習志野市)出身です。フクダ電子アリーナは選手権でも戦った思い出深いスタジアムなので、すごく楽しみですね。第2節は中学時代を過ごしたFC東京が相手ということで、浦和に入る前に練習参加もさせてもらっていますし、選手もスタッフも知っている人ばかりなので、もし試合に出られたら成長した姿を見せたいです。第3節の横浜F・マリノス戦は、大学の後輩に当たる関富(貫太)がいます。彼は2年で退部して横浜FM入りしたんですけど、昨年まで一緒にやっていましたし、左サイドバックの選手なのでマッチアップできたら非常に面白いかなと感じます。その次はホーム開幕の鹿島アントラーズ戦。昨季優勝したチームですし、凄まじい雰囲気になると思うので、今から本当にワクワクしています。
――肥田野選手が目指すプレーモデルはありますか?
肥田野 好きな選手は元ブラジル代表のロナウドです。父からビデオをもらって何度も見ましたけど、強さと速さ、しなやかさがあって何でもできるFW。見ていて胸がトキめきました。ワールドクラスになるためには、全てが高いクオリティでできないといけない。強みであるスピードやシュート力を大事にしつつ、苦手をなくせるように努力していきます。
ここまで“反骨心”をバネに這い上がってきたスピードスターの肥田野。仮に千葉戦でスタメンを勝ち取れば、1997年の永井雄一郎、1999年の盛田剛平以来のルーキーFW先発となる。そこで得点を奪い、浦和に新風を吹かせてくれればまさに理想的。大器の予感を漂わせるアタッカーの一挙手一投足が、今から楽しみで仕方がない。
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By 元川悦子




